子どもの権利委員会総括所見のしくみ

日本の保育についての国連・子どもの権利委員会の所見を読む

日本は国連の子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)に批准しています。子どもの権利条約は、国連で結ばれた国際条約で、これに批准した国は「締約国」となって、条約の実行と進捗状況報告の義務を負います。

子どもの権利条約は、子どもが命を守られ、健やかな発達を保障され、常にその最善の利益を考慮される権利、自分に関することについて意見を表明する権利を有していることを示し、締約国にその権利の保障を求めています。

上図は、締約国が条約を実行できているかどうかを子どもの権利委員会がチェックするしくみ(報告制度)を描いたものです。子どもの権利委員会は、定期的に締約国政府からの報告を受け、またその国の民間団体からも意見聴取をして、締約国の政策についての所見を発表しています。

2019年3月5日 には、日本に関する第4回・第5回の総括所見がまとめて発表されました。全体は実に多岐にわたっているのですが、ここでは、保育に関連する部分について取り上げてみたいと思います。

なお、次の訳文は「ARC 平野裕二の子どもの権利・国際情報サイト」から引用させていただきました。

子どもの権利委員会:総括所見:日本(第4~5回):(抜粋)

<乳幼児期の発達>
40.委員会は、保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会の設置(2018年)および「子育て安心プラン」(2017年)を歓迎する。持続可能な開発目標のターゲット4.2に留意しつつ、委員会は、前回の勧告(パラ71、73、75および76)を想起し、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
 (a) 3~5歳の子どもを対象とする幼稚園、保育所および認定こども園の無償化計画を効果的に実施すること。
(b) 質の向上を図りつつ、2020年末までに不足を減らし、かつ新たな受入れの余地を設けて、大都市部における保育施設受入れ可能人数を拡大するための努力を継続すること。
(c) 保育を、負担可能で、アクセスしやすく、かつ保育施設の設備および運営に関する最低基準に合致したものにすること。
(d) 保育の質を確保しかつ向上させるための具体的措置をとること。
(e) 前掲(a)~(d)に掲げられた措置のために十分な予算を配分すること。

(a) に「幼児教育無償化計画を効果的に実施すること」とあります。委員会へは日本政府から「幼児教育無償化」が新しい子ども施策としてアピールされたのだと思いますが、本当に「効果的」になっているのかどうか、前のnoteにも書いたとおり、私は疑問です。

(b) ~(d)では、保育の提供量の確保にもふれつつ、質の確保を図らねばならないことを強調しています。(c)に「保育施設の設備および運営に関する最低基準に合致したものにすること」とありますが、「幼児教育無償化」の対象が基準を満たしていない施設にまで広げられたことを委員会はご存知だったでしょうか。

(e)…そうなんです。お金を投入しないと質は確保できないんです。特に、保育士の資質向上には、待遇改善や人員増による負担軽減が不可欠だと思います。財源が「幼児教育無償化」で枯渇していないことを祈ります。

<生命、生存および発達に対する権利>
20.委員会は、前回の勧告(CRC/C/JPN/CO/3、パラ42)を想起し、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
(a) 子どもが、社会の競争的性質によって子ども時代および発達を害されることなく子ども時代を享受できることを確保するための措置をとること。
(b) 子どもの自殺の根本的原因に関する調査研究を行ない、防止措置を実施し、かつ、学校にソーシャルワーカーおよび心理相談サービスを配置すること。
(c) 子ども施設が適切な最低安全基準を遵守することを確保するとともに、子どもに関わる不慮の死亡または重傷の事案が自動的に、独立した立場から、かつ公的に検証される制度を導入すること。
(d) 交通事故、学校事故および家庭内の事故を防止するための的を絞った措置を強化するとともに、道路の安全、安全および応急手当の提供ならびに小児緊急ケアの拡大を確保するための措置を含む適切な対応を確保すること。

(c) ここにも基準について書かれています。放課後児童クラブの基準が緩和されたことを委員会はご存知だったでしょうか。<障害児のある子ども>の項では明確に「(c) 学童保育サービスの施設および人員に関する基準を厳格に適用し、かつその実施を監視するとともに、これらのサービスがインクルーシブであることを確保すること」と指摘しています。
そして後段。保育施設でも重大事故の検証制度が始まっていますが、こういった検証が「自動的に、独立した立場から、かつ公的に」行われるように求めている点に注目したいと思います。

(a) (b) は主に学齢期のことになりますが、日本の子どもたちが特に就学後、生き生き生活できているのかもとても気になります。競争社会で、社会が大人をいじめ、大人が子どもをいじめ、子どもが子どもをいじめる、みたいなことになっていないか、嫌な感じがしています。

子どもの権利委員会は、締約国全体に発信した「乳幼児期における子どもの権利の実施」という一般的意見の中で、保育所などの職員が「適切な心理社会的資質および適格性を有し、十分な人数で配置され、かつ十分な訓練を受けることを確保しなければならない。(中略)乳幼児を対象とする仕事は、高い資格を有する男女双方の労働力を魅きつけるために、社会的に評価され、かつ適切な賃金が支払われなければならない。」と示しています。

子どもの権利保障のために、これらのことが必要だという考え方を、私たちの社会は深く学ぶ必要があると思います。まず、待機児童問題を論じ方も変えてほしい。「お母さんが困っている」のではありません。お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、勤務先の会社も、社会全体が困っているのです。もちろん子どもも。「預かってくれるならなんでもあり」の待機児童対策政策になってしまったら、一番被害を受けるのは子どもです。

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