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【大阪都構想】決定権を持っているのは政治家ではなく18歳以上の有権者【住民投票】

 大阪に滞在して一週間が過ぎた。すっかり大阪市の中央区民のつもりになっているが、残念ながらどんなに裏難波に詳しくなっても、11月1日の住民投票では投票する権利はない。こればっかりは、有権者に託すしかないのだ。

 おそらく、この記事が住民投票前の最後の記事になるだろう。

 このnoteは拡散能力があまりない。100人近くに読んでいただくには数日以上時間がかかる。この記事を住民投票の後に読んでいる方は少なくないはずだ。私はバズることを期待していないので、積極的には拡散していない。「都構想」をマニアックに紐解きたいヲタク向けに書いているので、どうか期日を気にしないでゆっくりと目を通していただきたい。

毎日新聞「誤報」騒動は大阪の政治的病理

 この数日、話題は毎日新聞の「特別区コスト」報道で盛り上がっているが、シンプルに騒々しいだけで、賛成派も反対派も本質から外れていると思う。

 いつぞやの橋下徹の「従軍慰安婦」発言もそうだったが、維新はメディアのあいまいな部分を最もおいしい餌にして食いつき、エンジンを噴かせる政治政治勢力だ。毎日新聞が住民投票を間近に控えて、ああいう中途半端な資料を基に特別区のコスト増を報じたのは、わきの甘さを感じざるを得ない。

 私は、毎日新聞の報道は「誤報」ではないが、ピントが外れて正確ではないと思う。記者が資料の意味を理解しておらず、財政当局の言い分をもって〝裏取り〟したものとみなしている。このnoteでも指摘した通り、地方交付税の基準財政需要額の算定額をもって特別区のコスト増を論ずることには無理がある。

 私は、大阪で都区制度を採用することには疑問しか感じないが、今回の報道に関しては毎日新聞の記事には同意できない。一方で、毎日新聞の記事を「誤報」と定義することによって特別区のコスト増がないということは証明できない。維新の政治家たちが毎日新聞の記事を「デマ」だと責め立てるのは異様な光景で、恐怖しか感じない。市役所の財政局長が記者会見で頭を下げて「お詫び」しているのも、不気味としか言いようがない。

 同時に、反対派が毎日新聞の記事を「間違っていない」と断定することにも同意できない。真実とは立場で決まるものではない。科学的立場はイデオロギーに左右されない。

 0か100かの不毛な抗争は、大阪がこの10年近く陥ってきた政治的な病理である。政策の建設的な議論を妨げ、政治をパワーゲームとしてきたことに、大阪の全ての政治家が反省すべきである。

「大阪市廃止・特別区設置」の決定権は政治家ではなく主権者にある

 今回の住民投票は、憲法の国民投票とも、条例に基づく住民投票(市町村合併など)とも、根拠となる法律が異なっている。この住民投票は、「大都市地域における特別区の設置に関する法律」に基づいている。

 11月1日の住民投票は、5年前と決定的に違うことがある。それがなんだか分かるだろうか。私は大阪の新聞にすべて目を通していないが、このことに触れている媒体はほとんど見かけない。

(関係市町村における選挙人の投票)
第七条 前条第三項の規定による通知を受けた関係市町村の選挙管理委員会は、基準日から六十日以内に、特別区の設置について選挙人の投票に付さなければならない。
2 関係市町村の長は、前項の規定による投票に際し、選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない。
3 関係市町村の選挙管理委員会は、第一項の規定による投票に際し、当該関係市町村の議会の議員から申出があったときは、当該投票に関する当該議員の意見を公報に掲載し、選挙人に配布しなければならない。
4 前項の場合において、二人以上の議員は、関係市町村の選挙管理委員会に対し、当該議員が共同で表明する意見を掲載するよう申し出ることができる。
5 関係市町村の選挙管理委員会は、第一項の規定による投票の結果が判明したときは、直ちにこれを全ての関係市町村の長及び関係道府県の知事に通知するとともに、公表しなければならない。その投票の結果が確定したときも、同様とする。
6 政令で特別の定めをするものを除くほか、公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)中普通地方公共団体の選挙に関する規定は、第一項の規定による投票について準用する。
7 第一項の規定による投票は、普通地方公共団体の選挙と同時にこれを行うことができる。

 この住民投票は、公職選挙法に基づいている。つまり、住民投票の権利を持つ有権者は、公職選挙法に基づいた有権者である。

 5年前の住民投票では、有権者は20歳以上だった。だが、今回は18歳以上が住民投票に参加できる。ここは大きい。

 今回の住民投票は、過去の維新の功績に対して審判を下すわけではない。未来に対して有権者が自分で決定するのだ。それは、「大阪市を廃止して、特別区を設置する」という一点に尽きる。

 吉村洋文のイソジン騒動や、毎日新聞の「誤報」も、住民投票では問われない。

 「大阪市を廃止して、特別区を設置する」ことは、政治家には決定できない。大阪府知事・議員、大阪市長・議員は、特別区設置協定書を決めることはできるが、実際に「大阪市を廃止して、特別区を設置する」ことを決めることができるのは、18歳以上の有権者にしかできない。

 主権者として責任のある1票を投じてほしい。

 政治家が決めたことなら、その責任は政治家にある。どんな暴政も悪政も、維新のせいだ、自民党のせいだと、責任を押し付けることができる。だが、今回、決断するのは有権者である。その結果責任は、有権者自身が負うことになる。

 おそらく、反対が多数になれば、維新の政治家たちは口をそろえて、「毎日新聞が悪い」「デマを広げた自民党が悪い」などと、責任転嫁することだろう。だが、それもそのはずで、彼らは特別区設置協定書をつくるところまでしか責任を負っていない。彼らに決定権はないのだ。

 反対派が「分からない人は『反対』に投票してほしい」と呼び掛けていた。それは間違っている。分からない人は調べてほしい。資料は山ほどある。テレビや新聞が報じている。市役所に電話すれば、教えてくれる。府知事や市長の「まちかど説明会」に行けば、質問に答えてくれる。

 「分からない人」に対して、「反対」に投じろというのは、主権者としての結果責任を放棄しろと言っているのと同じだ。とうてい、成熟した民主主義社会とは言えない。

 賛成派が「分からない人は維新の実績を評価してほしい」と呼び掛けていた。それは間違っている。今回の住民投票は、維新政治の評価は問われない。問われるのは、「大阪市を廃止して、特別区を設置する」の一点のみである。

 5年前、僅差で「反対」が上回り、高齢者の投票率が高かったことから、主に維新信者から〝シルバー民主主義〟と揶揄された。失礼な話だが、若い有権者の投票率が低いのは事実だ。大阪の住民投票からしばらくして、公職選挙法が改正され、18歳以上の選挙権が認められた。この5年で何度か、国政選挙や地方選挙が行われてきたが、住民が直接、街の将来像を決める住民投票は、大阪市内では初めて18歳以上の未成年が参加するのだ。

 彼らには、過去のしがらみはない。まだイデオロギーも未熟だろう。

 自分の頭で一生懸命考えて、自分で決断してほしい。親や兄弟、先輩、友だちから言われたからではなく、自分の目や耳で聞いたことを基に投票に臨んでほしい。

 住民投票は選挙と同様、秘密投票だから、周りの人がどんなことを言っていても、自分がどちらに投じたのかは分からない。安心して投票してほしい。

 未成年であっても、あなたは主権者だ。大阪の5年後の統治機構を、自分が決める権利がある。

 そういう誇りを、大阪市民としてのシティプライドにしてもらいたい。

特別区移行後の住民サービスの水準は新区長・新議会が決めること

 昨夜、維新の会が開催した「大阪都構想まちかど説明会」に足を運んだ。会場は近鉄上本町駅から近いホテルアウィーナ大阪。これまで維新は街頭で「まちかど説明会」を開催していたが、ハコを使うことはなかった。住民投票の賛否が拮抗していることから、少しでもじっくりと話を聞いてもらいたいということだろう。地元選出の府議いわく、ハコでの開催が決まったのは、今週に入ってからだそうだ。

 会場はソーシャルディスタンスに配慮して椅子と椅子の距離を空けていたが、立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。多くは維新の支持者で、最初から賛成に投票する人たちだと思うが、周りが熱狂的に拍手していても冷静な人たちもちらほらといた。

 ネットの配信以外で吉村洋文知事の話を聞くのは初めてだ。さすが、話がうまい。人気があるのが頷ける。質疑応答でたくさん手が上がり、司会が「最後の一人」と遮っても、吉村知事は「今、手を挙げている人、みんな答えますよ」と応じた。男前である。質疑応答の途中で会場を出たら、ホテルの入り口には公用車の周りに〝出待ち〟の婦女子がたむろしていた。

 都知事と違って、怖い顔をしたSPはいないが、なるほど人気者だと分かる。

 質疑応答で印象に残ったのは、都構想のデメリットの質問である。

 質問者は「今の段階で言えるリスクはあるのか?覚悟した上で(賛成か反対かを)決めたい」と話した。おそらく、まだ迷っているのだろう。

 吉村知事は「本質的なデメリットはない」としながらも、いくつか例を挙げた。その一つは、新たに設置される特別区の区長のことである。

 「区長には、頑張る区長とそうでない区長がいる。そうでない区長はみんなで声をあげてやめさせてほしい」

 吉村知事は「本質的なデメリット」ではないと言ったが、私はそうでもないと思う。これは重要なポイントなのだ。

 住民投票で賛成が多数になると、2025年1月に大阪市が廃止され、特別区が設置される。そして、60日以内に区長選挙と区議会議員選挙が行われる。2025年度の特別区の当初予算案は、新区長が編成し、新区議会が議決する。

 特別区設置協定書は、あくまで2025年1月1日段階の大阪府と四つの特別区の制度を決めているだけで、特別区が行う具体的な政策は、選挙で選ばれた新区長と新議員が決めることだ。

 賛成派がよく「特別区になっても政令市の住民サービスは変わらない」と言っているが、それを決めるのは、新区長と新議員である。現市長・市議にはその権限はない。というか、そのときには既に彼らは失職している。一応、特別区が政令市の住民サービスを維持できるよう、財源は確保することになっているが、5年後の財政状況など分からない。

 反対派がよく「特別区になったら政令市の住民サービスが維持できない」と言っているが、それを決めるのは、新区長と新議員である。

 新区長・新議員が協定書の内容を守るのかどうかは、有権者によるチェックが必要だ。特別区に移行すれば自動的に政令市の政策が継承されるわけではない。

 賛成・反対の罵り合いの中では、そういう可能性の議論と現実の話が混同されていることが多い。だから、分かりにくいのだ。

 さて、これが住民投票前の最後の言葉になる。

 若い世代に住民投票に参加してもらいたい。

 特に、18歳以上の未成年のみんなには、自分の街の未来を自分で決めることを体感していただきたい。

 日本では米軍基地の移設や原発の誘致など、様々な住民投票が行われているが、多くが自治体の条例に基づき、結果を「遵守」するものばかりだ。

 だが、今回の住民投票は違う。主権者の1票が直接、政策決定にリンクするものだ。市長も府知事も、住民投票の結果を覆すことはできない。

 こういう緊張感のある投票は、なかなか参加する機会は少ない。

 我々、日本人は近い将来、日本国憲法の国民投票でも、同じ緊張感を味わうことになるだろう。

 私は神奈川県民だから住民投票には参加できないが、大阪市民の決断に期待している。



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