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今ある尊い命を守れずして、社会の発展はない。フィンランドから学んだこと

2018年は、私にとって、忘れられない年のひとつです。東京都目黒区で、親から虐待を受けた5歳の結愛(ゆあ)ちゃんが、尊い命を奪われてしまいました。

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」

覚えたてのひらがなで綴った結愛ちゃんの悲痛な手紙に、言葉を失いました。なぜ、こんなことが起こってしまうのか。最悪の事態になる前に、どうにかすることが、できなかったのか。

児童虐待、と聞くと、すぐに思い当たるのは児童相談所(児相)です。実際、この時の事件でも、児童相談所の対応に、疑問と批判が集中しました。しかし、実は、児相の現場も、限界が来ています。職員は、一人100件近い事案を抱え日夜苦闘しています。精神疾患で離職するケースも続出しているのです。

政府もこの状況を重くみて、児相職員を増やしていますが、急激に増加する児童虐待件数をカバーするには、遠く及びません。

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出典元:「児童虐待被害、最多2172人 61人死亡、5500人保護―警察庁」時事通信

この状況を改善するために、政府はあらゆる手段を用いて児相の現場の状況を改善させねばなりませんし、人材育成、そして、その為の投資を惜しまずにすべきです。私は与党の一員として、この問題を、必ずや、解決する覚悟です。

児童虐待から子どもたちを救うための投資は必須だし、喫緊の課題です。しかし、それだけでは不十分であることは明らかです。なぜなら、そもそも、そんな状況に親子が追い込まれていること事態、異常ではないでしょうか。

子どもを虐待するために生む親はいません。いないと信じています。でも、過酷な生活環境や、いわゆる「孤育て」といった、社会から隔絶された孤独な環境での子育てが、まず親を追い込み、その矛先が、子どもに向いてしまっています。見方を変えれば、児童虐待を防ぐには、まず、親を支えねばならないのではないか。

次から次へと、溺れた子どもが流れてくる川を想像してみてください。あなたはそれを見て、助けに飛び込むでしょう。それは、間違いなく大切なことです。断固、やらねばなりません。しかし、どんなに助けても、溺れて流れてくる子どもは減りません。それどころか、その数はどんどん増えていきます。どんなに頑張っても、助けられない子どもが、出てきてしまう……。こんな時、どうすればよいか? 私たちは、今、溺れている子どもたちを助けながらも、川上に目を向け、なぜこんなに子どもが流されてくるのか、考えねばなりません。そもそも、子どもが溺れないようにするにはどうするか考え、対策を打たないといけないのです。

私は、考え、勉強し、情報収集しました。どうすれば、親が児童虐待を起こさずに済むのか。その中で、フィンランドの事例に辿り着きます。

日本では年間約60人もの子どもが児童虐待によって尊い命を奪われていますが、フィンランドでは、年間0.3人、つまり、3年に1人です(フィンランドの人口は約600万人。日本の人口に換算して考えれば、年間約6人、ということになります。日本の、被害児童者数の1/10に相当)。

そして、この背景には、「ネウボラ」という仕組み(施設)があることを知りました。妊娠期から出産、子どもの就学前までの間、母子とその家族を一貫して切れ目なく、社会が支援しているというのです。まさに「これだ!」と思いました。

しかし、まだ日本にはネウボラに関する情報が足りていませんでした。政治家として、この施策を政策に落とし込むには、もっと調査が必要だ! そう思った次の瞬間、私は、フィンランドにいく段取りを始めていました。

フィンランドに到着して、さっそく、ネウボラを訪問しました。職員の方が丁寧にこの制度の要諦を教えてくださいました。それは「すべての親子と、社会との繋がりを確保すること」。これに尽きます。

ネウボラでは、全ての親子に、担当(保健師および助産師)がついています。親子の健康から家族関係、生活環境の隅々まで把握し、早期に問題点を発見します。必要とあらば、適切な福祉・医療的資源に接続するのです。こうすることで、家庭の問題を深刻化させず、未然に防ぐことが可能になります。まさに、「川上」の対策です。

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一方で、我が国はどうかというと、子育ては、とかく各家庭の「自己責任」で片付けられ、多くの親子が放置されてきました。

例えば、小学校に入学するまでの3~5歳児のうち、幼稚園にも保育園にも行っていない子ども(いわゆる「無縁児」)は、20万人もいます。3-5歳児の人口は約316万人だから、約16%という、驚愕の数字です。

そして、実はこの数字は、子どもの貧困率とほぼ合致しています。どう考えても、大きなリスクがあるはずなのに、社会は、ここの親子となんの接点も持っていません。だから、最悪の事態になってようやく対策を打つという、後手に回ることになります。

口では「子どもは社会の宝」と言うくせに、こんなにも子育てにとって劣悪な環境を放置してきた日本。私自身を含め、政治家は恥じ入るべきだと思いました。

施設をアテンドしてくださった担当の方がおっしゃっていました。「母親は、育児の負担を分かち合う他者の助けを常に必要としている」と。そして、この考え方が、フィンランドでは国民全体で共有されているのです。だから、フィンランドでは、母親が必要と感じているあらゆる支援を惜しむことなく社会全体で用意し、ほぼ無償で提供しています。その中核が、ネウボラなのです。


「そんなに親子にばかりお金を使う余裕は日本にはない」と考える人もおられるかもしれません。しかし、この考え方は誤りです。フィンランドは、余裕があるから子育て支援に力を入れているわけではないのです。そこには、「良き納税者を育てよう」という、フィンランド社会の根底を流れる立国の哲学があります。

すなわち、ネウボラの制度目的である「早期発見・早期支援」の背景にある考え方は、子ども達の成育上の課題を早期に発見し、早期に治療・対処すれば、将来(特別な福祉や医療などを通じて)税金を使う側ではなく、健全な納税者をより多く育てることができる、というリアリズムです。そして、様々なの経済学の研究が、このフィンランドの戦略が合理的であることを示唆しています。

思えば、当然のことです。国家や経済の成長がしばしば話題になりますが、そのためには、まず、人が健やかに成長せねばなりません。そして、人の成長には、就学前の生育環境が最も重要であると、あらゆる研究が結論付けています。そこに投資しないなんて、ありえません。

私たちの国がこれからも成長、発展していくには、人、とりわけ、子どもたちの健やかな成長は必須です。そして、それには、保護者を社会から孤立させてはなりません。子育てを「自己責任」といって、彼・彼女たちだけに、押し付けてはいけないのです。子どもは、社会全体で育てないと、いけないのです。

そのために、ネウボラを、日本社会に適合する形で、実現したいと思っています、いや、必ずや、やり切る覚悟です。


この原稿を書いている今、衆議院選挙の真っ只中です。私は、仕事がしたい。私に、日本の親子のために働くチャンスをいただきたいです。

選挙戦も、もうすぐ折り返しです。もう少しお騒がせいたしますが、引き続き、私の政策案に関心を寄せていただけると幸いです。よろしくお願い致します!

この選挙戦でも、ネウボラの実現を訴え続けています!

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