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公明党は大阪都構想の最大の推進勢力だった~「なっちゃ~ん!」黄色い声援の憂鬱

 10月16日の記事で、「大阪市廃止・特別区設置」の住民投票は賛成派が圧勝すると書いた。19日にABCテレビとJX通信社の世論調査の結果が公表されている。案の定、賛成が一気に反対に差をつけた。

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党中央代表の鶴の一声で大阪の空気が変わった

 やはり、大きな要因は10月18日の山口那津男公明党代表の街頭演説であろう。さすがは、宗教政党である。鶴の一声で、空気が変わる。

 山口代表の演説の動画をユーチューブで観たが、山口代表がマイクを持つと、「なっちゃーん!」と大阪のおばちゃんの黄色い声援が飛んだ。確実にそこには創価学会の援軍が動員されている。これまで公明党支持者の中では反対の声が根強く、全体の賛否は拮抗していた。公明党のせいで反対が多数になったのでは、なんのために公明党が賛成に転じたのかわからない。東京から直々に代表がお出ましになり、ソフトな語り口でおばちゃんたちに〝お説教〟したのである。

 やっぱり、これからの日本を考えると、二重行政をなくしていくことが大事。そして、地方がしっかりと発展していくことが大事。2011年に東日本大震災がありました。東京もあわやという被害を受けそうになりました。首都直下地震というのも心配されておりました。もし万が一のことがあったら、東京がつぶれたら、日本がつぶれるでは困るわけであります。東京と並んで西日本にも拠点となるところ、それは大阪市しかありません。

 さすがは党中央代表だから演説はうまいが、言っていることはこれまでの繰り返しでしかない。自民党は連立のパートナーだから、他党批判は全くしなかった。だから、山口代表にしては歯切れがあまり良いとは思わない。だが、これで十分だ。公明党支持層のすべてが賛成に転ずる必要などない。1割でも2割でも動けば、反対派に差をつけられる。終盤の調査で差をつけられたら、また「票」を積み増せばいいだけだ。

 ちなみに、菅首相は日本を離れて外遊中。帰国すれば、臨時国会が始まる。最後まで都構想に絡むことはないだろう。維新にとっては、この人に黙っていてもらうだけで十分だろう。

2015年5月17日住民投票をアシストした功労者

 大阪維新の会が誕生して以来、大阪の政治情勢はワンパターンである。維新が公明党を脅し、公明党が折れるというパターンである。

 覚えているだろうか。2015年5月17日の住民投票は、なぜ実現したのか。

 2014年10月27日の大阪市会・府議会で、特別区設置協定書が否決された。当時、賛成は維新だけで、その他の勢力は全て反対だった。

 11月頃から橋下徹大阪市長(当時)は、公明党へのリベンジを画策し始めている。

 維新の党の橋下徹共同代表(大阪市長)が、松井一郎幹事長(大阪府知事)とともに、衆院選に出馬する構えを見せている。看板政策である「大阪都構想」への協力姿勢を変えた公明党にリベンジするだけでなく、国政の場で都構想実現を進めることも検討しているという。

 大阪都構想の最大の抵抗勢力は自民党である。にもかかわらず、リベンジの対象が公明党であることが面白い。維新は国政に進出したばかりで、2012年の衆院選は石原慎太郎元都知事を代表に据え、大阪で19小選挙区中、12で勝利している。だが、公明党の候補者が立候補する選挙区では維新は対立候補を出していなかった。

 橋下氏が出馬の意欲を示す大阪3区は、公明党大阪府代表の佐藤茂樹衆院議員の地元で、松井氏が出馬を模索している同16区は、公明党の北側一雄副代表の選挙区。「現在、公明党に対して『都構想で協力しなければ本気で戦うぞ』というボールを投げている」(維新周辺)という。
 党大会で橋下氏は、所属議員ら約千人を前に「(法定協で)公明が反対したので、事実上、都構想の協議は止まる」と述べ、当初、協力関係にあった公明を名指しで批判。平成24年の衆院選で、維新は公明候補者が出馬する大阪府や兵庫県の計6選挙区で候補の擁立を見送る選挙協力を行ったことを取り上げ、「その代わりに都構想については協力をお願いします。住民投票までは進めさせてください」という内容で公明幹部と合意していたことを明かした。
 その上で、公明が法定協での区割り案の絞り込みに反対したことを「約束違反」と非難。「宗教の前に人の道がある」と強い口調で創価学会が支持基盤となっている公明への怒りをぶちまけた。

 橋下氏は戦い方を知っている。公明党のウィークポイントは、党単独で小選挙区の議席を得られないため、他党頼みであること、そして、実績重視であるがゆえに議席を失うことをなによりも恐れていることである。

 民主党は最初から敵とは思っていない。共産党は揺さぶったところで政治的な駆け引きには応じないだろう。これまでの維新結党の経緯からしても、小選挙区で自民党に対立候補を立てないという選択肢はあり得ない。揺さぶるとしたら、公明党しかいないのである。

 結局、その年の12月の総選挙には、橋下氏も松井氏も国政に転身することはなかった。当時は国政政党としては「維新の党」だったが、大阪では4議席にとどまっている。公明党の候補には維新の対立候補は出さず、4人の現職が勝利することができた。

 2014年12月29日、公明党大阪市議団は市民投票には賛成、都構想には反対を確認。翌2015年1月13日の法定協議会で、公明党が賛成に転じ、特別区設置協定書が可決された。

 この経緯を振り返れば、維新と公明党の間に何があったのか、お分かりのことと思う。

 余談になるが、「大都市地域における特別区の設置に関する法律」にはこんな条文がある。

 第6条 関係市町村の長及び関係道府県の知事は、前条第6項の規定により特別区設置協定書の送付を受けたときは、同条第5項の意見を添えて、当該特別区設置協定書を速やかにそれぞれの議会に付議して、その承認を求めなければならない。
 2 関係市町村の長及び関係道府県の知事は、前項の規定による議会の審議の結果を、速やかに、特別区設置協議会並びに他の関係市町村の長及び関係道府県の知事に通知しなければならない。
 3 特別区設置協議会は、前項の規定により全ての関係市町村の長及び関係道府県の知事から当該関係市町村及び関係道府県の議会が特別区設置協定書を承認した旨の通知を受けたときは、直ちに、全ての関係市町村の長及び関係道府県の知事から同項の規定による通知を受けた日(次条第1項において「基準日」という。)を関係市町村の選挙管理委員会及び総務大臣に通知するとともに、当該特別区設置協定書を公表しなければならない。

 本来、同法律では特別区設置協定書の承認を得ないと、住民投票には移れないはずだ。ところが、公明党は「特別区設置協定書には反対するが、住民投票には賛成する」という裏技を使っている。普通に考えれば、法律の趣旨をないがしろにしているのだが、なんとなく雰囲気で流されていくときにはそういう矛盾には気づかないものだ。

 2015年に住民投票をする必要などなかったのだ。

 公明党の決断はその後、住民投票での反対多数、そして、橋下徹氏の政界引退という事態につながる。つくづく、罪づくりな政党だ。

お蔵入りした都構想を再び復活させた功労者

 5年もの間、くすぶり続けていた都構想が現実味を帯びたのは、2019年4月の大阪府知事選・市長選のダブル選挙だ。吉村洋文大阪市長が知事選に、松井一郎府知事が市長選にそれぞれ立候補し、圧勝した。

 とはいえ、維新が議席を増やしたものの、依然として大阪市議会では反維新が多数を占めており、普通はふんぞり返って「そんなん知らんで」と言っていればよかったはずだ。だが、そこはやはり、公明党から風穴が開くのである。

 さらに、吉村知事は住民投票の実施などをめぐって対立している公明党について、「民意を無視するのであれば、公明党の議員が選ばれている関西の衆議院の6つの小選挙区も含めて、維新の会が候補者を擁立しない理由はない」と述べ強くけん制しました。

 5年前と同じパターンである。今回の住民投票が賛成多数であれ、反対多数であれ、これから維新の政治が続く限り、こうやって公明党を取り込んで次に進むパターンは変わらないであろう。

 5月25日、維新と公明党が共同記者会見に臨み、公明党が都構想に賛成する方針を表明した。

 佐藤代表は「今週3回協議をしてきました。選挙でし烈な戦いをして、1回目の協議はわだかまりがありましたが、3回を通じて腹を割った話をさせていただいた」と経過を説明した。
 また、元々反対の立場をとっていたこともあり、佐藤代表は維新に対して「住民サービスが低下しない仕組みをつくる」「新たな住民負担を求めない」「現行の区役所の窓口サービスを低下させない」「児童虐待防止対策のため、特別区に児童相談所を設置する」という4点を前提条件として提示したことを明かした。
 佐藤代表は「4つとも同意します。一緒にいい協定書を作りましょうとご返事を頂いたので、これから前向きな議論をさせて頂きたいという結論を出した」と述べた。

 正直、笑ってしまった。いや、力が抜けるというのだろうか。

 変な話になってしまうが、9年前に亡くなった私の父親は、聖教新聞の読者であった。腎臓がんが肺に転移し、フェイズⅣという状態で、あと何カ月命が持つか分からない。実家に帰宅すると、そんな父が静かに背中を向けて、新聞を読んでいた。ふと見ると、聖教新聞だと気づいた。

 私自身はプロテスタント系の高校を卒業したものの、葬式と結婚式、初詣以外は宗教とはあまり関係ない生活をおくってきた。

 男同士では宗教の話などしない。しかし、死を目前に意識した父がそこに救いを求めていることがなんとなく感じられた。実家は市営団地の一室だったが、それこそ学会のおばちゃんたちがいろんなおせっかいをしてコミュニティーが成り立っていた。母親はそれをよろしくは思っていなかったが、頼るものがあるとは悪いことではないと、私は黙認していた。

 父の死後、一人暮らしの母が公明党の市議に大変お世話になったこともある。頼るものがないので、本当にありがたいと思った。

 そんなこともあって、公明党に対する拒否反応は他の人よりあまりないと思う。

 だが、今回の山口代表への「なっちゃーん!」の掛け声にはがっくりしてしまう。

 おばちゃん、なにをやってるんやと。

 最初の住民投票も、今回の住民投票も、結局、維新は公明党を揺さぶることで目的を達成できている。非常にシンプルである。

 きっと都構想が実現したあかつきには、「公明党の実績です」とか叫ぶのであろう。あの黄色い声援がうらめしい。

公明選挙区に自民市議が出馬?

 大阪市を廃止し、特別区に再編する「大阪都構想」に反対する自民党の大阪市議ら3人が、次期衆院選で、公明党が議席を持つ大阪府内の小選挙区で無所属での出馬を検討していることが31日、関係者への取材で明らかになった。連立政権発足以降、両党は候補をすみ分けてきたが、公明が都構想賛成に転じ、衆院選での相互支援体制に亀裂が入る公算が出てきた。「都構想に反対する自民支持者の受け皿」として自民府連内で大阪市議を中心とした主戦論が表面化している。

 今さら遅いよ、自民党…(苦笑)

 国政野党系がこの選挙区にどう絡んでいくのかが気になる。憲法改正や政権選択が問われる国政選挙に〝自共共闘〟は無理筋だから、それを望むことはできないだろう。

 しかし一方で、2017年の都議選で自民党が大量に議席を失ったのは、公明党が小池知事を支持し、自民党に票を回さなかったことが大きな要因だといわれている。長年にわたる自公連立は、自民党が学会票に頼り過ぎて、組織を弱体化させてしまったのだ。

 主戦論は結構だが、自民党公認候補が立候補する大阪の選挙区で公明党が票を出さないと言い出したら、どうなるだろうか。

 結局、公明党は時の権力者に利用されるのである。

 いやはや、むなしい。


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