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【不妊治療】第2章【手探りの治療1】真夜中のマラソンレース

真夜中のマラソンレース

平成7年2月

それから、主人にも薬と、注射による治療が始まった。
毎日三度の食事の後、薬を飲み、2週間に一度通院し注射を受ける。
3月の中旬が次の通院予約日となった。

初めての検査から3ヶ月薬を飲み続け、注射をし、その後の状況を診るという事で、その日の≪宣告≫は終わった。

あれから主人が薬を飲み始めて、もう1ヶ月半以上経っている・・・注射にも何度か通った。
3月中旬・・・今からまだ1ヶ月も先だ・・・少しでも改善されている事を祈る

その後、私の通院日に、泌尿器科での結果を婦人科のS医師に告げた。
当然、泌尿器科からもその検査結果はまわってきていた。

まず、S医師は『人工授精』(AIH)を進めてくれた。
主人が≪造精機能障害:精子減少症≫である事が分かった以上、自然妊娠は望めない。
そして、私達にとって初めての人工授精の日が決まった。平成6年12月24日実施。クリスマス・イヴだ・・・。

前もって内診を受け、基礎体温と相談し、子宮内と卵巣の状態をエコーでうつしだし、前日の23日も祝日にかかわらず通院し、24日の実施に臨んだ。しかし、23日の内診で、まだ排卵がおこりそうにないと診断され、年末ということもあり来月に人工授精を見送った

仕事を休んだり通院したり内診を受けた事も、無駄になっていく・・・。
こんな事がこれから幾度となく続くのだろうか・・・不安になる。

年末、仕事納めをし、大晦日、主人の郷へ行く

口には出さないが孫を心待ちにする義母に『普通には子供が望めない状況』である事を話さなければならない。
つらい宣告を受けまだ2週間ほどしか経っていないのに。

義母にとってもショックだろう・・・普段から言葉少ない主人は、食後に薬を飲む事をきっかけに「何のお薬?」と聞かれ、ようやく不妊の事実を義母に告げた

主人には2人の妹がいる。二人共嫁いで、それぞれに子供がいる。

私の姉にも、2人の子供がいる。
その上、姉には今、お腹の中にもう一つの別の命がある。
同じ姉妹に生まれながら、いささか不公平を感じないわけじゃない・・・。

主人は長男であり、跡取だ。いまどき古いかもしれないが、やはり、両親に孫を・・・そう思う立場なのに。

自然に子供が出来た人には分からないだろう・・・何の苦労も無く子宝に恵まれた人には決して分からないだろう


今はまだ、99%の希望を持っている。人工授精を何度か繰り返せば必ず子供が出来ると。しかも一年も経たないうちに妊娠して子供に恵まれるだろうと・・・。

しかし、その99%が少しずつ、削がれて行くんだろう・・・とも、思う。今はただ神様にお願いし、医者の力・現代医学の進歩・生殖医療を信じるしかない。

年明け・・・すぐに通院すると、年内に終わっているはずの排卵がまだ来ていないことが分かった。
さぁ、今度こそ初めての「人工授精」が出来る!!」

平成7年1月6日に実施予定、本来なら仕事始めの日で、出勤しなければならないが、背に腹は代えられぬ・・・仕事を休み、病院へ。
主人も仕事を抜け出し、病院へ。
前もって渡されていた2つの容器に、2回に分けて精液を採取し病院へ持ちこむ。

人工受精の方法には段階がある。
まず、「元気な精子を抽出して子宮内に注入」する”体内”受精に始まって、それを何度か繰り返す。
そしてそれがダメなら、次は『体外』となるわけだ。
私達も、初歩的な人工授精から始まった。
基礎的な≪AIH≫(配偶者間人工授精)と言うものだ。
≪AIH≫は子宮腔に精子を注入する方法。

・・・が、1月6日、運悪くこの日はすでに私の基礎体温は上昇していた。排卵は完了していたということだ。なんと、タイミングの悪い事だろう。

排卵が終わっているにもかかわらず、S医師は「精子の状態を診たい」からと言って、「ひとまず1度目の人工受精をしましょう」とおっしゃった。
まず、採取した精子を顕微鏡で見る・・・私にもモニタ画面で見せて下さった。悲しい事に、泌尿器科で得た結果と何ら変わりない結果だった。

S医師は「かなり厳しい数値」だと言った。しかし、AIHを行う事に。

AIH後30分くらいベッドで安静に・・・と、寝かされていたが、その後は通常の生活をして良いという事だった。一週間後再び内診。

しかし、結果はもちろんダメ!やはり、失敗だった。

S医師は『体外受精も考えなければいけない』と言っていたが、「とにかく次のご主人の検査結果を見てから考えましょう」という事になった。

それでも、並行して再度AIHを行う事になった。
そして、1月の生理が終わり、また次の排卵=AIHのチャンスが近づきつつある今日の通院だった。

が、私の排卵事態も遅れているらしく、来週通院する事となった。

このまま何度となく人工授精を施すわけだが、本当にそれでいいのか、迷いも正直言ってある。AIHの費用は、1回5~6千円だが、段階を踏んで行けば、「0」が増える。
5千円が5万円・・・そして50万円と、治療の段階によって金額も上がっていくとS医師からも聞いた。

究極的な治療法として、≪顕微授精≫に至ると病院によってさまざまだが、1回に60万~100万円かかると言われている。しかし、その≪顕微授精≫でも、100%の確率で妊娠するわけじゃない。失敗すれば何度も繰り返さなければならない。
保険も利かない。いや、お金の問題じゃない。使い果たしても、子供が出来るならその方が良いのかもしれない。・・・これは博打と同じだ。

でも、本当にそれでいいのか?何度も迷う。
主人の原因不明の病気は、神様が仕組んだ事なんじゃないか・・・とさえ思える。私達に「子供は授けない事が望ましい事だ」と。いや、逆に試練として、与えられた事なのか。
いずれにせよ、私達が子供を望みその希望が少しでもあるなら・・・、チャンスがあるなら。 チャンスがある限り努力するべきなのか。

これが、私だけの「マラソンレースなら、とっくにリタイアしたかもしれない。でも、二人ならなんとか走れるかも知れない・・」
ゴールの見えない・・・ゴールが何処にあるのかすら分からない「不妊症」と言う名のマラソンレースに、まだエントリーしたに過ぎないのだ。

いつまで、何処まで走れるか分からない。

子供に恵まれる事だけが、きっとこのマラソンレースの目的でも、ゴールでもない気がする。
私達夫婦の姿勢や、考え方や、子供を本当に持つべきなのか、それともこのまま2人の生活をすべきなのか・・・そんなところまで問われる事になるだろう。それでも、今はただ祈る・・・「子供が欲しい」と。



次回・・・第2章 手探りの治療<2>
夜はあまりに暗い
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