見出し画像

【不妊治療】第1章『不妊症』の宣告【長い夜の始まり 3】

長い夜の始まり 3

平成6年12月の中旬・・・2人で、少しの不安と多くの期待を持ってT病院の泌尿器科を訪れた。午後の予約時間。不妊外来。

新たな事実を知るまでは、少なからず、ワクワクしていたのかもしれない。どうやって、検査をするの?とか、どこで、精子を採取するのか?とか・・・そんな事ばかりが気になって、そわそわしていたのかもしれない。そうして待っているうちに、主人の名前が受付から呼ばれた。

受付に行くと、細い試験管のような管に、キャップがついている容器を渡され『病院内の一般のトイレに行って採取してきて下さい。』と淡々と言われた。
主人は少し気恥ずかしそうだったが、付近のトイレに入っていった。当然、自らのマスターベーションにより、採取する訳だけど一般のトイレ内で・・・とは思わなかったので、何だかかわいそうになった。

待っている間にも、≪試験管≫を渡される男性患者さんが多く、驚いた。
病院によっては、専門の個室を設けている所もあると本で読んだが、このT病院は古い病院だから、仕方が無いのかもしれない。

約10分くらい待っただろうか・・・、主人が戻ってきて指定された場所に≪試験管≫を置き、再び待たされた。
ようやく名前が呼ばれて、診察室へ入った。先生は、MA医師。

MA医師は特に何も言わず、主人に『性器の診察をします』と言い、主人はカーテンに囲まれたベッドの方へ行った。それも終わり、MA医師の前に2人して腰掛け検査結果を聞くことに・・。

MA医師は少し渋い顔で切り出した
精子の数が、非常に少なく運動率も悪いです。』と・・・・・・・・・・・。

通常、健康で何の問題もない男性の場合、精液は1cc~3cc。
そしてその中に1億個~3億個の精子がいる。
その精子の80~90%以上が元気に動き回れる運動率を持っている。

しかし、主人の場合は、精子の数が『300万個』、運動率が『20%』と診断されたのだ。

『まさか?!』と思った。『何かの間違いだ!』『何も悪い事なんてしていない!』・・・『もう一度検査してもらえないだろうか?!』とさえ思った。

 ≪300万個、20%≫と言えば、元気でまともな精子は≪60万個≫と言う事になる。一見多そうに思うが、しかしその数では到底、自然妊娠は不可能と言う事なのだ。・・・MA医師は≪2桁足りない≫とおっしゃった。

 真っ先に私が聞いたのは『望みは全く無いのでしょうか?』だった・・・。
MA医師は『元気な精子が1つでもあれば人工受精が出来る訳だから、望みはあるよ』と言って下さった。それが唯一の救いだった。

 主人のショックを考えると、私が落ちこんでいる場合じゃなかった。
『全く無いって言われた訳じゃないんだから』『方法はあるんだから』・・・そう言うしかなかった。


松本城

次回・・・第2章 手探りの治療<1>
真夜中のマラソンレース
 1 を、お届けします


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?