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【不妊治療】第5章【顕微授精のスタート<1>】 朝は、まだ来ない【前編】

朝は、まだ来ない【前編】


平成9年1月11日

生理が来た・・・!
思っていたより、ちょっと早かったけど・・・。

今夜の12時よりスプレキュア(1日3回・8時間おき)を開始
明日は、日曜なのでクリニックへの電話はあさって。・・・いよいよだ。

会社には無理を言って、半月お休みさせてもらう事になった。
そして、退職の意思も示してきた。

今日の仕事の帰り、仲良しのM部長から、こんな事を言われた。

『お前が会社を辞めるって言わなかったら、今度の個人事業場長賞も、またお前が獲る予定になってたのにぃ!
一介の女子社員で2度も賞もらえるなんて前代未聞の話やってんぞぉ!』

え?!そぉなん!?・・2度目の事業場長賞!?・・・って!!??
え~~っ!今頃言わないでよぉ~!もっと早く言ってぇ~(笑)

確かに、昨年始めてもらった時は嬉しかった。
毎年1事業場で、1個人と1団体にそれぞれ≪事業場長賞(賞品つき)≫がある。
それも、個人賞では女子社員がもらうことなど、かつてもまれにしかなかった事だった。それを、私の仕事を評価してくれた上層部が「個人事業場長賞」をくれたのだった。

そして、今回も≪個人賞≫は私に・・という事で決まっていたそうだ。
『お前さんは、前代未聞を良くやってくれる奴だよなぁ~!』と、言われた。
「それって誉めてるの?(笑)」

でも、表彰される式典は4月・・・その前の3月末日に辞めちゃうんじゃ、くれるわけがないよね。

だけど、さほど未練もない。
会社が私を認めてくれ、評価してくれた事に違いは無いし(ちょっと賞品は惜しかったけど・笑)・・・
今、私はこんな所で≪運≫を使っている場合じゃないの。
有り難いけど賞をもらうことより「子供」を授かる事の方が私には大切な事なのだ。
今は、その事だけ・・・。


平成9年1月13日

今日から、4日間連続で排卵誘発剤の注射(HMG)が続く。筋肉注射なので、肩にうつ。
毎日なので、今日は左の肩、明日は右の肩・・・交互にうつらしい。
しかも、今日は心電図と抗生物質の適合検査もした。

今日のお代は1万5千円!いくらかかるんだろう・・・この先?!
スプレキュアは、先生が「終わり」と言って下さるまで毎日(1日3回)続けていく。4日間の注射が終わったら翌日は診察となる。

心電図の検査を内診室の奥のベットで準備をして待っているとき、カーテン越しに診察室から、M院長と他の患者さんの話している声が聞こえていた。

その患者さんも、どうやら体外受精の治療中で、スプレキュアの事やら治療の進み具合を説明されていたようだった。
M院長の自信溢れる話し方に、前回の私のようにとても励まされていた様子がわかった。

また、次の患者さんは、妊娠に成功したらしくとても喜んで手をたたいている様子がが伝わってきた。
私も、思わず手をたたきそうになって、自分の事のように嬉しくなった。
声しか伝わってこないけど、顔も、名前も分からないけど・・・お互いが同志なのだと思える関係って、不思議だな。

ここに来る患者さんのほとんどが、不妊と戦っている。
そして、何らかの苦しみを味わっている。・・・私にも、いつか、あの喜びがやってくるのだろうか??
また、ここのクリニックのスタッフや、看護婦さん達の優しさに、本当に感謝する。どの人も忙しい中にも、いつも笑顔で対応してくれる。

優しい心遣い、本当にありがたい
支えられている・・・と思える。・・・感謝


平成9年1月15日

今日は祝日(成人の日)だ。
・・・にも、かかわらずクリニックは私達の為に運営されている。
頭が下がる思いだ。

朝9時の受付に間に合うように主人と車で家を出た。3度目の排卵誘発剤。クリニックの待合室には、私を含めてもう10人以上の患者さんがいた。
ほとんどの人が、排卵誘発剤の注射のために通院している。
たくさんの人が、この数日、数週間の間に「体外受精」をするんだなぁ・・・となんだか驚き、感心した。

私は4番目だった。いつも注射してもらうところへ入って、今日は左の肩。(昨日は右だった)
今日は祝日なので、1人の看護婦さんだけで待っている患者さん全ての注射をするらしい。大変なお仕事だ。
でも、笑顔で嫌な顔ひとつせず、接してくれる・・・エライなぁと思う。(みんな若くて年頃の看護婦さんばかりなのに・・・彼氏ぐらいいるでしょ~?!せっかくのお休みなのにねぇ?!)

スプレキュアも、4日(1日3回×4日)もすれば、ずいぶんなれた。(女性が使うスプレキュアは中身は同じだが主人が使っていたものよりも、濃度が濃いらしい。)
でも、今日は少しだるい。「スプレのせい?注射のせい??」排卵誘発剤も、けっこう怖いらしい。
昨年の初め頃には副作用というか、医者の診察が遅かったというべきか・・・≪卵巣過剰刺激症候群≫と言う状態になった人が亡くなってたと、新聞に出ていた。

それに、夕方から主人の機嫌がなぜか悪い。なんだか知らないけど、イライラして、ため息をついたり唸ったりして、こっちまでイライラしてくる。
今、私にとっても主人にとっても大事な時なのに。精神的負担が増える

それに、通院が続いていて、仕事も休んで会社のみんなにも迷惑をかけたり気を使っているのに。
・・・そう思うと、『どうして、私ばっかりこんなしんどいめにあうの?痛い思いをしなきゃならないの?仕事も休まなきゃならないの?』って、主人を責めそうになる。
決して彼のせいじゃなく、自分がそうしたいから選択してきたのに。

でも、特に今日みたいに訳がわからず機嫌が悪いとき、イライラしている時は、責めたくなってしまう!!『もっと、しっかりしてよ!!』って。

もう少し、私の精神的支えになってもらえたら・・・
彼自身が、自分を卑下する事など何もないのだし、だからこそ責める事など出来ないのだから。せめて、私の気持ちを支えてよ。
私、ひとりで頑張っているみたい・・・。

分かっているのに・・・本当は彼だってツライのだ。
でも、彼には何もする事がない。何も出来ない辛さもあるのだ
私が通院し、痛い注射を受けたり内診を受けたりする事しか方法がないのだから。


平成9年1月17日

やっと、昨日4回目の排卵誘発剤の注射が終わって、今日は診察日
今日はM院長ではなくK医師の診察日だった。内診ではエコー検査。

卵胞の状態を診てもらった。小さい卵胞があるのが患者側モニタにも映って、自分でも卵胞(この中に卵子がある)が確認できた。ほとんどが小さくて、大きいのが1つあったけど、それでもまだ13mmくらいだった。
20mmくらいになるまでは採卵しないので、まだ毎日注射をうつ事になる。何個ぐらい採卵できるかはまだわからないと言う事だった。
卵子の大きさは「0.01~0.05mm」ぐらいで、卵胞の大きさに比べるとなんと小さい事か!

K医師にも、左の卵巣の位置が悪いと言われた。左側の卵巣にも卵胞が出来ているけど、卵巣が子宮を越えてその上にあるので、採卵する為の器具(針)がまがっては届かないので、採卵はかなり難しい、ということだった。

今日もまた、排卵誘発剤の注射をうって・・・明日の土曜も、あさっての日曜も、うってもらう事になった。
そして明日も診察。明日はM院長の診察なので、主人の都合が良ければ、主人にもクリニックへ来てもらって、M院長から説明を受けてもらうことにした。

K医師の話では月曜にまた診察をうけて、うまく卵胞が大きくなっていたら「22日には採卵できるかもしれない。」と、言うことだった。

今の、排卵誘発剤の注射で、もう少し卵胞を大きくして、最後に、排卵させるための≪排卵促進剤≫(HCG)の注射をうつそして36時間後採卵をする。排卵促進剤をうってもらうには、夜、クリニックへ行く事になる


次回・・・第5章 顕微授精のスタート<1>
朝は、まだ来ない【後編】・・・
をお届けします。


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