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連載小説『エフェメラル』#1

第1話 ただ、心に従う


 人が生活の場を地球から宇宙に移して数百年が経った現在も、トラックによる輸送が主な物流手段であった。トラック運転手のエマは、この日も火星の企業から依頼された人工惑星の建設部品を月へと運んでいた。ただ、その荷物の他に、あるモノを運んでいた。
 
「なんであたしがこんなにモノを運ばなきゃならないんだかね」
 
 エマは運転中、進行方向を見ながら、独り言のように呟いた。
 
「あれ?だって、乗ってけって言ったでしょ。私が勝手にトラックに乗り込んだわけじゃない」
 
 助手席に座った少女はエマの言葉に反応してそう答えた。
 
「うるさい。乗ってけと言ったのは確かだし、それ自体に文句はない。でもね、ちょっと黙っててくれない?運転に集中できないからさ」
 
 そうは言ったものの、実際は、トラックの運転をオートに切り替えていたため、ハンドルは、手の置き場に困って握っているだけだ。何度注意しても隣で話し続ける少女の話に適当な相槌を打ちながら、エマは火星を出発するときのことを思い返していた。
 


 

 火星で荷物を預かったエマは、惑星出発ゲートで自分の出発時間を待っていた。出発ゲートにはトラックが出発を待つための待機場があって、そこには手続きを済ませた数百台のトラックが出発を待っていた。エマのトラックが出発するのは2時間後。待ち時間にはラジオを聴くのが習慣になっていたエマは、この日も火星のローカルラジオで古い時代のジャズを聴きながら、ボーっと辺りを眺めていた。その時、小さな体に大きな荷物を背負った薄汚いこどもが目に入った。そのこどもは、ゲートに待機しているトラックに次から次へと渡り歩いて運転手に声をかけていた。おそらく、ヒッチハイクだろう。
 
「あいつ、どこに行くつもりなんだろう」
 
 エマはトラックの運転席でしばらくそのこどもの様子を伺っていたが、そのうち誰かが乗せてやるだろうと思ったところで睡魔に襲われ、ウトウトと寝てしまった。
 
 コンコンコン
 
 運転席の窓を叩く音で起きたエマの目に飛び込んできたのは、運転席を覗き込む、薄汚い子どものギラついた二つの眼だった。こちらに向かって何か話しているようだったので、外部のマイクをオンにした。
 
「ちょっと!聞いてる?乗せてってくれるの?くれないの?答えてよ!」
 
 マイク越しに入る子どもの声がトラックの中に響き渡り、眠気が一気に覚めた。
 
「うるせえな!そんなデカい声ださないでも聞こえてるよ!」
 
 エマは外部へのスピーカーをオンにして怒鳴り返した。
 
「あ、そう。それは失礼。さっきからずっと話しかけてるのに答えてくれないからさ。ねえ、私のこと、乗せてくれない?」
 
 エマはその声を聞いて、もう一度じっくりと子どもの顔を見た。
 
「お前、女か?」
 
「え、そうだけど。それが何?問題ある?」
 
「とりあえず、中に入れ。話は中で聞く」
 
 エマはトラックのドアを開いてその子を招き入れた。
 
「ずいぶん汚ねえな。それに臭せえ。シャワー浴びてきな」
 
「え、マジで良いの?じゃあ遠慮なくいただくよ」
 
 宇宙空間を移動するトラックは、一度の航行で数カ月は移動しなければならない。積み荷を入れるコンテナ、牽引する船にある生活空間を含めると、人が十数人はゆうに暮らせるくらいの大きさになる。食料や水も蓄えておかなければならない。トラックは移動する家のようなものだ。シャワー室もあれば、寝室もある。惑星の重力影響下から解き放たれれば、基本は自動運転で目的地近くまで運んでくれる。 
 なぜ、その子をトラックに入れ、そしてシャワーまで浴びさせたのか、エマ自身も理由は分からなかった。ただ、そうしてやることしか思いつかなかった。そいつはもしかしたら、こどもの皮を被った凶悪な奴で、今頃、殺されてトラックごと奪われていたかもしれない。しかし、エマの直観がそうではないと判断したのだ。 エマは、シャワーから戻ってきたその子の顔、体つきを確認した。その子は、おそらく15,6歳くらい。それはエマ自身にもかつてあった少女時代の記憶がそう確信させた。そして、濡れた身体をタオルで拭く目の前の少女の肌は、最近では見かけないようなほど白いものだった。これほど透き通るような白い肌を、エマは生まれて初めて見たと思った。
 
「あんた、どこ出身?」
 
 エマは、純粋な興味から少女に聞いた。
 
「テティス」
 
 少女は端的に答えた。
 
「土星区か?」
 
「そう」
 
「なるほど。辺境の中でも、さらにド田舎だな」
 
 エマの言葉に対して、少女は頷いて答えた。
 
 土星近辺の空間は『土星区』と呼ばれた。各惑星の周辺では衛星に人が住んでいるほか、人が住むために開発された『モック』と呼ばれる人口惑星が点在していた。今やモックは1000以上の数になり、各惑星のモックの人口を全て合わせれば、数億人がそこに暮らしていた。
 
「で、あんたはどこに行きたいの?」
 
 聞きたいことはたくさんあったが、まずは目的地を聞き、それがエマの行き先と全く違う方向だったらすぐに追い払ってやろうと思った。
 
「月。そこから先は、月に行ってから考える。このトラックの行き先はどこ?」
 
 月か。エマの目的地も月だった。こうなると、断る理由を探さなくてはならない。しかしエマは、そんな面倒なことを考えたくはなかった。どうせ月までなら、乗せて行ってやるか。エマの心は決まった。
 
「行き先が同じなら仕方ねえ。月まで乗せてやるよ。あたしはエマ。あんた、名前は?」
 
「ユーヒ。誰につけられたかは分からない。物心ついたときにはそう呼ばれていた」
 
 透き通る肌の白さについてもう少し聞きたいと思ったが、この広い宇宙では、出自なんて些細な問題だ。そして、過酷な宇宙環境で生きていくためには、直観力が生死を分ける。そうエマは信じていた。だから、ユーヒを乗せることにした。理屈じゃない。エマは心に従い、そう決めた。
 


 

 火星を出発して数日で、エマはユーヒのお喋りに辟易した。はじめは久々に接する若者の会話に興味を持ったが、だんだんとその中身の無さ、コロコロと変わる話題に頭がついていかなくなり、2日も経つと、苛立ちさえ覚えるようになった。
 
「エマ、聞いてる?テティス名産、岩ガニの酢漬けについては、ここからが大事なところなんだからね!」
 
「うるせえよ。岩ガニが美味えのは分かったから。これから少なくても1時間は黙ってろ。黙らねえと、外におっぽり出すぞ!」
 
「あのさ、私、『うるさい』って名前じゃないんだから。あんまりうるさいうるさい言わないで。あ、でも黙るよ。暗くて寒い宇宙空間に出されて死にたくないからさ」
 
 そんなやり取りを数週間続けている。いつもなら一人の旅路、話し相手がいることは多少の退屈しのぎになるかと思ったが、こうも話し続けられるぐらいだったら、一人の方がまだマシだった。エマはラジオを聴きながらそう思った。 航行は順調で、何のトラブルもなく火星と月の中間あたりまでやってきた。船には十分な食料、燃料があるが、慣れない同行者との旅に気疲れしていたエマは、旅の休憩地点として作られたモックに寄ることにした。宇宙空間のドライブインだ。
 
「おお、モックに寄るの?良いね。私も外の空気を吸いたいところだった」
 
「お、何か?あたしと一緒だと息が詰まるって言うのか?」
 
「そんなこと、ないわけじゃないけどさ。ウソ!ただただ感謝してますよ、エマ様には!」
 
「おまえ、調子だけは一人前だな」
 
 モックに寄ることは、エマの人生の楽しみの一つだった。トラックの運転は孤独との戦いだ。体力よりも、精神的なタフさが求められる。そんな仕事だから、ドライブインで同業者と酒を飲みながらくだらない話をするだけでも心が救われるような気になった。長くこの仕事をしていれば、その分、顔見知りの仲間も増える。このドライブインでも、おそらく、エマは知り合いを数人見つけることができるはずだ。そんなことを考えていると、減らず口を叩くユーヒに対しても、少し寛容になれた。  
 モックの入港ゲートをくぐり、指定の場所に船を駐める。モックの中は気圧、気温、湿度まで快適な環境に管理され、天候さえもコントロールできる。システムが故障しない限りは半永久的に快適な生活環境が保たれる。港から居住区に入ると、そこには数十万人の人々が暮らす街がある。このモックは、トラックや旅客船、軍隊など、旅をする者たちに対する様々なサービスの提供で生活を成り立たせていた。エマはユーヒを連れて港から街に出た。そして、行きつけの飲み屋に入っていった。
 
「おお、エマじゃないか!」
 
 エマが店に入ると同時に、店主らしき人物がカウンターの奥から呼びかけた。
 
「おう、おやじ。久しぶりだな。いつものくれ」
 
 エマはそう言いながら、カウンターに座った。ユーヒもその隣に座る。
 
「お、エマ、連れがいるなんて珍しいな。しかも、若え女だ。おめえのガキか?」
 
「赤の他人だ。月まで乗せていくだけ。おい、ユーヒ、おまえもなにか頼め。おごってやる」
 
「じゃあ、遠慮なく。ビールと青椒肉絲をちょうだい!」
 
 エマとユーヒはお互い黙々と食事をした。周りは酔っ払いたちの話声や皿と皿がぶつかる音などで騒がしかったが、その騒がしさにエマには懐かしさとと心地よさを感じていた。そう、これが人の生活の音なのだ。 食事も終わり、エマは2杯目を注文した。その時、背後から近づいてくる足音に気が付いた。
 
「よう、エマ。元気にしていたか?」

「誰あなた。エマの知り合い?」
 
 エマより早く、ユーヒがその声に反応した。ユーヒの問いを無視して、その男はエマの隣に進み、エマの顔を覗いた。
 
「ああ、誰かと思ったら、ボンボンの坊ちゃんじゃないか」
 
「そんな呼び方はねえだろ。おれには『カジュウ』って名前があんだけどな」
 
 カジュウと名乗ったその男は、エマがボンボンと言うだけあって、小奇麗な身なりに、温和そうな表情、肉体労働とは縁のなさそうな、か細い体つきをしていた。いけ好かない。ユーヒは一目でその男に対して生理的な嫌悪感を覚えた。
 
「カジュウか。そんな名前だったねえ。で、なんの用?」
 
 冷たくあしらうエマに対して、その優男はひるまない。
 
「冷たくすんなよ。一応、これでもお前の恋人候補、優先順位第1位のおれだぜ?」
 
「お前、アホか?よくもまあそこまで自惚れたもんだな。そもそも、あたしは恋人なんていらないし、まして、金持ちのボンボンが惚れるような女じゃねえ」
 
「アホか、、、確かにそうかも知れねえ。でもな、おれは見てのとおりの優男だ。そんでもって取り柄と言ったらこのルックスと金だけときた。だから、おめえみてえな芯がバチっと通った女と相性が良いってわけよ。そして、その赤毛と鋭い目つきがまた、おれの好みだ」
 
 それを聞いたユーヒは久しぶりに虫唾が走った。私がエマのような逞しい腕を持っているのなら、その口を2度と開けないようにボコボコに殴ってやっているところだろう。そうユーヒは思った。キモい優男がエマに言い寄っていると、また別の足音が近づいてくる。
 
「よ、エマ、久しぶり。今日こそは、おれと朝まで付き合えよ」
 
 話しかけてきたはの、脳みそまで筋肉でできていそうな、マッチョな青年だ。
 
「なんだ、ギドか。お前もいたのか?朝まで付き合ってもいいが、結局先に飲みつぶれるのはお前だろ?やるなら今夜も勝負してやってもいいぜ」
 
 こちらの男は、優男に比べたらまだマシかも。でもなあ、どう見ても頭は悪そうだ。ユーヒは二人の男をまじまじと見比べた。その後も、エマの周りには男どもがどんどん集まってくる。よく見ると、女も吸い寄せられているようだ。
 
「エマ、あんたモテモテだねえ」
 
 ユーヒはただ面白がって言った。
 
「正直、迷惑してんだけどな。でも、誰からも相手をされないよりかは良いんじゃねえか?」
 
 そう言ったエマは、まんざらでもなさそうだ。そしてエマは自分を囲んだ大勢の人々と代わる代わる乾杯した。それは数時間続いていたが、気がつけばエマ以外の全員が飲みつぶれて眠ってしまっていた。
 
「おい、ユーヒ。そろそろ帰るぞ」
 
 そう言ってエマは立ち上がり、しっかりとした足取りで港に向かって歩き始める。
 
「エマ、あなた、酔ってないの?」
 
「ん。酔っているとは思うが、問題ない。そういう体質なんだな」
 
 宇宙には稀に特殊な体質の人間がいるが、こんザルは初めて見た。ユーヒは、この日からエマの事を『ザル人間1号』と心の中で呼ぶことに決めた。
 
 港に向かって歩いていると、後ろから数人の足音が聞こえてきた。ユーヒは、まだエマを追ってくるやつがいる、と思った。エマは相当モテるのだな。
 
「エマ、まだあんたを追ってくるやつがいるみたいよ」
 
 ユーヒの言葉が聞こえなかったかのように、エマは前を向いて歩き続ける。
 
「ユーヒ。振り向くんじゃないよ。あたしたちはつけられている。たぶん、あたしじゃない。つけられているのは、ユーヒ、あんただ」
 
 その言葉を聞いて、ユーヒの顔から血の気が引いた。透き通る肌が、本当に透き通ってしまったかのような蒼白さだった。街から港に行く角を曲がった瞬間に、エマはユーヒの手を握り、走り出す。それと同時に、後ろの足音たちも走り出す。
 
 ドオン ドオン
 
 港に続く狭い路地に銃声が響く。ユーヒは震えながらも必死に走った。エマは服の胸元から拳銃を取り出し、後ろに向かって数発撃った。それでも後ろの足音は停まる気配をみせない。あと少しで港のゲートだった。ユーヒの足がもつれ、その場に倒れる。
 
「ユーヒ!立て!」
 
 エマの声で自分を奮い立たせようとしたユーヒだが、疲れと怖れで脚が動かない。エマはその間も追っ手に向かって銃を撃つ。お互いが道の端にある柱に隠れて、しばしの沈黙があった。
 
「なんだよ、あいつら。ユーヒ、心当たりは?」
 
 エマの問いかけに、ユーヒは答える余裕がない。エマはどうにか逃げ切る方法を考えたが、追っ手はおそらくプロ、しかも複数人。まともにやりあったら、こちらがやられる。しかし、この状況では、自分が仕掛けていかないことには状況を打破できないことは明らかだ。やるしかない。一か八か、飛び出るしかない。銃に弾を補充し、敵に向かって飛び出そうとしたその時、上空から何者かが降ってきて、敵の方向へ走り出した。
 
 バシュ バシュ バシュ
 
 鋭い銃声が響く。薄暗い中で見えにくいが、空から舞い降りた人物が敵と交戦している。エマもそれに加勢した。敵は4人のようだったが、謎の人物がすでに3人を仕留めかけていた。エマは残りの一人に向け発砲した。最後の一人が倒れたところで静けさが戻った。 エマとユーヒを助けたその人物は、倒れた敵を調べている。エマはその人物に近づいた。背が高い短髪の青年だった。
 
「あの、、、助かったよ。でも、一体これはどういうことだ?あんた、何か知っているのか?」
 
 エマが話しかけても、その青年は何も答えず、敵の持ち物を調べ続けている。エマのところに、ユーヒが寄ってきて、エマの腕にしがみついた。まだ、震えは止まっていない。
 
「ユーヒ、大丈夫か!ケガはないか?」
 
 ユーヒは小さく頷いた。どうやら、ケガはないようだ。二人はただ茫然として、青年の様子を見つめていた。しばらくして、青年が敵の調査を終えたようだった。
 
「二人とも、ケガはないか?」
 
 青年が初めて口を開いた。いや、実際には口から声が出ていたようには思えなかった。その声はあまりに抑揚がなく、脳内に直接、音声信号を送り込んできたような無機質な響きだった。
 
「暗くてよくわからないが、たぶん、大丈夫だ」
 
 青年は、エマの言葉を聞いて少し微笑んだように見えた。でも、それはエマの錯覚か、思い込みだったのかもしれない。青年は、エマとユーヒを港の船まで送り届けてくれた。疲れ切った二人は、船に入り、寝室のベッドに倒れこみ、そのまま寝てしまった。
 


 

 翌朝、エマは目を覚ますと、一緒にベッドに倒れこんだはずのユーヒがいないことに気づいた。
 
「ユーヒ?」
 
 まさか、昨日のやつらにさらわれたのか。エマは船のデッキに向かって走った。ユーヒは、船のデッキにいた。そこから街の方向を眺めていた。エマはホッとしたと同時に、昨日の出来事について考えを巡らせた。
 
「おはようユーヒ。落ち着いたか?」
 
「おはよう、エマ。まだ、少しドキドキしてる」
 
 それはそうだろう。たぶん、銃撃戦だって初めてだったはずだ。
 
「おまえ、昨日のやつらに、なにか心あたりがあるんじゃないのか」
 
 ユーヒは街の方向を向いたまま、何も答えない。
 
「言いたくないならそれでもいい。でもな、あたしだってあんなことに巻き込まれるのはもうごめんだ。おまえが何も言わないなら、もう、ここでこの船を降りてもらう」
 
「エマ、ごめん。こんなことに巻き込んでしまって。でも、私はどうしても月に、、、旅を続けなくてはならないの。だから、月までは一緒に行ってほしい」
 
 そう言われてもな。自分の命を懸けてまで一緒に旅するに値することなのか。しかし、この子をここに置いていくこともできない。
 
「ユーヒ、少し考える時間をくれ」
 
 エマはリビングに戻り、ラジオでジャズを聴いた。流れるような旋律は、心の動揺を一時的に鎮めてくれたが、すぐに目の前の現実的問題に引き戻された。
 
「あたしはどうすべきなんだ。誰か、教えてくれよ」
 
 そう言って窓の外を眺めているうちに、脳裏に昨日、窮地を救ってくれた青年の姿が浮かんできた。いや、脳裏ではない。船の窓の外に、その青年は現実のものとして立っていたのだ。
 
「あっ、お前、なんでそこにいるんだ!」
 
 エマは叫んだ。青年は、デッキにいるユーヒに向かって歩いていった。エマは慌てて青年を追った。デッキでは、ユーヒとその青年が対峙している。何か、会話をしているように見えた。
 
「おい、お前、ユーヒに何をした!」
 
 青年は振り向いてエマを見た。ユーヒが、その青年とエマの間に入った。
 
「エマ。この人は、私たちを守るために来たんだって言っている。この人がいれば、たぶん、私たちは安全に旅ができると思う」
 
 エマは、ユーヒの目を見た。こんなにしっかりとユーヒの目を見るのは初めてだった。その目は、エマがかつて一度だけ見上げたことがある、地球の空のような青だった。その目に吸い込まれそうなことに気づき、エマは視線を逸らす。今度は隣の青年の目を見た。目の色は明らかに違っていたが、その目も、ユーヒと同じ質のものだと感じた。
 
「ふう。わかったよ、ユーヒ。お前の言葉を信じる。あたしの直観がそうしろと言っている」
 
 エマはまた自分の直観に賭けることにした。そう、大事なのは大義名分とか、理屈なんかじゃない。自分の心に従って進むことなんだ。

つづく


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