ジュディ・バドニッツ 『イースターエッグに降る雪』

★★☆☆☆

 ジュディ・バドニッツの長篇処女作。通算二冊目の作品。訳者は木村ふみえ。1999年刊行。翻訳版は2002年。

 祖母、母、娘、孫と四世代にわたるサーガというところが、トンミ・キンヌネンの『四人の交差点』を思い出しました。とはいえ、テイストはかなりちがいます(寒そうなところは似ていますけど)。

 前半部分の祖母イラーナが寒村から亡命してアメリカに行くまでと、子供が産まれ、孫が産まれ、ひ孫が産まれていく展開とで大きく分かれます。
 前半部分はいつの時代のどことも知れない場所として描かれていますが(どうやら東欧らしいです)、亡命先はきちんとアメリカと書かれています。このあたりの抽象性と具体性のバランス感が『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』収録の『わたしたちの来たところ』と通じます。
 マジック・リアリズム的な描写やおとぎ話のようなエピソードが随所にみられ、ジュディ・バドニッツらしいと思いきや、そのまま進みません。

 後半は四世代にまたがる女性たちの視点で代わる代わる語られます。それまでの語り手だったイラーナも語り手の四分の一となります。
 個人的には後半部分がいまひとつまとまりきれていないように感じました。挿入されるエピソードが、長篇小説のなかにうまく組み込まれきれていないように思えます(たとえば、娘サーシィの夫ジョーが清掃機械に片付けられて消えてしまう部分など)。短篇や掌編であれば許容できても、長編のなかでそれをやられると、ちょっと首を傾げてしまいます。

 基本的に女性たちの話なので、男たちは容赦なく話から切り捨てられていくのはわかりますが、それにしてもあまりにバッサリしすぎではないでしょうか。

 そういった意味で、いくぶん独りよがりなところが多い気がしました。短篇では成立しても、長編では、そのような個人的嗜好性の力業もほどほどにしないと読者を置いていきかねないです。

 オレンジ賞の最終候補に選ばれた作品だそうですが、受賞しなかったのも肯けます。確かな世界観をもっていますが、まだうまく統御しきれていない印象です。

 何世代にかにまたがる一族のサーガという点では、先に挙げたトンミ・キンヌネンの『四人の交差点』の方が小説としての完成度ははるかに高いと思います。

 とはいえ、本作はバドニッツの二冊目であり、三冊目(『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』)はまた短篇に戻ったことを考えると、いろいろと思うところがあったのかもしれません。
 バドニッツの作風だと、短篇というフォームの方がより活きると僕は思います。そういう向き不向きはありますから。

 ちなみに、原題は『If I Told You Once』。『かつてあなたに語っていたら』みたいな意味でしょうか。なんとなくですが、イラーナの内心の科白のような気がしますね。
 邦題そのものの是非はともかくとして、原題を意訳したのは当然でしょう。そのままだと、タイトルとしてわかりづらいでしょうから(『イースターエッグに降る雪』というのは、いまひとつ好きではありませんが)。
 タイトルを考えてみるのも一興かと思います。

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