見出し画像

失敗に学ばない〝改革派〟のカルト性~「大阪都構想」否決から1週間

 大阪から帰ってきて、まもなく1週間。大きな重しが消えたような脱力感を抱えながら生きている。吉村洋文大阪府知事が「都構想まちかど説明会」で、「住民投票を否決したら、何も残らない」と言っていたが、意外に正しいと思っている。今回の住民投票は、一言で言って空虚だったのだ。

 このnoteはありがたいことに、住民投票の投票日の1週間くらい前からヒット数が大幅に増えている。はじめからバズることは望んでいなかったから、特に宣伝もしていないが、見ている人は見ているものだ。ただ、都区制度の闇の部分をどれだけ伝えられているのか。反対運動をしている人たちにとっては、ネタの一つでしかないのだと思う。

「三度目の正直」に向けて賽は投げられた

 この1週間で、様々な媒体に「都構想」否決についての論評が掲載されているが、あまり納得がいくものはない。

 なぜ「都構想」は否決されたのか?

 その肝心の部分が薄っぺらいのだ。

 ありがちな論評としては、本来、「都構想」は大阪市民にとってはメリットがあるはずなのに、市民が目先のデメリットに流されて現状維持を選択したという浅はかな論だ。とりわけ、〝改革派〟を自認する論者の上から目線の論評には飽き飽きする。

 だから、さっそく公明党が策動しているのである。

 支持者の民意を無視して、都構想賛成へとかじを切り、住民投票を急いでしまった責任には誰も触れない。党中央から山口那津男代表まで引きずり出しておいて、顔に泥を塗った責任をだれも取らない。大阪の公明党のガバナンスはどうなっているのだろうか。それで、舌の根も乾かぬうちに維新に揺さぶられて「総合区」などと言い出すのだから、あきれてものが言えない。

 維新は維新で、「広域行政の一元化」を担保する条例案を提出するという。やはり、「都構想」が頭から離れないのだ。あくまで、そこに固執する。野党が反発すれば、三度目の住民投票とか言い出すのは目に見えている。そこに対して、適切に反論できるマスメディアもいない。

 住民投票終盤、在阪メディアは様々な都構想懐疑論を投げかけていたが、都区制度の本質に迫った記事はほんのわずかだった。都構想の中心部分である都区制度について、本質的な分析ができていないのだ。

 反対派は、安心している場合ではない。「三度目の正直」に向けて、既に賽は投げられているのである。

大阪が都区制度に固執せざるを得ない理由

 長年、大都市制度について取材してきた自分からすれば、大阪が「特別自治市」ではなく、都区制度を採用せざるを得ないのは、分からないでもない。横浜や名古屋と違って、大阪は「特別自治市」の採用にはハードルが高いのだ。

 「都構想」は政令市の持つ広域行政を府に一元化するものだが、「特別自治市」はその逆で、国を除くすべての仕事を基礎自治体である「市」に一元化するものだ。「都構想」は、府の下に特別区を設置するので、国を除くと二層制の統治機構となるが、「特別自治市」はその市域内は一層制(国を除く)となる。つまり、「特別自治市」の方が「二重行政の解消」という意味ではすっきりしている。

 これだけを見れば、大阪も「都構想」ではなく、「特別自治市」を採用すればいいではないかと感じるだろう。

 だが、大阪と横浜とでは、事情が異なるのだ。

 上記の資料は、2015年の国勢調査の結果を抜粋している。昼夜間人口比率を見ると、横浜市は91.7%で、昼間より夜間の人口の方が多い。これは、横浜市内から市外に通勤している人が多いということだ。一方、大阪市は131.7%で、昼間の人口の方がはるかに多い。

 つまり、大阪市の経済の一定規模は市外から市内に働きに出ている人たちが支えているのだ。大阪市の政令市としての税収は、市民だけの働きによって成り立っているわけではない。ここが、市内で儲けた金を外に逃がさないようにする「特別自治市」の論理とは異なる。

 反対派は、「市民の税金を府に吸い上げられる」と主張していたが、お金の流れを正確に見れば、その税金は市民だけが働いた税金ではないのだ。だから、市域の税金を府が吸い上げ、それを府下に公平に住民サービスに反映させるというのは、あながち間違った論理ではない。

 大阪に「特別自治市」のような統治機構を持ち込むと、大阪都心に働きに出ている市外の住民にとっては不公平感が増すのである。この不公平感を解消するには、大阪市域を現在よりも大幅に拡張して、昼夜間人口比率を100%に近づける必要がある。その際には、現在の市域外の自治体ごとに「総合区」を設定し、自治の機能を残す必要も出てくるだろう。

 結局のところ、「都構想」以上にややこしいことになる。

 では、都区制度を基本とした「都構想」でいいのではないか。

 いや、それでは大阪市の自治機能を壊してしまうことにしかならない。それは、このnoteでさんざん展開してきたことなので、お分かりだろう。都区制度とは最悪の選択肢なのである。

どんな粉飾をしたとしても都区制度は乗り越えられない

 大阪は、都区制度(都構想)をどう乗り越えるのか。

 2度の住民投票の否決を経て、本来、大阪の当事者たちが話し合うべきは、そこなのである。

 都区制度に固執している限り、元々、本質的に都区制度に内在している矛盾と向き合わざるを得ない。その矛盾を覆い隠すように特別区設置協定書には無理難題を押し付けることになるのだ。

 例えば、都区制度においては府(都)が財調財源を課税し、特別区に配分する。これは、特別区が大阪府にへその緒を握られている状態だ。一人前の自治体とは言えない。だが、その本質的な部分は見て見ぬふりをして、財調財源の配分割合を8割近い規模にまで拡大し、しかも10年間にわたり20億円の特別加算を行うという大盤振る舞いをしたのである。

 これが安心材料にはならないことは、以下に述べた通りである。

 たくさん権限と財源を下ろせば一人前の自治体。そういう安易な発想が「スーパー特別区」なる維新信者が好んで使った単語を生み出した。東京23区より多くの権限と財源配分だから東京23区より強いという、根拠のない妄想である。特別区の区域に税収の源となるポテンシャルもないのに、権限と財源だけ下ろしても、重荷にしかならないという現実的発想が欠けているのだ。

 しかも、特別区なのに政令市のサービスを継続させるという。これほど残酷な押し付けはない。本当に財源は足りるのかという議論になるのは当たり前だ。

 その他にも、特別区を設置しても行政区の「区役所」を残すという事例もあった。

 特別区に移行して、区役所の窓口を残すというのは、あり得るだろう。だが、どうしても行政区の枠組みまで残したかったらしい。地方自治法に規定している「地域自治区」という制度を持ち出してきて、〝なんちゃって行政区〟を作ろうとしたのである。

 「区」「区役所」という言葉を巧みに使って、〝なんちゃって行政区〟〝なんちゃって区役所〟を残す。これが「改革」というのであれば、大草原不可避である。

 「都構想」実現後も政令市と同じ住民サービスを保証され、区役所も残るというなら、政令市のままで十分である。何を好き好んで、都区制度などという複雑怪奇な行政制度を採り入れる必要などあるだろうか。

都区制度に固執し続ける都構想カルト

 では、お前はどうしろと思っているのか?

 そういう反応もあるだろう。

 正直に言って、私には良い解決策が見つからない。少なくとも、都区制度に固執する限りにおいては、その制度の複雑怪奇さを説明すればするほど、賛成に回る人は減る。一方、その複雑怪奇さを覆い隠そうとすればするほど、その粉飾の矛盾を説明しなければならなくなる。

 二度も住民投票で否決されて、また三度目も都区制度というのは、もう政治運動という域を超えて、都構想カルトとでも言うよりほかない。

 住民投票の二度の失敗の根本に、都区制度という複雑怪奇な制度設計にあったことは、明らかではないか。維新信者は、この二度の失敗から学ぶべきである。失敗の原因は、反対派の抵抗でもないし、シルバー民主主義でもない。都構想の根本(都区制度)が間違っていたのだ。

 都区制度は、東京で既に制度疲労を起こし、誰も改革の処方箋を失ってしまった必要悪でしかない。この制度には大阪の経済成長をもたらすような潜在力はないし、日本を救うようなポテンシャルなどない。

 東京がここまで大きく発展してきたのは、都区制度を採用しているからではなく、ひとえに首都としての実態があったからにほかならない。大企業の本店があり、霞が関の官庁街があり、永田町の国会議事堂があり、山手線沿いの繁華街があり、ウオーターフロントの高層マンション群がある。首都としての実態は、東京都という自治体の枠を超えて広がっている。その中心に、東京23区がある。

 正直、現在の政府のように特定業種へのバラマキしかできないようでは、地方はいくつかの都市が消滅してもおかしくないと思う。地方が活力を失えば、人口が流入している東京や大阪も、いつかは人口減少の波を避けられない。

 大阪だって、政令市のまま安閑としていたら、いつかは縮小を余儀なくされる。だから、遅かれ早かれ、実効性のある将来像の提示が必要なのだ。

 大阪が都区制度(都構想)をいかに乗り越えるのか。

 これが「三度目の正直」に向けた課題だ。

 維新や公明党は相変わらず、都構想の延長戦をやっている。これでは先行きは期待できない。

 「都構想」という言葉だけがアイデンティティーになってしまった改革派勢力には、改革など実行できない。新しい芽は出てこないのか。住民投票を終えても、いまだもどかしい。

ほとんどの記事は無料で提供しております。ささやかなサポートをご希望の方はこちらからどうぞ。