滑るということ

 氷の上を歩くことで、重心を真上からスケートの上に落とすことを練習する、というのが前回までの話であった。重心を真上からスケートの上に落とすことを覚えることで、重心がスケートの上にくること、足首、膝、股関節の動きの連動を覚えることを狙っているのである。
 そして、足首、膝、股関節に真上から体重がかかることにより、ブレードの上にぶれない力がかかってくる。これが滑ることの前提条件となる。では、歩くことから滑ることにどうすれば転換するのであろうか。歩いていることは前方への移動で、その移動の方向と平行にブレードを置けば勝手に滑ってゆく。つまり、ガニ股で歩いていたつま先をまっすぐにするのである。
 歩く上で、ガニ股から足をまっすぐ向けると勝手に滑るという理屈(理屈にもなっていないが(苦笑))までは説明できた。しかしながらいつも歩いている状態から滑る状態に移行するわけではない。言い換えれば、次の段階として、推進力はどのように得ればよいかという話になってくる。それは、滑っていない方の足(これはフリーレッグと言われる)を伸ばす意識を持つとよい。歩いていて氷の上から離した足を伸ばす感覚である。よく”氷をしっかり蹴る”という言い方をなされるが、私はこの表現が大嫌いである。氷を蹴る、ということは一生懸命”漕いで”滑ることになるからである。とてもとてもエレガントではない。エレガントに推進力を得るには、まっすぐに立った体の軸を崩さないことである。つまり、腰を落とした状態でフリーレッグを伸ばすと、エレガントに推進力を得ることができるのだ。そして摩擦係数の小さい氷で、上からブレードを抑えることでスムースな滑りができてくるのである。
 よく一般的に”前向きに滑るにはブレードの踵側、後ろ向きに滑るにはブレードの真ん中より少しつま先側に体重を乗っけるべき”というのはよく言われる。確かにその通りで、前向きに滑る時はブレードの後側、バックで滑る時はブレードの前側に乗ると滑りやすい。しかしながら現役時代の私はバックで滑る時もフォアで滑る時もブレードのほぼ真ん中より少し前側に体重を乗せていた。ちょうど重心をまっすぐに落とすとその位置に力がかかるように感じたからである。
 膝や足首の曲げ方はクラシックバレエのバーレッスンで必ず行われるプリエやフォンデュを参考にするとよい。お尻を締める感覚と上半身を引き上げる感覚はフィギュアスケートの基本の体の使い方に恐ろしく相同するのだ。フィギュアスケート選手がバレエをまるで必須科目のように行うのは体の使い方がいろいろな部分で相同するから(実は根本的に違う部分もあり、注意が必要でもある)である。

 滑るための基本の練習としてよく”ひょうたん”と呼ばれるものがなされる。日本全国どこのスケート教室に行っても必ず行われるものであるが、これも注意が必要だ。私は先ほどから”ブレードを真上から抑えること”をしばしば語っているが、ひょうたんは重心を左右の足の間に落とすことになってしまう。滑りの練習として、実はどちらかの足に体重を乗せること、ということを蔑ろにしてしまうのである。

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