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「社会の変え方」を読んで感じたこと

    元明石市長の泉房穂著「社会の変え方」(発行所:ライツ社)を読んでみた。
    氏の経歴を見ると、『東大を卒業してNHKに就職。その後、政治家秘書等を経て、司法試験に合格し弁護士事務所を開設。衆議院議員を経て、兵庫県明石市長』と華麗。エリートだ。と思ったら、明石市の小さな漁村育ちで、裕福でもなく、子どもの頃は苦労したらしい。弟さんの事で社会に憤りを覚え、弟の分まで稼ぐために頑張り、困難を乗り越えていった人。へぇ~。
    それにしても、「東大、司法試験、政治家」。どれか1つの道でも大変なのに、全部やってしまうなんて、凄いエネルギッシュ。
    もちろん、私は氏とは、昔も今もなんの利害関係もない。明石市長時代の暴言が巷を騒がせた時は、厄介な人が市長になったな、くらいにしか思わなかった。

市役所の予算は市議会が決める

 「知事や市長は全権者なので、国会議員より遣り甲斐がある」と言う話。聞いた事があるけど、そう簡単じゃない。
 日本の地方公共団体は、首長(知事や市長等)と議会議員を、ともに住民が直接選挙で選ぶ二元代表制。つまり、市長も、議員も住民が選んだ人。市長は市役所のトップで、議会はこれをチェックする人達って感じ。国の仕組みとちょっと違う。
 市役所では、今年の仕事(事務・事業)を粛々とこなしながら、条例案をつくり、翌年度の仕事のための予算案をつくる。けど、予算の決定権は議会にある。つまり、市長が自分らしい政策をやろうとしても、議会がOKしないと、一円のお金も動かせない。
 泉房穂氏が初めて市長選に打って出た時、自民党も民主党も対立候補を推薦し、知事も市議会も産業団体もほとんど対立候補を支持してたらしいので、四面楚歌の中で当選した感じ。「市民が支持母体」というとカッコ良さそうだけど、議会等々を敵に回しての市政運営は、苦労したと思う。
 それでも3期12年も頑張り続けたところに、氏の社会変革への思いの強さを感じる。そして、数々の子ども施策を実現し、人口も税収も増やし、全国の成功事例のひとつとして認知されている。ホントに凄いこと。よくやったなぁと思う。

成功の鍵は、泉房穂氏

 少し前の明石市は、さほど注目されてなかった。けど、人口減少問題が緊急課題としてクローズアップされる中、人口増加地域として注目されたのが明石市。住み易い街、子育てし易い街、子どもに優しい街等々を実現した。今では近隣地域にも波及し始めているらしい。
 明石市の成功は、ひとえに泉房穂氏が市長になったことだ。本書を読んで、そう思った。同時に、近隣都市が真似しても長続きしないだろうな、と心配になる。
 泉房穂氏は、明石市の生まれで、幼い頃の実体験を踏まえて「やさしい社会を明石から」と言い続けた。大学時代の論文も「子供を応援しない社会に未来はない」と綴ったそうだ。子ども施策の実現に熱い思いを持つ氏が旗振り役となって、つくり上げた子ども施策群。ヘンなものはないはず。市議会等々も是々非々で同意したのだろう。
 いい施策だから上手くいく、というほど簡単ではない。
 光当たる施策の裏には影もあっただろう。いつだって、地域には様々な立場や思い持った人達がいる。そんな中で子ども施策を重点と定め、実施していくには、いくつもハードルを乗り越えなければならない。

 そこには、泉房穂氏個人の熱い思いと、知性と感性(センス)、耐性等々があったはず。泉房穂氏には、起業経営者に多く見られる、目標達成のために何事をも成し遂げていく『実践力』の強さを感じる。
 そんな力量を持つ泉房穂氏が、縁あって明石市長になったからこそ、子ども施策を梃に明石市を社会変革できた。たぶん、氏なら、どこの市役所の市長になろうとも、たぶん、経営者になっても、成功したんじゃないかな。本書を読みながら、そんな感想を持った。

10年くらいで世代交代

 市長の任期は4年。就任最初の年は、前市長時代にほぼ予算が決まってるので、自分らしさは出し難い。残りの3年で・・・と思っても、新しい事をやるには、実態把握と解決策、関係者との連絡調整や合意形成等々も必要で、あっという間に1年、2年と過ぎていくので、1期4年では、大して自分らしい施策を実現出来ない。2期、3期と続けなければ、自分の理想を実現出来ないんだろうな、と思う。
 けど、泉房穂氏は第1期から、限られた条件の中で、出来ることから少しずつ、けど、パワフルに施策を展開していったように見える。
 市長の能力や政策等々によって長期政権も有効な地域もあるかも知れないけど、何万人もの人達がいる組織は、10年くらい(3期12年)やったら、世代交代した方がいいような気もする(何の根拠もない)。
 長期政権になると、シガラミや倦みが出てきたり、仲たがいが始まったりすることも、よくある話。
 その点では、泉房穂氏の引退は、頃合いも良く、引き際が潔い。

ライツ社も面白い

 読み終わってから出版社を見た。誰が書いた本か、どんな経歴の人かって事には注意してるけど、出版社はあまり気にした事がなかった。読み終えても、出版社を覚えていない本はたくさんある。
 けど、「ライツ」ってカタカナ出版社だったので、ちょっと気になった。
 調べてみると、明石市で起業したベンチャー出版社のようだ。

      「write」「right」「light」。書く力で、まっすぐに、照らす。
                                                                        (出所:ライツ社HP)
  さすが。上手いこと言う。
 昔の出版業界は、返本あり等々の古臭いシキタリなんかがあって、技術革新が進まなかった。Amazonが出てきて、今はどうなってるのか。
  どの産業でも、慣習因習や伝統文化の人だけでなく、いろんな経歴の人たちが集まると、技術革新が進み、産業変革が始まる。
  なんだか、ライツ社には、そんなニューウェーブが感じられた。ぜひ、斯界変革の旗手となって欲しいな、と思った。
 なんとライツ社さんは、「note」にブログがあった・・・知らなかった!

(敬称略)

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