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スカジャンだらけの美術館。『PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展』/ヨソモノ、ヨコスカ。#06

横須賀屈指のおしゃれ系スポット『横須賀美術館』で、2022年12月25日まで開催されている『PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展』を観てきた。
開館15周年の記念企画に「PRIDE OF YOKOSUKA」を打ち立ててスカジャンをテーマにするなんて、もう「待ってました!」と拍手喝采だ。

横須賀美術館、振り切りすぎてて最高。

まず「美術館でスカジャン」という意外性がすごい。
スカジャンはアメカジやヴィンテージの文脈で長年愛され続けるファッションアイテムだが、一方で暴走族的な“昭和の不良(ヤンキー)”イメージも定着しているまあまあの劇薬。

服であればなんでもござれの、新宿『文化服装学院博物館』みたいな場所ならまだしも、通常運転の美術館で「服」を取り上げるとしたら「ピカソの愛した名品 バスクシャツ展」みたいな(妄想)、誰しも「おしゃれだよね~」と思ってくれる服のほうが収まりがいいはずだ、と想像する。

しかし、チケットを買うといきなり「好きなスカジャンをはおって記念撮影できるブース」が登場。
展示室内はスカジャンで埋めつくされているし、椅子に座って室内を監視するスタッフまでもスカジャン着用。「こ、これが横須賀のプライド……」とヨソモノの気持ちは盛り上がりまくり。この『横須賀美術館』の振り切り具合、最高だ。

テーラー東洋(東洋エンタープライズ株式会社)の新作サンプルが着られる記念撮影ブース。
色・サイズ・生地の違いも味わえるのが楽しい。

「服」のカタチをした歴史。

展示は「どうやってスカジャンが生まれてきたのか」という道のりを示すところから始まる。終戦直後、日本に進駐してきた米兵向けに日本的なお土産品「スーベニア」の需要が高まり、そのうちのひとつが「刺繍」だったこと。旧日本海軍の施設があった横須賀は、基地が米軍に接収された影響でスーベニア需要の高いエリアだったこと。当事のドブ板の写真は、英語の看板だらけ・水兵だらけでかなり異国っぽい。

《ドブ板通り・ダイヤモンド商会でパッチを選ぶ米兵たち》1958年頃 ダイヤモンド商会蔵
FASHION PRESS/「スカジャン展」横須賀美術館で - 1940年代後半〜60年代の貴重なスカジャン約140点が一堂に より引用

当事売られていたスーベニアは、陶器や刺繍のハンカチにはじまり、写真をもとに油絵風の肖像画(似顔絵)を作るとか、軍用のバッグに富士山など日本的なモチーフの絵を描くサービスなど、かなり多種多様。
いかに米兵受けするアイデアを考えて売ろう、生き抜こうとする人々のたくましさが伝わってくるようだ。

面白かったのは、当事の米兵には「カスタムカルチャー」というものがあった、というくだり。ジャケットの裏側など自分しか見えない場所にこっそり刺繍を入れて軍服をカスタマイズする行為のことだ。
たとえば日本に来た記念に、袖口の裏側に龍の刺繍を入れ、自由に過ごせる勤務外の外出時間になると、袖を折り曲げて刺繍をチラ見せする、みたいな。それが徐々に発展し、鷲や虎、龍など和の刺繍を入れたジャケットをお土産にする「スーベニアジャケット」につながっていったらしい。

そこでふと思い出したのだが、ヤンキーブームと言われた80年代、男子学生たちの間で学ランの裏側とか袖裏に刺繍を入れたり(ヤンキー度高め)、ボタンの裏側を変えたり(フツーの子も挑戦可)、カスタマイズするのが流行していたような記憶。
集団で同じ服を着せられると、どこかに自分らしさを出したくなるのが国籍を超えた人間の性なのだろうか。

刺繍、刺繍、刺繍のオンパレード。

スカジャン好きなら誰もが知っている『テーラー東洋(東洋エンタープライズ)』が所蔵している、ヴィンテージ・スカジャンがずらずらっと展示されている空間は圧巻だった。「龍」や「虎」など、刺繍のモチーフ別に分類されているため、柄の配置や色糸の用い方など表現方法の個性がよく分かる。何色もの糸を組み合わせて色の深みを出していたり、動物の毛並みを躍動的に表現していたり。

今はコンピューターミシンに図案を読み込ませると、機械が均一な刺繍を仕上げてくる時代。
しかし目の前に展示されているスカジャンの刺繍は、針がジグザクに動く「横振りミシン」を使ったもの。現在売られている安いスカジャンはほぼ機械刺繍だが、スカジャンが好きな人はたいてい「横振り刺繍のものがほしい」と言う印象がある。

ミシンを使うとはいえ、職人が足で針の振れ具合を調節しつつ、手で布の位置を動かしながら絵柄を表現する。人馬一体ならぬ、機械と人が一体となった職人技だ。
もともと和装刺繍のために生み出された技法だそうだが、その表情は機械刺繍よりも繊細で、同時にふっくらとした温かみもある。そもそも職人さんに絵心がないと、こういう美しい絵柄には仕上がらないだろう。
スカジャン=横須賀のイメージだが、刺繍は主に群馬県の桐生で行われていたそうで、横須賀美術館の学芸員が視察に行って交流調査をしている、という記事も後日見つけた。

※下記は、横須賀のスカジャンの老舗『ファースト商会』の松坂さんが横振り刺繍をしている動画。

こういったスーベニアジャケット人気が広まり、後には世界各国の米軍基地に日本製のジャケットが輸出されていたそうで、パナマ(パナジャン?)やホノルル(ホノジャン?)モチーフもあれば、遠いところだとアイスランドやグリーンランドの地図が入ったものまで。

「カッコいい!」と着て喜べる意味。

ド派手な展示室の片隅に、ひっそりとあったジャケットの前で自然に足が止まった。「ENIWETOK ATOLL(エニウェトク環礁)」の文字の横にキノコ雲の刺繍。他のジャケットにはモチーフの説明書きが付いているのだが、この1枚には年号以外の情報は記されていなかった。
米軍による核実験がモチーフなのは明らかで、何も書かなかったのにはきっと意図があるのだろう。スカジャンだらけの展示で気分が高揚していたが、ここでハッと思い出す。これらはすべて戦争の産物だってこと。そしてこのキノコ雲も、日本の(多分群馬の)職人さんが納品したんだよな、と。

横須賀美術館による今回の展示情報には、こんな記述がある。

本展では、テーラー東洋(東洋エンタープライズ株式会社)の貴重なヴィンテージ・コレクションを中心に、現在、世界中のファッションシーンからも注目を集める「スカジャン」の魅力あふれる世界をご覧にいただきます。あわせて、戦後から50年代に横須賀「ドブ板通り」で実際に販売されていた商品や写真等により、全国の米軍基地周辺で展開した「基地文化」の一端をご紹介します。
横須賀美術館ウェブサイトより

「基地文化」という言葉にはあまりなじみがなかったが、横須賀に住む前からスカジャンは知っていたし、福生にある米軍住宅で撮影をしたり、ヴィンテージ家具を見に行ったりしたこともある。
でもそれを、自分が産まれた昭和という年号に戦争があり、日本は負けて外国の軍が駐留し、そこで文化が混じりあった結果、と考えることをしていなかった気がする。知識として分かっていても、つなげて考えると小難しくなって楽しめなくなってしまうから、物は物でいいじゃん、みたいな。

戦争!悪!みたいな話をしたいのではなく、そうやって生まれてきた服が日本に逆輸入形式で紹介され、それを「カッコいい」と受け入れ、楽しめているというのはものすごいことだよな、と実感する。

それを言えばトレンチコートだってチノパンだって、ひいてはTシャツだって定番と言われる洋服にはもともと軍物だったアイテムがたくさんあることを思い出す。機能的で丈夫、量産に向いているわけだから、日常着としても優れているのは間違いない。
と考えると、戦争や軍というエッセンスはあっても、「土産物」だったスカジャンは機能もへったくれもなく、ただただデザインや刺繍の面白さという文脈で今まで残っているのだと思うと、独自のファッション的牽引力を持っている、と表現していいのかもしれない。

オーダーで1枚作りたい、という夢。

最後は、スカジャンの現在ということで、近年に作られたスカジャンがずらり。アニメをモチーフにした柄とかポップなデザインもあって、とにかくバリエーション豊か。
いわゆるデザイナーが作ったスカジャンも面白かった。たとえば『コムデギャルソン』のスカジャンは、黒いサテンのラグラン袖・日本地図/鷲/富士山柄という伝統的フォーマットは踏襲しつつ、柄はすべてプリントで表現されている。刺繍にこだわらないスカジャン、それって自由だし、じゃあスカジャンをスカジャンたらしめるものとはそもそも何なのか、という想像も広がる。

現代のスカジャンコーナーには、『テーラー東洋』を筆頭に『ディオール』『コムデギャルソン』『ワイズ』など、ハイブランドがリリースしたスカジャンもあって見応えあり。

産地・桐生でも職人の担い手は減っているようだが、横振り刺繍を用いたアート作品の展示もあった。美しくてうっとり。

印象深かった、OZAKI FUMINAさんの作品。紹介文には「SNSを通じて横振り刺繍と出会い、独学で技術習得に励む」という一文があって仰天。すごい方だ!

帰りはミュージアムショップに立ち寄り、図録をゲット。
写真も豊富で、展示にない歴史の紹介や解説なども充実している。個人的に永久保存版。

ひょんなきっかけで横須賀に住み始めたものの、スカジャンを1枚も持っていない私。この街が気に入っていているのをご縁に1枚ほしいな、と思っていたのだが、今回の展示を見てホント良かった。
裏側にある成り立ちを知り、そこにあった人の営みを知り、その上で「今」ファッションとして愛し倒せる1枚を作りたい、と夢が広がった。
いつか完成したら、またご報告したい。

*****

今頃訪問記を書き残してしまったが、スカジャン展は2022年12月25日まで。つまり今週末!あと3日!
今年のクリスマスはスカジャンまみれで過ごしてやろうじゃないか、という猛者はぜひ横須賀へ。

開館15周年 PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展
2022年11月19日 (土) 〜 2022年12月25日 (日)
開館時間 10:00~18:00
※ちなみに、スカジャンを着て観覧すると2割引きがあるそう。
スカジャン展URL
https://www.yokosuka-moa.jp/archive/exhibition/2022/20221119-726.html
横須賀美術館ウェブサイトより



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