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大森慶宣展「自在」から無限の想像に出逢う

あれから一年以上が経った。
(あれからとは大森慶宣さんの前回の個展からのことです。当時の記事も一応貼っておきます。)

たかが一年、されど一年。
会場までの道中、商店や標識、道路などの街の風景も変わったような気がする。
体感的には昨年の10月の方が寒かったような記憶だが空模様は相も変わらず北陸特有の仄白さに覆われていた。
私は楽しみに待っていた大森慶宣さんの個展「自在」を全身で感じるため西田幾多郎記念哲学館を訪れた。

太陽が幾分か北陸を照らす。

正面入り口では煙と化して足元から消えていなくなってしまうのではないかと寄り添って抱きしめたくなる儚い人物の絵が(ようこそ、いらしてくださって…)と、出迎えてくれているようだ。

悲しいですか?優しいですか?……あなたは

私は円を描いた通路を反時計まわりに進んだ。あ、別に時計まわりでもいいんですよ。勿論決まりなんてないんですが、私はたまたま右を選んだというだけの話です。(この選択の結果でしか味わえなかった楽しみ方が出来たのですが…それは会場でお確かめください)

展示されていた針金を曲げて造られた動物たちが額縁から飛び出したいよと言わんばかりの生命力に満ち溢れていました。

さて、通路は下へと続きます。

階段上から絵画のエリアを一望できる。

高い天井からさす光が曲線を描く壁に掛けられた大森さんの絵を照らしていました。絵を観る前に展示された絵を観る。圧巻です。絵と一緒に建物の中にいるのだなと実感できます。ここは実に素晴らしい空間です。是非現地に訪れて体全部で感じていただきたいです。
ここでも左右どちらでも選べる階段になっているので自由に、気の向くまま、おもむくままに降りてください。
私は………
はい。右を選びました。
でもその選択もここでは必然なのです。
階段を降りて辺りを見渡す私の目に飛び込んできた一枚の絵との出逢い。
衝撃的でした。衝撃的すぎました。
あまりの衝撃にフランダースの犬の最終回のネロのように立ち尽くし呆然と見入っていました。

「Midori」



緑色の人間でしょう…背景は宇宙のような夜空のような…一人っきりの心の底なのでしょうか…もし宇宙なら星が上昇しているような…それは星ではなくこの緑の人間らしき存在から昇華してゆく生命力の類なのか…吸い上げられているのか…空を求めているのか…還りたがっているのか…
叫んでいるの?泣いてるの?歌っているの?悲しいの?恐ろしいの?嬉しいの?………

「Midori」というタイトルのその絵は肉や骨の概念を透過して、それを敢えて言葉にするなら魂が人間という形を借りて訴えかけてくる惹き込まれる力の強さに鳥肌が何度にも渡って首や頬を波打つように押し寄せてくる。
私は大森さんにこの絵の持つ力について話がしたくて興奮しながら尋ねた。
大森さんの吐き出したい想いに一致する感情や説明なしに通じる頷きが随所にあった。
大森さんは圧倒的に解放していた。
自己と向き合って存在が大きくなっていた。
大森さんは朗らかに柔らかく笑う。
角がないけどただ丸いだけじゃない。
喜怒哀楽を人の見えない場所で筆に込めているのだろうか。
間違いなく大森さんの絵を観ていると楽しくなる。

そしてまた「Midori」を観る。
左から観た時にしか現れない表情(顔の描写がなかったとしても)だったり、角度や高さを変えると全く別の印象を放つ。

広い館内をじっくり何周もして楽しませていただき、昨年の素晴らしかった作品たちとはまた違ったテイストを表現できる力の振り幅に驚嘆し、人は一年で一年前の自分を超えてゆけることを目の当たりにしてパワーをもらった気がしました。誰もが二乗、三乗(二倍、三倍ではなく)出来るわけではないが、可能性を絵を通じて教えてもらいました。

それはどんどん広がりつづける宇宙を想像させます。
宇宙の果てにはタッチできる限界ってあるのかわからないけど頭には永遠に拡大しつづける宇宙が浮かびました。
それは今回のいくつかの絵に描かれている「手」を観て感じたことでもありました。
厚み、硬さ、温もり、荒れ、彫りの深さ、しなやかさ…
手が語ってくれています。

他にも作品の写真を撮ったのですが、やはり会場で観ていただきたいので作品の写真はこれだけにしておきます。


最後に今回のメインタイトル「自在」に込められた大森さんの思いの言葉がありましたのでご覧ください。私は今も反芻して考えています。想いのままに…と。


是非お休みを利用して県内外問わず遊びに来られる方がいらしたら足を運んで体感していただきたいです。
アートを集中して楽しめるのではないかと思うのです。


会場:西田幾多郎記念哲学館
石川県かほく市内日角井1

会期:2022年11月19日(土)〜12月4日(日)
10時〜17時 月曜定休 入場無料


      


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