見出し画像

【動画公開情報】『AIで絵を描く時代の知財技能』が公開されました

こんにちは。長濱秀文の個人プロジェクト、秋帽子です。
久しぶりに教材動画を制作しましたので、ご紹介します。
社会人向け学習プラットフォーム「マイラ」で公開中の、『AIで絵を描く時代の知財技能』という動画です。

AIで絵を描く時代の知財技能 前編 コース概要
コース概要画面より引用。サムネイル原画として、「いかにも生成AIで描きそうな絵」を制作。

「知的財産管理技能」という選択肢

非エンジニア人材のDX対応

タイトルにもあるように、「知的財産」に関する技能を題材にしたコースです。
動画の提供先である「マイラ」というプラットフォームでは、特に近年注目度の高いDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成という分野に力を入れています

DX人材育成というと、プログラミング技術などのエンジニア向けのコースが思い浮かびますよね。実際、「マイラ」には、ITエンジニアやITアーキテクトといった職種向けの、優れたコースがたくさんあります(なんて書いてみたものの、「ITアーキテクト」が具体的に何をする人たちなのか、私もよく知らないのですが…フフッ)。
しかし、企業のDX対応を進めるうえで、エンジニア職種のスキルだけ向上させても、デジタル社会に対応した事業展開ができるようにはなりません。
経営層はもとより、営業や総務、経理といった職種の人材もDXに対応できなければ、せっかく育てたエンジニアも、(部屋に墜落した宇宙美女にそそのかされ?)よりよい環境を求めて他社に移籍してしまうかもしれません。
つまり、プログラミングやITツールの使い方を直接学ぶことに限られない、より広い視野に基づくDX人材育成のための教材が必要となっているわけです。
そこで、『AIで絵を描く時代の知財技能』では、主に非エンジニア職種の人材を対象に、①法律・社会・ビジネスの一般知識をアップデートすることも、一つの学び直しとなること、また、②獲得すべき技能として、知的財産管理技能という選択肢があることを提示しています。

単に「知的財産(権)について解説する」という動画は、すでに多く作られています。しかし、多くは法制度や、個別の事件の解説を主眼としたものが多いように思われます。
私も以前、通信教育の会社で、知的財産管理技能士試験の対策講座を担当していたことがあるので、そうした観点からの解説動画を作ることも、まあ、できなくはありません。体系に沿って目次を立てて、具体的な事例を紹介し、確認テストを付けて…という具合です。
けれども、それでは、もともと知的財産の分野に関心がある人にしか届きません。それ以外の人にも、「自分ごと」として関心をもってもらうには、どんな観点から語ればよいのでしょうか。

技能士という立場で語る

まず、動画教材の特性上、「誰が」語り手となるのかが大切です。
私は今回、二級知的財産管理技能士(管理業務)という立場から、技能の話をすることにしました。
知的財産管理技能士とは、国家試験である知的財産管理技能検定により認定を受けたマネジメント技能者、いわば、「知財管理のエンジニア」です。
まず、この資格の存在自体が、世の中にあまり知られていませんよね。
業界内で「特許マン」などと呼ばれる、大企業の知財部員でもなければ、ほとんど目にする機会がなく、まして自分がその資格を取得するなどということは、現実の選択肢として思い浮かばないのではないでしょうか。
大人の学び直し(リカレント教育)の意義が認められるようになったとはいえ、一般企業に勤める普通の事務職種の方が、大学院に何年も通って学位を得たり、弁理士や弁護士のような独立開業を前提とする資格を取得するのは、少しハードルが高すぎます。
知識ゼロでも、少し勉強すれば手が届くレベルの国家資格が存在していることを、まずは知ってもらうことに意義があると思います。
もちろん、動画の視聴者に対し、この資格を取るよう直接的に勧めているわけではありません。知的財産のマネジメントが、職業人にふさわしいと国家的に認められた、一つの立派な専門技能であることを認識してもらうことが目的です。

なお、私は、知的財産管理技能士の有資格者団体である、知的財産管理技能士会にも所属しています。
この団体では、会員のキャリアアップを支援しており、その目的に沿ういくつかの委員会活動が行われています。私はそうした委員会の一つ、研修委員会の委員でもあります。
研修委員会では、様々な「キャリアアップ研修」を企画・実施しています。外部から講師を招くこともあれば、委員同士でインタビューしあったり、講師業に取り組む会員の持ち込み案件を取り上げたりと、毎回あの手この手で試行錯誤しながらやっています。正直、うまくいかないこともありますが、貴重な専門知識や経験をもつ先輩や仲間たちから学べることは多く、自分としても、大いに啓発されました。
また、私自身は「職業人生を計画的にステップアップする」という考え方に物凄く懐疑的なので、正面から「知財技能士会を活用して更なるキャリアアップを実現しましょう!」とうたう団体の中で活動することは、視点の異なる他者の考え方を知るうえで、大いに参考になりました。
こうした委員会活動の現場で得られた経験が、今回の動画にも色々と反映しています。

最新の話題を取り上げる

次に、動画の内容も、絞り込んでいかなければなりません。
動画制作の方針として、まず、①体系よりもニュース性を意識すること、すなわち、一般向け画像生成AIサービスや、誰でも簡単に使える会話方式のインターフェイスをもつChatGPTの登場などに伴い、「生成AIの衝撃」が熱く語られていた、2023年上半期当時の社会状況に強くフォーカスすることにしました。このため、知的財産の中でも、特に著作権を中心に取り上げました。あまり整理しすぎず、まだ答えのない問題が次々に出てくる状況で、どんな点に注目すれば「専門性」につながるのか、一緒に考えてもらうような内容を目指しました。論点整理や体系化は、興味をもって一歩踏み出した方々を対象とする、次の段階の話だと考えています。
そして、②特定の現場でしか通用しない「ハウツーもの」にはしないこと。既に知財管理の実務にどっぷりつかっている人は、今更リスキリングについて啓発する必要はないでしょう(むしろ、私が教えて欲しいくらいです)。もっと広く、様々な業種の方々に見てもらえるような動画を目指しました。
さらに、③技術や「仕事」、イノベーションではなく、職場で働く「人」を主役にすること。こと社会人教育に限りませんが、私たち法律屋の見地から言えば、「教育を受ける権利」は基本的人権です。技術や仕事論に没入して、働く人の生活を向上させることを見失ってはいけません。職場のDX化を進めた結果、当事者が職を失うような結果になっては本末転倒です。AIについて学ぶのが本題ではなく、AIを扱う人が何を見て、どう考えるようにすればいいか、ということが最終的なテーマになります。

とはいえ、この時期は、次々にニュースが飛び込んできて、一つの教材を完成させるうえでは、あまりに流動的な状況でした。社会的な関心の高さを反映して、研究者や文化庁などから一般に向けた積極的な発信も行われたこともあり、制作期間ぎりぎりまで、最新の情報を追い続けたため、完成度を犠牲にせざるをえない部分もありました。「もう少し丁寧に解説して欲しい」という感想をもつ視聴者の方がおられたら、それは私の責任です。
そうした状況下で、動画を一本のコースとしてまとめるためには、技能士という立場から一段引いて、「そもそも知的財産を保護することの意味」を考えるという、大局的な視点が必要でした。
このとき参考にした、一冊の本があります。ロバート・P・マージェス著『知財の正義』(勁草書房、2017年)です。同書は、特許庁内の翻訳プロジェクトによって日本版の制作が進められたという、ちょっと変わった経歴を持っています。ロック、カント、ロールズの分析を踏まえた、哲学的な見地から、特許や著作権などの知的財産権が、人間の生存を維持し快適にするうえで重要であること、権利者にもたらされる利益が、その人の労働に基づく社会への貢献を根拠とすること、社会的分配の観点から適切な制限を受けるが、それでもなお、創作者への特別な利益の付与が正当化されること、などを論証しています。正直、だ・い・ぶ、歯ごたえのある本で、私も久しぶりに岩波文庫の『完訳 統治二論』を引っ張り出したりしなければなりませんでした(電子書籍版を持っていることも忘れていましたが…)。もっとも、『ハリーポッター』シリーズの著者J・K・ローリングについて熱く語るなど、意外にカジュアルな一面もあります。今日の状況をとらえるうえで非常に役立つ一冊ですので、意欲のある方はぜひご一読をお勧めします。
もっとも、今回制作するのは学術研究の動画ではありませんから、哲学的な正しさに頼り過ぎてもいけません。わからないものはわからない、知ったかぶりをせず、一般常識の範囲で慎重に説明を組み立てることも大切です。

動画制作に用いる技術

Midjourneyを使った画像生成

既に4,000字を超えましたが、もう少し語らせてください。
前作『舞と学の契約入門』から約5年、『AIで絵を描く時代の知財技能』の制作にあたっては、いくつか新しい技術を導入しました。これも一種の時代性、ニュース的な要素を担っています。
まず一つ目。画像生成AIサービス「Midjourney」を利用しています。
たとえば、『AIで絵を描く時代の知財技能』では、ガイド役の二人のキャラクターが登場します。前作に登場した「舞と学」と同じ名前ですが、入門編よりも少し成長した姿をイメージしています。
せっかく、「AIで絵を描く時代の」とうたっているわけですから、彼らを画像生成AIサービスを使って描く機会を逃すわけにはいきません。
ご存知の方も多いかもしれませんが、現状の画像生成AIサービスは、思ったとおりの画像を一発で生成してくれることはありません。いくつか出してもらった案を見て、「こんな感じで、もっと明るい色調で」とか、「イメージと違うのでこういう風に修正して」などと指示を出しながら、何度もやり取りを重ねます。時には、思っていたのと全然違う案が出てきて、「あっ、これすごくいいですね!この線で進めましょう」となることもあります。これは、人間のイラストレーターに依頼するのと基本的に同じですね。
一つの画像を生成するだけでも、何度もやり取りを繰り返すことになりますが、今回は各キャラクターにつき、アップと立ち絵、複数の画像を使用するため、それらが「同じキャラクターを描いた」絵に見えるよう、さらに調整を行わなくてはなりません。
結局、舞については約100回のやり取りを重ね、動画に使用できるクオリティの画像が完成しました。それでも、ペンタブとペイントソフトを使って自筆画像を作成するのに比べ、かなり少ない労力で、それらしい画像が作れます。一般向け教材ですので、あまり「イイ味」を出し過ぎず、制作者の顔が見えすぎない、ある意味、適度に没個性的な画像を用意することも大事ですね。この点、Midjourneyは、適度なごった煮感というか、ちょうどいい具合にありふれた感じを出してくれるので助かります。

「舞」の制作過程(1) メガネは多分AIが勝手に追加しています


「舞」の制作過程(2) メガネは…(以下同文)


「舞」の制作過程(3) 左上のお姉さんの右腕が、イイ感じにAI絵らしさを出してます。

もちろん、キャラクターだけでなく、背景やちょっとしたカットも、生成AIを利用して描いてみました。よく見ると家具の細部が奇妙だったりと、あえて生成AIの「らしさ」を残すようにしています。

カップの後ろが鉛筆立てになっている斬新なAI意匠。並んだ鉛筆がポッキーのようです。

VOICEPEAKでキャラクターを会話させる

新しい技術の二つ目は、感情表現もできる読み上げソフト「VOICEPEAK 商用可能6ナレーターセット」(株式会社AHS)の導入です。
ある意味、画像生成よりもこちらのほうが、ものすごく助かる技術です。『舞と学の契約入門』では、キャラクターの会話シーンになると、私が地声でセリフを読み上げていました。自分で言うのもなんですが、正直ちょっと、アレですよね…。
読み上げソフトを導入した『AIで絵を描く時代の知財技能』では、舞は女性の声、学は若い男性の声でスムーズに会話をしてくれるようになりました。また、オープニングのナレーションにも、舞とは別の女性の声を当てています。
読み上げソフトを使った動画作品といえば、ニコニコ動画やYoutubeでおなじみの「ゆっくり動画」が有名です。こちらは元々、「AquesTalk」という音声合成エンジンを使うことが多かったらしいです。「聴きやすさや明瞭性を重視し、人の声にこだわらない高品質な音声」(アクエスト社の製品紹介ページより)というのが技術的な特徴で、霊夢と魔理沙、二体のかわいい饅頭(生首)が会話するというシュールな設定に似合っていました。
これに対し、VOICEPEAKは、キャラクターに人間臭さを付与する、感情の振れ幅や話す速度、アクセント、イントネーションなどのパラメーターを細かくコントロールできるのが特徴です。思い通りに喋らせようとすると、ちょっと手がかかりますが、相手に会えて喜んでいる様子や、取引先に電話をかけている人特有の、あのちょっと高めのテンションを表現したい場合には、とても重宝します。

なお、MidjourneyやVoicepeakを使うのは、今回が初めてではありません。
実は、このnoteでも公開している『トンネルに雨は降らない』シリーズに登場するシーンをイメージした画像に、本文テキストや、その読み上げ音声を付けたものを、秋帽子のInstagramやYoutubeチャンネルで公開しています。あえてリンクは貼りませんので、興味のある方は探してみてください。

トンネル世界の恐怖、パンダ様。彼の活躍するパートは…ゴメンナサイまだ全然書いていません。


秋帽子のオリジナルコンテンツ「トンネル」を持っていることは、社会人教育関連のお仕事をするうえでも、結構大きいですね。
現状では、生成AIを使用して制作した画像につき、著作権を主張できるかどうかは微妙です。そこで、画像単体で公開するのではなく、物語の本文テキストや、読み上げ台本などとセットで運用することにしています。
もちろん、既存の著作権保護作品につき、侵害にならない配慮も必要です。Midjourneyでは、画像生成を指示するプロンプトで、特定の作家や画風を指定することも可能です。しかし、個人で楽しむ範囲を超えて、事業者名で広く一般に公開するコンテンツについては、そうした方法で生成した画像は使わないほうがいいでしょう。万一、実在の画像に類似したものが生成されてしまった場合に、権利の侵害に当たる可能性を否定できません。

スタジオでの収録

約5年の間には、新型コロナウイルスの流行があり、動画収録でおなじみだった光景も変えてしまいました。
マイラ」の撮影では、運営会社である株式会社アイ・ラーニングのスタジオをお借りして、収録を行います。『AIで絵を描く時代の知財技能』の撮影でも、パソコンを担いで収録に向かったのですが…。
なんと、研修センターの教室が、みんなスタジオに改装されていました!部屋に入ると、机と椅子の代わりに、カメラやサーバーが並び、たくさんのケーブルがうねっています。
企業の現場にリモートワークが定着し、社員研修の世界でも、受講者を教室に集めて行うスタイルは消えてしまったようです。
普段から講師業をバリバリやっておられる先生方からすれば、何をいまさらという話かもしれませんが、ちょっとした浦島太郎の気分です。
しかし、時代が変わっても、「撮影素材を活かすも殺すも編集次第」という点は変わりません。この工程はまだAIにおまかせというわけにはいかないので、熟練のスタッフさんに依存するところが大きいです。今回も、テンポの良い動画に仕上げていただき、ありがとうございました!

もう少し書きたいことがあったのですが、そろそろ6,500字に達しそうです。
スマホでスクロールしながら読むには、ちょっと長すぎですよね。
続きはまた今度ということにして、いったんこの報告を終えたいと思います。
動画をご覧になりたい方は、ぜひ「マイラ」への登録をご検討ください。個人会員は、月額課金(クレジットカード)で、全コンテンツが見放題になるそうですよ。

では、このへんで。
2023年9月29日 今年の十五夜は満月です
秋帽子


30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.