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「どこでもない場所へ向かう」

「どこでもない場所へ向かう」
中津川浩章展

浅草橋から隅田川に向かって歩いて5分程のところにルーセントギャラリーがあります。先日の浦和の展覧会でお世話になった中津川さんの作品展の最終日だったので、足を運びました。

ルーセントギャラリーは、昭和期の芸者歌手 市丸さんのご自宅の古民家をオーナーが買い取り、ギャラリーとして催事を行っています。
長唄の歌詞にも出てくる柳橋に程近く、いつかこのあたりを散策したいなぁと思っていた矢先でした。

オープン11時にあわせて、ギャラリーに到着。コンクリートのビルに囲まれた、小さな古民家ギャラリーの門をくぐり、玄関の扉を開けると、昭和の雰囲気が漂います。ここで市丸さんが暮らしていたと思うと、何だか心が弾みます。

中津川さんの作品は、ネットや動画で拝見していましたが、実物を見るのは初めてでした。玄関から奥の座敷に通じる廊下にも壁や家具に作品が配置されています。

抽象的な、ドローイングなのか、ペインティングなのか、墨絵のようにも見える…作品のひとつひとつに、じーっと引き込まれていきます。

水のある風景や、街並みのようにも、人がいるようにも、色んな見方ができます。作品にはタイトルが付けてあるけれども、自分が作品を見た印象とタイトルがマッチしていたり、ギャップがあったりするのもおもしろい。実物を見るまでは黒の墨だと思いこんでいたのですが、実際には紫のアクリルでした。

広いミュージアムの真っ白な壁に展示されても存在感を魅せる中津川さんの作品が、木造の日本家屋の雰囲気にも違和感なく溶け込んで見えるから不思議です。畳に座ってみたり、柱越しに見たり、色んな角度で眺めても飽きないし、お客さんの話し声や、電車が通る音や、そうした生活音さえも自然に吸収している作品たちでした。

ギャラリーの2階が隅田川を見渡せるカフェになっていて、そこに飾られた作品たちも味わいがあります。どんな道具で描いているのだろう。水しぶきのようでもあり、光の屈折のようでもあり、躍動感が伝わってくるようでもあり、静謐な感じも伝わってくるようです。

ギャラリーをあとにして、柳橋を渡りました。神田川が隅田川と交わるこの場所は、船着き場もあり、かつてはここから、船で吉原や深川に渡る男衆で賑わっていたそうです。柳橋の近くの稲荷神社には、柳橋芸妓組合の文字もあり、かすかな面影を残しています。

たまには、ぶらり東京町歩き。

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