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「一夜 隠蔽捜査10」を読んで

 今野敏著「一夜 隠蔽捜査10」(発行所:㈱新潮社)を読んだ。

 著者の本は、いっぱい読んでる。「隠蔽捜査」シリーズも全巻読んでいるし、警察小説シリーズだけでなく、拳法シリーズなんかもたくさん読んだ。ストレスを溜め込んでるとき なんかに最適な、スカッとする話が多い。
書店で新刊を見つけたら躊躇いなく買ってしまう。
 隠蔽捜査シリーズも、TVドラマの水戸黄門的な面白さ。いつも、あっという間に読み終わってしまい、モッタイナイと思う。
 本書も期待を裏切る事なく、面白かった。

軸足のブレない人

 主人公は、東大法学部卒で警察のキャリア官僚という設定。理論的で、情に流されずに、物事の原理原則に従って生きている。現実社会では、なかなか見かけないタイプだ。頭でっかちというか、ロンリーウルフのように一人我が道を行く。
 格式ばった儀礼や慣習となっている気遣いなどに頓着せず、合理的に物事を進めていく様は現代的に見え、その風変りなところが面白さを引き立てていく。劇画チックですらある。
 もちろん、本書でも、主人公の悩みは垣間見えるし、人情溢れるところも随所にみられる。決してスーパーマンというか、万能の人ではない。そこがイイ。
 そして、物語で、事件を解決するのは現場の刑事たちで、主人公じゃない。主人公は、名探偵でも名刑事物語でもない。主人公は、現場にすら入らず、任命と指揮に徹し、上席者たちからの横やりが入っても気にしない。全てに責任を負う姿勢で現場を守る。頼りになる上司物語か。
 イマドキ、主人公のような人は、あまり見かけない。
 現役時代、環境分野の仕事をやっていた。
その頃は、環境の仕事をやっている人は、どちらかと言えば余計な仕事をする人達で、余分にお金を掛けたり、手間を掛ける人たちで、出世コースから外れてしまう。それでも、その任に就いたからには、と一家言のある軸足のブレない人が多くて、面白かったし、心強かった。

子供たちに説明出来ないことはしない

 大量生産大量消費の時代。
 環境にも配慮した企業行動なんて建前で、事務所での節電や紙ごみ削減(=エコオフィス活動)でいい。そんな空気に満たされてた。
 そんな中で、「昔と同じじゃダメなんだ。手間ヒマお金をかけて、変わっていかなきゃならない時代に突入したんだ。戻り道はない。進化しなきゃ生き残れないよ」 そう、説いて回った。
 けど・・・、まぁ、物凄い抵抗(感)。
 
 本書の主人公のような軸足のブレない剛毅な生き方は出来ない。
けど、せめて、自分の子供たちの説明出来ない仕事はしない。それ位を自分に誓った。
企業内研修とかでも、
 「自分の子供たちに、お父さん、お母さんのやっている仕事を説明してみて下さい。『環境に配慮するのは大変なので、身近なエコオフィス活動だけやって“環境にも配慮してます”』なんて言えますか」。人情に訴える説得。
 へ理屈を言えば、子供たちは未来。子供に説明出来ない仕事は未来を無くす仕事だから、止めよう。って感じ。
 もちろん、嫌みや人情だけでは、どこからもお声がかからなくなってしまうので、あなたたちなら、こうしたら、ああしたら、と改善策を添えた。
 せっかく、講師として呼んで貰ったのに、皆の嫌がる話をするのは、ちょっと勇気がいる。場の空気がアウェーになって心が折れる。
 それでも、へ理屈を掲げて、あの手この手で聴衆をひきつけ、少しは納得してもらい、賛同してくれるように、してきた。
 どうだったんだろう。

 今なら、もっとまともなお手伝いが出来そう。
 あの頃は・・・青臭く、熱かったな。

 ともかく、本書、主人公のような背筋を伸ばした生き方は、到底マネできないけど、主人公のような愚直に信じる道を進む生き方に憧れた。
 早く「隠蔽捜査11」が読みたい。

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