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【エッセイ】ハンカチーフください

突然だがスマホ本体のスピーカーが故障した。
災難はいつも突然やって来る。そんなものか。
You TubeでV6の『ありがとうのうた』を聴いていた。
前奏から何かおかしいなとは感じていた。
歌が始まって間もなく坂本くんが大声で歌い出した。
もちろん音量などいじっていない。
文字通り目を丸くして一体何が起きたんだと固まってしまった。
ある程度まで大きくなると坂を下るようにボリュームが小さくなった。
次いで森田くんが囁く。
〽ぼくは少し疲れてたかなあ
と…。
私が疲れてるのかもしれない…
なんて思う間もなく三宅くんのメロウな声が右肩上がりに大音量で響き渡った。

これは疲れではないことがわかった。

明らかにスピーカーがいかれてしまったのだ。
その後もV6のみんなが音量の心電図の波を描き『ありがとうのうた』を歌いつづけていた。

まだ、機種変して10ヶ月しか経っていないのに…。

不思議な現象だがイヤホンに切り替えると安定したボリュームで歌は流れていた。
素人判断でも目視できるスマホ本体下部の出力スピーカーに問題があることがわかった。
色々調べて出来ることは試してみた。
再起動をする。You Tubeのキャッシュの削除。アプリのアップデート…。
何も変わらなかった。

翌日早速携帯ショップに相談へ行った。

いきつけの携帯ショップは流れ流れやっとたどり着いた接客が親切丁寧な優良店だ。
顔なじみの窓口のスタッフさんが2人いて、予約した時間にはそのどちらかの方が待っていてくれる。

「いつもすみません」
私が着席する時の口癖である。
自分で言うのもなんだが窓口への相談は携帯ショップに限らず私はとにかく謙虚である。ゆえになめられやすい。

私は昨夜からの不調をなんとか順序立てて説明した。私は自分でも説明下手と自覚している。あっちこっち話がとぶ。親切な女性スタッフの方はそんな私のまとまらない説明をうんうんと頷いて聞いてくれる。

「では、試しに何か音を流していただけますか?」
親切なスタッフさんに導かれるように私はスマホのYou Tubeを起動し保存していた太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」を流した。

スタイリッシュな令和の店内に大音量で流れる昭和歌謡「木綿のハンカチーフ」

症状を提示する為とはいえ公共の場で大音量で音楽を流すことに抵抗を感じざるを得ない。申し訳無さそうな私を気遣って親切なスタッフさんは「今は他にお客様もいらっしゃらないので音量を気にせず流してください」とフォローしてくれた。

名曲「木綿のハンカチーフ」が波打つ心電図のようにバグって大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

〽ハンカチ〜フく〜ださい〜

大音量で歌を流す罪悪感となんだか晒されている恥ずかしさと親切なスタッフさんの気遣いに私の方がハンカチーフください状態であった。

症状を納得してもらい、これからどうしましょうかという具体的な話が進んでいった。

修理の道のりは長く険しく、つまりめちゃくちゃ面倒くさい。

私がモヤモヤしていたのは正直機種変してから再起動することが桁違いに増えていたからでもあった。
性能は前の機種より格段上のはずだがフリーズしたり突然回線が遮断されたり、その度オンオフを切り替えていた。そんな小さなストレスが重なっていたことも事実だった。修理するにしても色々予約をとり診断してもらい、料金が発生するかどうかも送ってみないとわからないとのこと。どっちみちデータも初期化され戻ってくる。その手間に見合う愛着が今の機種にわかない。修理に出している間は代替え機で過ごすのもなんだか気持ち悪かった。

今も悩みながらこの文を書いている。

そして、「木綿のハンカチーフ」の選曲は伸びのある歌声の方が違和感を際立たせると私なりに悩んだ末のことだった。
何が正解かはわからない。
なんならその保存リストの下にあった葛城ユキさんの「ボヘミアン」でも構わなかったのだが…。



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