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【大阪都構想】報道各社が報じた「特別区移行でコスト年218億円増」の読み方

 お風呂を出たらさっさと寝ようと思っていたが、なんだか大騒ぎになっているので、私なりに解説しておきたい。

 毎日新聞がネットで配信してから、新聞・テレビが次々に報じている。

 結論から言うと、これに「コスト増」という見出しは、私には立てられない。

 以下は毎日新聞に掲載されている図である。

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 そして、以下は朝日新聞からの引用である。

市財政局によると、人口約270万人の大阪市を単純に4分割して約67万3千人の4自治体とした場合、土木費や社会福祉費などの費目ごとに補正の係数が変わるため、合計で7158億円となり、218億円のコスト増になるという。
 市によると、都構想が実現すると、交付税は特別区全域を一つの市とみなし、大阪府とあわせて算定する。現在の府と市への交付税と原則、同額となるという。試算上は、コスト増分がそのまま収支不足となる可能性がある。

 書いてあることは、国の地方交付税普通交付金の算定について、現大阪市の場合と、特別区移行後とで、「基準財政需要額」を比較したものだ。加えて、「基準財政収入額」を現大阪市時代と同規模という前提にしている。

 東京は地方交付税普通交付金の不交付団体だが、この基準財政需要額と基準財政収入額の算定は行われている。その結果、収入が需要を大きく上回っているので、交付金は交付されていない。

 大阪は、府市双方が地方交付税普通交付金の交付団体である。現在は大阪府と大阪市がそれぞれ、地方交付税普通交付金を国から受け取っている。大阪市が四つの特別区に移行した後は、大阪市の市域を一つの「市」とみなし、地方交付税(市町村分)を大阪府が受け取り、それを府と特別区の配分割合に基づいて、特別区に交付する。

 以下は、大阪の特別区設置協定書の説明である。

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 つまり、大阪の特別区は、国から直接、地方交付税を受け取るわけではないのだ。

 国の地方交付税を算定する仕組みと、府が財政調整交付金を算定する際の仕組みは類似している。東京も大阪も、財政調整制度は国の地方交付税の仕組みに準拠しているのだ。

 交付税の交付団体である大阪は、2度財政調整を行う。

 1度目は、国の地方交付税の算定である。大阪市域を一つの「市」とみなし、基準財政需要額と基準財政収入額を導き出し、需要が収入を上回ると、その足らず米を普通交付金で埋める。だから、当然ながら府の需要と収入、特別区の需要と収入の双方が算定根拠となっている。この交付金は、大阪府が受け取り、府条例に基づき特別区に配分する。

 2度目は、大阪府と特別区との財政調整である。やはり、基準財政需要額と基準財政収入額を導き出し、需要が収入を上回ると、その足らず米を財政調整交付金で埋める。この交付金の財源は、府が課税する法人市民税・固定資産税・特別土地保有税、府の条例で定める地方交付税普通交付金である。

 国が交付する地方交付税と、府が特別区に配分する財政調整交付金とでは、基準財政需要額と基準財政収入額の算定内容が異なる。国はあくまでも全国の標準的な行政経費しか需要として算定しないが、府と区の財政調整では大阪市域における大都市独自の行政経費も需要として算定されることになる。

 今回、報道で明らかになった「コスト」とは、1度目の財政調整、つまり地方交付税の算定で「需要」として導き出された数字が、現大阪市の場合とで1年で218億円多かったということだ。

 実際に5年後に大阪市を廃止し、特別区に移行した場合、財源不足が生じるか否かは、2度目の財政調整である府と特別区の財政調整を行った結果、あらかじめ協定書で定めた配分割合で、特別区の「基準財政需要額」をカバーしきれるかどうかで決まる。

 今回の報道は、大阪市廃止・特別区移行後の地方交付税(市町村分)の算定で、現大阪市の場合よりも基準財政需要額が218億円増えるという試算を基にしており、その増加要因が特別区への移行であると仮定したものだ。したがって、実際のコスト増を試算したものとは別物と考える必要がある。

 そもそもの前提として、私はこのnoteで、大阪市廃止・特別区設置にどのくらいのコストが必要なのかは論じてこなかった。それは、私が政令市から都区制度への移行に苦言を呈する理由がコストではないからだ。どういう統治機構であれ、新しい統治機構への移行にはコストがかかるものだ。基礎自治体の自治権拡充と民主主義の機能強化に、一定のコスト増は受け入れるべきものと思っている。

 問題は、それが「見える化」されて、市民が議論することができるかどうかだ。

【追記】(2020/10/28)

 大阪市役所が昨日、一連の「特別区移行コスト増」報道について、わざわざ記者会見を開いて見解を出したのには、大草原だった(笑)

 つくづく、〝将軍様〟を上司に持つと部下は苦労する。都庁も似たようなものだが、大阪市はもっと大変だな。

 この見解では報道機関に提供された1次資料が添付されていない。これは東京選出の音喜多駿参院議員がTwitterにアップしていた。

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 この資料だけ見ても、ピンとこないだろう。

 これは、例えば現大阪市を単純に4市に分割した場合、地方交付税の交付額が現在よりいくら増えるのかを想定するには有効な資料だっただろう。だが、特別区移行後のコスト増とはとうてい読めない。

 毎日新聞の記者は、地方交付税と都区制度下における財政調整制度の違いが理解できていなかったし、特別区設置協定書の読み込みも甘かったのだと思う。記者個人は「大阪市廃止・特別区設置」に疑問を呈し、住民投票が間近に迫ったこの時期に勝負したつもりだったのだろう。

 だが、結果としては、情報提供者と市財政局の職員を傷つける結果にしかなっていない。

 今回の報道が果たして、住民投票の結果にどう反映するのか、ふたを開けてみなければ分からないが、2015年の住民投票以来、5年以上、地方財政や都区制度について、在阪報道機関の記者はいったい、何を学んできたのであろうか。

 一連の報道で分かったこともある。地方交付税は、新たに誕生する特別区の財源不足を補てんする機能はないということだ。これは、松井一郎市長らが税収が減った際には地方交付税で補てんできるという見解が根拠がなかったということだ。

 総務省は、大阪市が四つの特別区に再編されて、それによって基準財政需要額が増加したとしても、現大阪市に交付していた地方交付税普通交付金の総額を増やすつもりはない。東京23区同様、大都市地域を一つの「市」として扱い、地方交付税市町村分を算定し、府に交付する。

 大阪の特別区にとって、コスト増をカバーする財源補てん措置は、府と特別区で行われる財政調整制度しかないということだ。

 ところで、Twitterのタイムラインを眺めていて、誤解している方が多いと思うのは、東京都と東京23区は地方交付税の不交付団体だが、これは地方交付税の算定を行っていないということではない。地方交付税の算定を行った結果として、「不交付」と決まっている。

 これが面白いもので、東京都分が黒字でも、市町村分(東京23区を一つの市として算定)が赤字のことがある。仮に東京23区が「東京市」だったら、地方交付税の交付団体になる。景気が悪くて、都民から入る税収が少なくても、企業収益は好調で、都の税収は上がることは、ちょくちょくある。そんなとき、東京23区の財政担当者からすれば、23区がそれぞれ市だったら、うちには交付税が交付されたなあと、そういうときに「特別区」という存在をうらめしく思うのである。


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