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麻生副総裁の問題発言に考える。

自民党の麻生副総裁(元首相)の問題発言が、話題になっています。麻生氏の発言が物議を醸すのはめずらしいことではありませんが、今回の発言は趣旨もタイミングも相当深刻であるため、国際的にも問題視されています。

上川外務大臣のことを評して、「そんなに美しい方とは言わない」とした言葉は、氏の地元福岡での講演という公の檀上での発言であり、必ずしもメディアによる切り取りとか意図的な編集がなされたものとはいい難いでしょう。

後段には、「堂々として英語もきちんと話し、こんな外務大臣は今までいない」などと続き、全体としては上川氏のことを持ち上げる趣旨の内容となってはいます。

しかし、公の場で公人の容貌について触れ、なおかつ「美しくない」というルッキズムに満ちた表現をしている点からすれば、決して批判は免れない発言だといえるでしょう。

3年ほど前、森元首相の「女性の会議は長くなる」という発言が問題となって、オリンピックの組織委員会の長を辞任する出来事がありましたが、今回の発言は直接的なルッキズムの要素が強い点で、さらに問題視されるべき内容だといえます。



そもそも、ある政治家の能力とか実績を語る文脈において、なぜその人の外観を評する必要があるのでしょうか。なるほど、人間の言動と見た目との間には密接なつながりがあり、厳密にいえば切り離すことができないものかもしれません。

しかし、「美しくない」という言葉を男性が女性に対して向けるとき、しかも年長で経験も地位も上位にある人が発言者である場合においては、表向きはともかく、実態としてそれが何を意味するかは、空気が読める日本人であれば容易に想像ができるでしょう。

この場合の判断基準は、同じ人物が同じような趣旨の発言をするときに、たとえ相手が男性であったとしても、はたまた年長であったとしても、同じような表現をとるかどうかだと思います。

麻生氏が男性の大臣を指して、上川氏を評したように、「あの人は(見た目が)美しくない」というとは思えません。また、御年83歳の氏が、特定の年長者を評する機会というのは、ちょっと想像が難しいです。

このように考えると、本人の意図がどこにあったかはともかくとして、客観的には女性に対するルッキズムの趣旨を含んだ発言であったと判断するのが妥当だといえるでしょう。



あえて強引なたとえをすると、議院内閣制において衆参両院で過半数を有する自民党ナンバー2の麻生氏は、外務大臣を務める上川氏からすれば、親会社の副会長と事業会社の取締役の関係に近いといったところかもしれません。

この関係において、副会長が公の場で女性取締役の容姿について触れ、たとえそれが会場を笑いをとるためのウイットであったにせよ、揶揄する趣旨ともとれるネガティブな内容であったならどうでしょう。

厳しいいい方をすれば、民間企業であれば業種業態や企業規模などの実態の差こそあれ、顧客や株主、関係先からの批判や批難にさらされて、役職の辞任に追い込まれることは十分に考えられると思います。

麻生氏の独特のユーモアという見方もありますが、米国の大統領が女性長官の容姿に触れる発言をするなど考えにくいことからすれば、国際社会の常識からしても「実際は褒めているからいい」ということでは済まされないはずです。



ひるがえって、なぜ男性は女性の容姿のことに触れるのでしょう。女性が男性の容姿のことに触れることもありますが、公の場で「ハゲ」「デブ」などと発言することなど考えられず、ルッキズムで物議を醸すのはいつも男性、しかも年配者です。

これについては、やはり昭和の時代の古い家族観が、彼らの意識の奥底にどっしりと居座っているからだと思います。何でも新しいからよいとは限りませんし、古きよき時代の価値観のなかにも素晴らしいものはあると思いますが、やはり適度な新陳代謝は必要でしょう。

女性がどんどん社会的・経済的地位を築いていくことが目指され、男性が育児や家事に主体性をもって向き合うことが求められ、男性も女性もともに協力して仕事と家庭責任を担い合うことが当たり前の時代。

男性=仕事中心、主役、選ぶ性、女性=家庭中心、支える役、選ばれる性といった固定観念は、どう考えてもアナクロニズムでしょう。国政の中心にいる人の感覚や思考が、今ほど問われている時代はないと思います。

男女という違いを大切にし、それぞれの特徴をいかんなく発揮しつつ、役割においてはタブーなく全方位的に協力・協調し合っていくのが当たり前の時代にふさわしい、国のかじ取りをお願いしたいものです。

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これからの家族のかたち

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。