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中学受験小説「翼の翼」を語る!

二月の勝者の名言に『君達が合格できたのは、父親の「経済力」。そして母親の「狂気」。』というのがあります。これから紹介する「翼の翼」は、それに加え、父親の狂気も登場してきます。第3章を読むには覚悟がいるでしょう。
 
私自身は読んでよかったなと思います。子どもの気持ちや母親の気持ちがていねいに描かれていました。amazonの紹介記事にある「過熱する親の心情を余すところなく描いた、凄まじき家族小説。」これを見た瞬間私は注文していましたw  著者、朝比奈あすかさんの著書は過去に入試に出題されたことがあります。「君たちは今が世界(すべて)」「人間タワー」「ななみの海」などです。2022年2月の教室通信を加筆修正してアップしています。


第1章の印象に残った言葉を紹介

「そんなの、いい、いい。中学受験をするんだったら、目先の計算力より、文章題を解く力だ。算数は結局、パターン化された問題より、どれだけ思考力があるかってところに集約されてくからな」(翼の父 真治)

「翼の翼」第1章 p.22から

中学受験経験者の父親のセリフだけあって深いですね。同じ点数でも中身が違うという話です。点数だけ取ろうとすれば、前半の簡単な問題をしっかり固めて後半を捨てればある程度の点を取れますが、低学年のうちからそれをやると伸びしろが期待できません。上位を目指すには難問にもアタックするチャレンジ精神が必要です。上位の子には「点取り屋になるな」と言われるのはこのためです。

「ああ、いいね。そういうのはどんどん読ませてやったらいいよ。読解力をつけるには、本をたくさん読むのが一番大事だし、語彙も増えるからな」(翼の父 真治)

「翼の翼」第1章 p.23から

こちらも父親のセリフ。子どもの興味を捕まえてうまく伸ばすコツです。特に読書は家庭環境が強く影響すると思います。子どもが興味を持った本を与えてほしいと思います。読書についてはこちらの記事にまとめてあります。

計算ミスも含めて実力だよ(翼の父 真治)

「翼の翼」第1章 p.84から

先ほどとは正反対のことを言っていますが、こちらも真実です。私はミスする癖は早めに直した方がよいと考えるタイプです。日々の与えられている計算をていねいにやることからはじめましょう。このあたりの管理は親御さんにお願いしたいです。1日10分でいいので寄り添ってあげてほしいです。秋口の6年生で、公開模試や過去問で計算ミスをしてしまう場合は、少し計算問題の負荷を上げてあげるとよいと思います。銀本(秋に配付)や前期日特のテキストから計算問題をピックアップして5問で、5分ほどで解かせるのです。はじめのうちは0点からもしれませんが、これも訓練で次第に取れるようになります。偏差値では50後半以上の人に効果的な対策です。

わたしはこの子の可能性を広げてあげたいのだ。そう思った。これは希望ではなく、義務のようなものだ。もしこの子が高学年になってから中学受験をしたいと言い出した時、もうバスに乗れなかったらどうなるだろう。わたしはこの子の選択肢を増やしたい。そう、中学受験をするのかどうかはまだ先の話だ。(翼の母 円佳)

「翼の翼」第1章 p.87から

私は中学受験の内側にいる人間ですから、中学受験おすすめします。お金はもちろんかかります。そして年々中学受験は激化しています。ただ、選択肢は広がるのは事実だと思います。中学受験は準備期間が長い受験です。その分辛いですが、子どもの潜在能力を引き出す時間があります。また、親御さんが手伝ってあげられるのも中学受験のいいところです。

第2章の印象に残った言葉を紹介

「うちは塾っていっても『補習コース』に通わせているだけで、受験するかも分からないのよ。ただ、パパが、高校受験だとああいうやつは内申書がひどいことになるから、早いうちになんかやっておいたほうがいいんじゃないか? まじで高校浪人するぞとかって言いだしてさ」(ママ友 大橋千夏)

「翼の翼」第2章 p.105から

我々は中学受験専門塾ですから、中学受験をおすすめします。一方、高校受験についても研究しています。埼玉県立高校では調査書のウエイトが高いです。学校ごとにすべて埼玉県の教育委員会のHPで公開されています。テストは500点満点ですが、たとえば名門校浦和高校ではその他320点分調査書の得点が加算されます。内訳は学習記録の得点が(中1:中2:中3が1:1:2)180点、特別活動の記録(生徒会活動、部活動等)が70点、その他の項目の得点(校外活動、取得資格)が70点あります。(※2022年当時は埼玉の教室長だったため埼玉の県立高校について書いています。)

中学受験のいいところはチャレンジができるところです。高校受験は事前の得点がありますし、浪人もできないのではチャレンジするのは少しきつそうです。

社会科の知識をまとめた音源を流しながらメニューをこなしている。

「翼の翼」第2章 p.108から

自分でもやってみて感じたのですが社会科は耳からの情報インプットに適した科目だなと思います。例えば、親御さんがスマホ等でテキストを読んで吹き込んであげて、それを流すなどもよいかもしれませんね。歴史と公民については以下の動画を参考にしてみてください。私のチャンネルで再生されている回数がどちらも上位です。

塾も水泳もない日は、四十五分勉強し十五分休むという、加藤(校舎長)に勧められた「集中力を切らさないためのタイムセット」で、計五本の勉強をすることを決めた。  

「翼の翼」第2章 p.127から

ポモドーロ(イタリア語で「トマト」のことで、トマト型のキッチンタイマーから来ています)勉強法という形で私のブログでも紹介したことがあります。やる勉強の科目を変えてモチベーションを保ち長時間勉強しましょう。

ポモドーロ・テクニックの方法とは、短めの作業と短い休憩を繰り返すことです。 具体的には「25 分の作業+5 分の休憩」を 1 ポモドーロとし、4 ポモドーロ(2 時間)ごとに 30 分間の休憩を取ります。翼の母、円佳は少し欲張って「45分の作業+15分の休憩」を1セットにしています。こちらはアスリート受験生仕様のポモドーロ・テクニックですね。

四年生の算数は まだ本当の算数ではない 次第に 応用力や現場対応力がないと解けないような難問が増える 四年生でうちの子エスワンです四天王志望ですと 鼻息荒くイキってた親が 子を追い詰める プレッシャーからカンニングに走る子も多いと聞く 五年生からが本当の勝負 少しずつクラスのメンバーの入れ替わりが始まり 六年生でだいぶ様変わり 中学受験嗚呼諸行無常(東大ダディ)

「翼の翼」第2章 p.128から

この本の中では東大ダディは悪者扱いですが、言っていることはなかなか真に迫っています。たしかに5年生の前半までは、計算が中心ですから、そろばんや公文で計算を先取りしている子は無双しています。しかし、割合がはじまってくると問題文を理解する読解力や整理力がものを言います。計算が算数に変わるのが5年生の時期なのです。油断することなく基本問題を反復して自分のものにしていきましょう。計算ができることは算数にとっては大きなアドバンテージです。謙虚な気持ちで算数に挑んでいれば問題ありません。

翼のクラス落ちの敗因は算数だった。中学受験は算数で決まると言う人も多い。翼は国語に比べて算数が弱い。

「翼の翼」第2章 p.130から

算数が苦手で頂点を目指すのは、やはり厳しいと感じます。特に男子校ではトップ校は算数が得意な生徒が集まるので基礎を確実にという勉強方法では点は取れません。守りの算数では勝てないのが最上位校の算数だと思います。

算数は難易度Cまでの問題を完璧にし、Dにはチャレンジするものの、Eは捨てましょう。理科と社会は授業範囲をしっかりおさえて復習テストの復習をきちんと。(校舎長 加藤)

「翼の翼」第2章 p.132から

この時点で加藤は分かっていたと思います。最上位生には捨て問はありません。全部やるんです。そして反復するのです。一方でこれは苦手科目の勉強法としては最適なアドバイスだと思います。

「はい、はい」翼はどうでもいいことのように雑に答えると、毎計(毎日の計算博士)のドリルをテーブルの端に投げるようにして置いた。この態度に、円佳は腹の底が熱くなるのを感じた。

「翼の翼」第2章 p.137から

このあたりから読むのが辛くなってきます。お互いにぶつけるところがないので物にあたってしまったりするんですよね。でもそれでは解決しません。我慢比べです。

誰もが言っているように、勉強より大切なものはいっぱいあるし、算数ができなくたって、翼が翼である限り、それが最高のことなんだ。

「翼の翼」第2章 p.152から

円佳はときどき正気に戻ります。だから翼は救われるのだと思います。子どもファーストを忘れないように中学受験を楽しみたいです。正解はひとつではありません。私も若い時には「こうすべきだ!」ということを言っていたときもありましたが、長い間この仕事をしていると懐が広がるもので、何でもありなんです。子どもの数だけ中学受験ライフがあります

算数の問題はテスト範囲の問題を全て三度ずつ解き、漢字も完璧、熟語も完璧、理科と社会もテキストを舐めるようにやった。

「翼の翼」第2章 p.153から

問題を全て三度ずつ解く。テキストを舐めるようにやる。この表現は個人的には好きです。反復とテキストをしっかり読む。王道の勉強法です。

一喜一憂しないようにとはよく言われるが、これが「一喜」と分かっていても、長いこと「憂」の時間が続いたのだから、この「喜」を思い切り味わいたかった。

「翼の翼」第2章 p.154から

二章の円佳は天然というかコメディタッチで描かれているところあって、読んでいる方としては救われます。いい成績をとると自ら義父母に電話するところなんかは好きなシーンです。

こうやって周りの子たちから良い刺激を受けていく。それは、親が与えられるものではない。だからこそ、子どもには、環境作りが大切なのだと実感する。

「翼の翼」第2章 p.156から

中学受験のメリットのひとつでしょう。時には友達同士で教え合ったりする様子を見るとうれしくなります。入試までのカウントダウンを見て、「100日切ったね。」「もう100日しかないどうしよう。」などと話をしていることもあります。残りの日を充実して過ごしていきましょう。

毎年10月24日が2月1日の100日前です

「ねえ、つーちゃんていつもどのくらい勉強しているの」貴子(ママ友)から真面目な顔で訊かれると、円佳は、分刻みのスケジュールを組み立てて息子に小学校を休ませてまで勉強をさせたことなどすっかり忘れ、「どうかしら……、わたし、ちゃんと見てないから、分からないのよ。水泳もあるし、あの子、学校のことも頑張ってるから、そんなに塾の勉強ばかりしているわけじゃないわ」

「翼の翼」第2章 p.189から

ママ友からは確かな情報は入手できない例です。残念ながら上位の子ども達は自然体でたくさんの時間勉強しています。子ども達は勉強をしているという感覚はないのかもしれません。算数などはお楽しみという感覚かもしれません。

「ねえ、大丈夫なの? つーちゃん」もはやそれを聞くことで何を得たいのか、円佳自身も分からない。だが、口は勝手に動く。(中略)傷つけたいわけでも、プライドを損ないたいわけでも勿論なく、ただ自らの不安ゆえに思ったことを垂れ流す母の口を前に、息子は何を言えばいいのだろう。白い頬を持ち上げて、大丈夫だと答えるしかない。

「翼の翼」第2章 p.195から

こちらは円佳が正気を失っているときですね。そしてここから怒涛の三章に突入します。辛い方はここで本をそっと閉じてください。三章のオープニングは私も心が痛かったです。気になる方はぜひ読んでみてください。今なら間に合います。反面教師として。。


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