ERNEST HEMINGWAY 『A FAREWELL TO ARMS』

★★★★☆

 Random Houseから出ているVintage Classicsシリーズで読みました。新潮文庫『武器よさらば』(高見浩訳)も同時に読んだので、読み終えるのにけっこう時間がかかりました。
 具体的には片手に一冊ずつ持ち、英文を何行か読んだあとで日本語訳を確認するという読み方です。最初は立ったまま電車で読むのが大変でしたけど、慣れるとなんとかなるものです。

 高見浩訳のヘミングウェイはほかにも読んでいますが、原文と照らし合わせて読んだのは初めてだったので、実に新鮮かつ刺激的でした。こういう読み方をすると、訳文のすばらしさを実感できます。ヘミングウェイの文体を生かしながらも日本語の文章として読みやすくなるような工夫が随所に見られます。その工夫が実にさり気なくて心憎いです。決して前面には出てこないけれど、丁寧かつ繊細に原文をすくっています。

 ヘミングウェイの文章は簡潔で省略が多い反面、andなどの接続詞で文を繋げて(繋げまくって)長文にしてしまうところも少なくありません。もちろん意図的にそうしてるのですが、そのまま翻訳すると冗長になりかねないので、原文と同じリズムというわけにはいきません。そのあたりの匙加減が絶妙です。
 また、指示代名詞や普通名詞で表すことも多いので、文脈からそれが何を表しているのかをきちんと類推する必要があります。そこを踏まえた上で原文に近いきっぱりとした訳文にしなければならないので、簡単ではないと思います。見事です。
 僕などは単に読み取るだけでも、うーむと首を捻って考えこんでしまうことも多かったです(英語力の問題でしょうけれど)。

 個人的にはヘミングウェイの魅力はその文体にあると思います。『日はまた昇る』や他の短篇を読んでも同じ感想を抱きました。なんというか、ストーリーテリング自体にはそれほど惹きつけられないのですが、その話がヘミングウェイの手にかかると実に読ませるのです。切り詰められたことばの選び方とシンプルな文章構造で描かれるらこそ、ヘミングウェイの作品は強く深く残るのだと思います。

 翻訳で読んでも原文で読んでも、その魅力がしっかり味わえるのがすばらしいです。

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