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【シンガポール 14日間ホテル軟禁日記】#15_PCR検査と国家権力篇

2020年8月17日、シンガポールに5ヶ月ぶりに入国。

入国後14日間はシンガポール政府指定ホテルでの滞在が義務付けられている。その14日間+前後数日で、起きたこと、思ったこと、考えたことの記録。

※誤った情報が含まれる可能性、個人の思い込みや考えが多分に含まれていることはご容赦ください。

【Day 11】 ~14日間で最大のイベントがやってくる

この軟禁生活で最大のイベントといえば間違いなく「PCR検査」(こちらではSwab Test : 綿棒テスト、と呼びます)でしょう。

各管轄省庁から受け取る書類には、

「検査の日時と場所がSMSで連絡されるので、SMSをチェックし、SMSの指示に従いなさい。」

と必ず記載があるし、毎日かかってくる確認の電話でも、

「検査の日時はきましたか?」
「検査についてのSMSを見逃さないようにね。」

と必ず言われます。

というのも、この軟禁生活は、

・14日間の完了
・PCR検査で陰性結果を得る

のうち「いずれかの遅い方で解除される」と定義されており、PCR検査を受けない限り解放されることがないのです。連絡や確認ミスによって検査の受け漏れ→滞在延長とならないよう、全員が全力でチェックをしている、といえるでしょう。

当然、各省庁からの文書には、このPCR検査の受診にミスった場合どうなるかが、いつもの格式高い文章でこう記されています。

「まじでぶっ飛ばす」

■PCR検査の通達メール

僕が連絡を受け取ったのは2日前のDay 9。発信元は、いつも連絡してくる労働省(MOM : Ministry of Manpower)ではなく、保健省(MOH : Ministry of Health)からでした。

この軟禁生活中に何度も経験していますが、省庁の縦割りがまったく感じ取れず、複数の省庁がシームレスに対応していることをここでも強く感じさせられます。権力にすべてを把握される不気味さと、すべてを把握してくれているからこそ得られる便利さは、二律背反なんだと考えさせられる日々です。

受け取ったメールには、日時の他にも受診場所も書かれています。

受診場所との往来は政府指定の予約サービス複数社から選んでタクシーを予約し(GrabはNG)、タクシーに乗る際は窓を開けて「検査に行くので…」と断ってエアコンを消してもらわないといけない、などなど様々なルールがあります。(たぶんこれも、ミスったらぶっ飛ばされます)

ただ、幸いにも僕に知らされた検査は「宿泊しているホテル1Fの外で」ということでしたので移動の必要はなし。移動時間で何かあってミスったらどうしよう…という心配もあったので、これはかなりありがたい話です。

■ホテルのザワつきで増す緊張感

テスト日時と場所のメールを受け取った後、ホテルからたびたび内線電話がかかってきて、

「予定時刻の15分前から準備をしておくようにお願いします」
「セキュリティの人間が迎えに行くので、マスクをして部屋で待機をしていてください。勝手に降りてこないように…」

などが指示されます。

そして当日の朝になると、朝食にこんなメッセージカードが添えられていました。

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「いよいよ今日はPCR検査の日だね!怖がらなくてだいじょうぶ、理解できれば人生怖いことなんてないよ!」というメッセージだと思うのですが、ここまで書かれると逆に怖いし、「インフルエンザ検査くらいのもんだろ」と思ってたけどこのメッセージのせいで逆に心配になってきちゃったし、そのせいで調べてみたら「めっちゃ不快」「痛い。すごく痛い」「もう一生やりたくない」とかしか出てこないし…。

「親切が裏目に出る」的なことわざになりそうなエピソードだな、と思いました。

■そしていよいよPCR検査へ

時刻は10:00をまわったころ、内線電話が鳴り響き、「もうPCR検査始まってるので、準備しておいて!」と受付から言われます。

予定より1時間早いので慌ててマスク・パスポート・ビザを準備。すると間も無くチャイムが鳴り、ドアを開けるとビニールの防護服にフェイスシールドの男性がドアから距離を置いて立っています。明るくにこやかで、なんとなく関西のおっちゃん感がある男性でした。

「準備はよろしか?」
「あ、はい。」
「ドアは開けたまま、そこで待っとって。いま順番に案内してるので。11日目やねえ〜もうすぐやな!あ、これ、新しい部屋のカードキー、どうぞ。」

ここで部屋のカードキーが渡されるのは、入室した時のキーが入室した瞬間に無効化されいて、外出したら入れなくなるようにでしょう。

ドアオープンのまま5分ほど待機して、にこやか防護服男に連れられエレベーターホールへ、僕に加えて、隣の部屋の男性もいっしょでした。にこやか防護服男はエレベーターには乗らず「1Fまで降りて!」と伝えて、次の人を呼びに行くのか、廊下に戻って行きました。

いっしょに乗った男性とエレベーターの中で少し話すと、彼女が日本にいて遊びに行ったら帰ってこれなくなったそう。正面に大きく「JAPAN」と書かれたキャップから、彼女への愛が垣間見られます。

1Fに降りると、ホテルの外、といっても玄関ロビーを出てすぐのスペースにPCR検査を待つ人の列が既にできており、その列を防護服の人(おそらく保健省スタッフ)とホテルのスタッフが協力してコントロールしています。

行列は10人くらいが距離をとって並んでいて、常に列は10人くらいにコントロールできるよう、スタッフが無線でやりとりしています。

行列は簡易的に設置された受付机とその先の検査場(検査は2箇所)につながっており、10分もせずに受付の机にたどり着きます。

受付は防護服女性2名が対応。ビザの裏側のバーコードをスキャンし、僕の個人情報が送出されたであろうPC画面を確認しながら、名前・電話番号・国籍などを質問してきます。すべて答え終わり女性が若干の操作を終えると、PCに繋がれたテプラのようなものからバーコードが発行され、書類に貼り付けてカルテ的なものが完成。これを携えて僕は検査へと進みます。

権力による情報集積は、PCR検査の受付をこんな急ごしらえの場所でも可能にしてしまうのです。

さて肝心の検査ですが、今朝さんざんビビったのがもったいないくらい、非常にあっさりしたものでした。

ビニール袋でぐるぐる巻きにされた椅子に座り、マスクを鼻の部分だけズラすように指示され、Swab(綿棒) Testの名前の通り、細い綿棒を鼻に片方ずつ突き刺されます。ある程度奥まで入った状態で左右にゆっくり2〜3回動かされ、その後少し放置されます。(やってくれた男性が隣で「ふぁいぶ、ふぉー、すりー、、、」と数えてたと思います)

上を向いて奥の奥まで、ということもなく、個人的にはインフルエンザ検査より痛さも不快感も少なく感じました。

11日ぶりの外出(といってもほぼホテルの敷地内ですが)はものの15分程度で終了。あとはロビーに戻ってエレベーターで自室に戻り、僕の14日間で最大のイベントは終了したのでした。

■物思いにふける昼下がりと、時間外れのチャイム

PCR検査を終え、午前中の仕事を片付け昼食を取りながら、一連の出来事を思い返しました。

この国の運営力の底力はもちろん、この2日間綿密に滞在者に連絡をとり、今日のオペレーションのために準備を重ねていたであろうホテル側の協力体制には、感動すら覚えます。

この記事のキービジュアルで使っている写真は適当にネットで拾ってきたものですが、まさにこれと同じ光景をホテルの敷地内に応急的に設営してしまうとは…。

部屋のチャイムが鳴ったのは、そんな高尚な物思いにふけっていた昼下がりでした。

つづく



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