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古代の名族・阿波忌部氏の足跡を訪ねる 山崎忌部神社@徳島・山瀬

新宿ニコンサロンに写真展「やっぱ月帰るわ、私。」を訪れてから9年。インベカヲリ★さんの写真をついにようやく購入しました。



21世紀日本の「うき世」を活写した、インベさんの作品の中では最も写真らしい写真の1つなのではなかろうか。菱川師宣にも見せてあげたい。

このことを記念し、今年6月に徳島・山瀬に山崎忌部神社を訪ねた際のことをあらためて記事化します。6月の四国一周旅行のことは、まだ全然記事化していないので、これを機に重い腰をあげねば。


旅行で初めて徳島に来ている。中・長期の旅行の際は、いつもだと出発前に念入りに調べて立ち回り先を大げさではなく分刻みで決めてかかるのだが、今回は出発直前まで仕事が忙しくてその余裕がなく、旅をしながら行き先を選定することにした。その資料として、『徳島県の歴史散歩』(山川出版社)を持ってきたのだが、今朝徳島駅構内の『ヴィ・ド・フランス』でスマホを充電しながら読んでいて、ある記事に目が止まった。

「山崎忌部神社」。吉野川市山川町忌部山にあるその社は、名族・阿波忌部氏の本拠地だった場所に鎮座するという。同書によれば、忌部氏は古代において中臣氏と並んで朝廷祭祀に重要な役割を果たした。中世には社のある現在の山川町忌部で会合が定期的に開かれ、忌部一族の意思決定を行っていたという。


実は「忌部神社」を名乗る神社は同じ徳島県内にもう一か所ある(美馬郡つるぎ町の御所神社)。明治時代、この2つの社が正統を争った際、政府が両社と全く関係のない現在の徳島市の勢見山(徳島駅からそう遠くない)に別の社を立て、これを正統な忌部神社としたという(現存)。


この記事を読んで、私は三木学さんがインベカヲリ★さんの写真展「理想の猫じゃない」の評論「秘めごとをさらす-現代のお籠りと鏡」を思い出した。この中で三木さんは、インベさんを忌部氏と結びつけて論じていた。


21世紀にインベカヲリ★氏を輩出した古代以来の名族・阿波忌部氏。その本拠地に立ち忌部氏の祖神天日鷲命を祀る忌部神社!これは行っておかねばなるまい。


ということで、徳島県初訪問の観光客であるはずの私は、徳島城も眉山もうっちゃり、真っ先に山崎忌部神社に参詣することにした。おそらくは徳島県人さえほとんど知らないし、知っていても行こうとは思わないだろう。これが信仰というヤツなのか。


勢見山の忌部神社に行くのは簡単だが、歴史と切り離されている場所には興味が向かない。御所神社は興味深いのだが、自動車免許を持たない私には行けそうもない場所にある。行けるのは、徳島線山瀬駅から徒歩20分ほどという山崎忌部神社だ。

山瀬駅に着くと、駅舎は北にあった。神社が南にあるのは知っていたので、一度北側に降りて、南に渡れる場所を探そうと思ったが、なかなかない。あらためて駅の跨線橋に登ると、跨線橋の南側の階段の裏に、駅の南側に出られる道があることがわかった。こりゃ初訪者には難解。

山瀬駅周辺はこの辺りの中心集落だった時期もあるようで、家屋はそこそこあり、自動車も時々通る。他に太陽光発電パネルが目立つ。

道に地蔵や板碑があるのは地方の過疎地ではよくあることだが、鬱蒼とした繁みなんかがあると、なにやらアニミズムの気配を感じてしまう。

列車が到着したのが1240で、帰りの列車の1本目が1329、その次は1時間後。駅から神社まで片道20分なら、急いで往復すれば間に合う。もちろん、私は旅慣れているので、それが非現実的な期待であるのは知っている。だが皮算用はする。で、その取らぬ狸は忌部神社入口で無惨にも打ち砕かれた。

かなりの量の石段である。しかもあまり手を入れる人もいないのだろう。けっこう草が生えてしまっている。登りでは数えている余裕がなかったが、下りで数えたら180段ほどだった。その程度ならよくある量なのだろうが、私はなにせ巨躯なのだ。登るだけで力尽きた。



やっとのことで登りきったが、お参りする気力も体力もない。幸い、木製ベンチが神社よりもちょっと高いところにあったので、しばらく横にならせてもらう。このようなとき、「排除型」のベンチがいかに反人道的かわかる。実に憤ろしい。

10分ほど休んだだろうか、身体を起し、社にお詣りする。あなたの末裔、インベカヲリ★氏の著書『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』を持ってまいりましたよ。インべさんの著書は本当はもう一冊、『私の顔は誰も知らない』も旅の伴に持ってきたのだが、別の鞄に入れて徳島駅のコインロッカーの中だった。






神社の裏山を30分ほど登ったところに忌部山古墳群があるそうだが、そこまで行くのはさすがに厳しい。満足のうちに石段を降りると、先ほど私を警戒してグルグル唸っていた近所の黒い犬が、眠ってしまっていた。





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