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【自治トピックス】No.55

 年の瀬の今の時期が一番落ち着く。クリスマスが終わって、大みそかを迎えるまでのイベント空白期。つい昨日まで巷にはジングルベルが鳴り響き、恋人たちはなぜかホテルでセックスし、普段は険悪な家族もクリスマスケーキの前では仲の良い振りをする。駅前ではホールケーキの山が連なり、24日の夜にもなると安売りが始まる。日本人にとってバカバカしいまでのお祭り騒ぎ。ところが、26日になると、まるでけろっと忘れたように日常を取り戻す。残されたのは、必要もないのに買って、余りを腹が膨れるまで食ったホールケーキ分のカロリーである。それも年末のジム通いで消費してしまうのだろうか。クリスマスが終わった繁華街はまるで腑抜けで、お正月までの期間を消化試合として無駄に過ごそうとする人たちが気怠そうに闊歩している。しかも、今日は寒い。大掃除をする気にもなれない。それでも、目的を失った人たちの怠惰なモラトリアムが一年で最も落ち着くのだ。ああ、オワタ、オワタ、今年がオワタと、心が晴れていく気分になる。

 そんなわけで、今週もニュースの切り抜きを見てみよう。

 東京都の小池百合子知事は24日の定例記者会見で、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の市中感染が都内でも確認されたと発表した。都内のクリニックの医師で、直近の海外渡航歴も、オミクロン株感染者との接触もないという。

読売新聞2021年12月24日配信

 クリスマスムードを嘲笑うかのように、東京でオミクロン株の市中感染が確認された。一人いたら、他にもいるのはデルタ株で学んだはずだ。遅かれ早かれ、日本の新型ウイルスもオミクロン株に置き換わる。今はただ水際作戦でスピードを抑えているだけだ。

 「帰省旅行」については、慎重に検討しつつ、行う場合には三密回避を含めた基本的な感染防止対策を徹底すること。また、事前の生活に注意し、ワクチン接種を受けていない人や重症化リスクが高い人に会う場合には、PCR検査を受けるよう勧めた。
 「忘年会・新年会等の開催」については、慎重に検討するよう呼びかけつつ、飲食店で行う際には換気などがしっかりしている第三者認証店を選び、できるだけ少人数で、大声・長時間を避ける、会話をする際はマスクを着用することを呼びかけた。さらに、初詣や成人式などのイベント時にはできる限り混雑を避けるよう勧めた。
 加えて、「早期のワクチン追加接種」が最も重要だと指摘。ワクチンの接種時期が早かった高齢者などの人は「ワクチン効果が減衰していることは承知のとおり」だとし、「追加接種の体制が整い次第、ご自身の順番がきたら、ファイザーやモデルナの製品に関わらず、なるべく早い時期に追加接種を受けることを勧める」とした。

ABEMANEWS2021年12月23日配信

 尾身茂会長は非常に明快だった。「帰省旅行」も「忘年会・新年会」も、基本的な感染防止対策を行った上でゴーサインを出している。お役所用語では「慎重に検討」は「やらない」という意味だが、尾身会長は自粛を呼びかけていない。

 その上で、3回目のワクチン接種が「最も重要」と述べている。つまり、サクサクと3回目のワクチンを打とうということだ。

 尾身会長の〝大本営発表〟で自体は十分飲み込むことができるが、ここはやはり西浦博先生に登場していただこう。

 まずはワクチン接種について。

 私たちは、社会で冷静さを保ちつつ、死亡するリスクの高い人に、なんとかして早いうちに3回目を接種する方法を考えなければなりません。流行は数週間で一気に拡大する可能性が高い状況です。ワクチンで命を守るためには今回は急げるところでは急がなくてはいけないのです。
 残念ながら今から年末年始で、大規模接種会場や接種会場に関わる人材を新しく押さえるにも自治体が機動力をもって対応しにくい状況です。年末年始返上で頑張ろうと思っても、場所もなければ人も休みでいません。
そんな時期にできることがあるとすれば、接種券を早く配ることです。それさえあれば、受け取った方はみんなすぐ接種を決断できます。
 その中で、政治主導により、市中感染が見つかった場所に大規模接種会場を特別に設置し、後期高齢者にブースター接種できないものでしょうか。そのように、できることから考えていくことが必要です。

 尾身会長と同様、一刻も早く3回目のワクチン接種を行えというのが結論だ。

 では、忘年会や新年会、帰省などはどうか。

 対策は各人の合意や協力がないと困難です。ここまでの間、国は「ワクチン・検査パッケージ」を行ってきました。その中で、飲酒・飲食や旅行に伴うリスクと向き合いながら感染対策を行ってきました。
 しかし、WHO本部は流行に備えて、イベントや移動の見直しを呼びかけています。
 日本ではアドバイザリーボードの会見での呼びかけも、年末のイベントについては人数を制限するよう呼びかけることにとどまっています。尾身茂先生は帰省などを考え直すことも1つであることを12月23日に述べられました
 まずは皆さんにリスクを認識していただいて、感染を減らすにはどうしたらいいのか、一緒に考えていただきたい。そのリスクを受け止めた上で、リスクが極めて高いことに関しては、見直していただく勇気も必要なのかもしれません。
 政治や国民の合意形成次第だと思っています。

BuzzFeed2021年12月25日配信

 慎重に言葉を選んでいます。問題は「政治や国民の合意形成」だと指摘している。国民一人ひとりがリスクの高い行動を見直すことが大切だという指摘だと私は受け止めた。自粛しろとか、ステイホームしろとか、強力な規制を求めているわけではない。

 クリスマスが終わり、学校の冬休みが始まったので、繁華街が非常に混雑している。あまりの密状態に、思わずウッと足を止めることもある。それでもほとんどの人たちはマスクを着用している。その律義さは日本人らしいし、これからも続けていただきたい。ただ、わざわざ換気の悪いフロアで密集しながら酒を飲んで、大声で騒ぐ行為がどういう結果を生むのか、デルタ株のまん延で気づいたはずだ。

 西浦氏のインタビューでも話されていることだが、これまでより感染力が強く、重症化リスクが低いとしても、一定の比率以上の感染者が出れば、数として重症患者も増えるし、病床が埋まることは事実だ。つまり、1000人の感染者のうち10人が重症化するとして、その倍の2000人の感染者のうち10人だけ重症化したとしても、重症化の割合が半分でも病床を埋める数は同じということだ。だから、感染拡大のピークをできるだけ遅らせ、カーブを緩やかにすることは、これまでと変わらない。

 もう一つ、神戸大学の岩田健太郎先生の見解も紹介しておこう。

 毛が3本程度の時間稼ぎでは何もできないが、仮に「ほんとうの意味での」時間稼ぎができたとしよう。問題は、稼いだ時間で何をやるか、である。不安を覚える人に無償で検査を提供しても、それは住民の安心とか政権への支持にしかつながらない。オミクロン予防に効果的なのは3回目のワクチンなことはほぼほぼ分かっているのだから、注力すべきはここである。検査などに人的エネルギーを使う暇があったら、全力を上げてワクチン普及に力を注いだほうがより効果的だ。

日本医事新報社2021年12月27日配信

 岩田先生もやはり、3回目のワクチン接種を急げという見解だ。つまり、いくら検査を拡充しても、検査した本人が安心するだけで、オミクロン予防にはつながらないということ。

 私も、この見解に賛同したい。

 米軍キャンプ・ハンセンで新型コロナウイルスの大規模クラスター(感染者集団)が発生する中、沖縄署は21日未明、同基地所属の米海兵隊上等兵を道路交通法違反(酒気帯び運転)の容疑で現行犯逮捕した。県はハンセンに勤務する全軍人・軍属の基地外への外出禁止を求めているが、大規模感染の発覚後も同基地所属の米兵らが行動制限なく基地内外を行き来し、飲み歩いている状態が露呈した。玉城デニー知事は21日、ハンセンからの外出禁止や米本国からの異動停止など感染防止対策の徹底を日米双方に申し入れた。

琉球新報2021年12月22日配信

 笑っちゃいけないが、失笑せざるを得ない。日本がいくら水際作戦とか言っていても、米軍基地からダダ漏れでは何の意味もない。それにしても、米軍は沖縄で重要な選挙が近づくと〝やらかす〟傾向にある。まるでオール沖縄を援護射撃するかのように事件が起きる。コロナ対策は本来、玉城知事にとってのアキレスけんであるはずだが、こういうことが頻発すると、また米軍基地に沖縄県民の不満が向くのは時間の問題だ。

 任期満了に伴う東京都東久留米市長選は26日に投開票が行われ、無所属新人で元市議の富田竜馬氏(44)=自民、公明推薦=が、いずれも無所属新人で元都議の細谷祥子氏(67)=国民、都民ファーストの会推薦、元市議の篠原重信氏(70)=共産、社民推薦=を下し、初当選を果たした。投票率は39・08%(前回37・05%)、当日有権者数は9万7143人。

産経新聞2021年12月26日配信

 非常に無難な選挙結果。小池百合子都知事直々に応援に入ったことで、細谷元都議には注目が集まったが、投票率4割弱程度の選挙で共産系候補に8千票も獲られては勝てるはずもない。

 つうか、なんで都知事がお出ましになったのかね。

 来春の入学者を選抜する公立高校の2022年度入試までに、東京都を除く全国の46道府県教育委員会が入学願書の受験生の性別欄を廃止することが26日、各教委への取材で分かった。出生時の性と自認する性が異なるトランスジェンダーら性的少数者への配慮から始まった性別欄削除の動きが全国に浸透した。
 都教委は全国で唯一、全日制普通科で男女別定員制を設けていることを理由に性別欄を残しているが、定員制の段階的撤廃を決定している。担当者は取材に「定員制がなければ本来は不要」とし、将来は性別欄も廃止する可能性を示唆した。

共同通信2021年12月26日配信

 気がついたら東京都だけが全国に置いてきぼりにされていたというみっともない案件。ここまできて、性別欄を廃止しますと言い切ることができないのは、いったい誰がブレーキをかけているのだろうか。

 千葉県浦安市議会は20日、手洗いに関する知識の共有と環境整備を進める「より良い手洗い環境づくりの推進に関する条例」案を賛成多数で可決し、成立した。新型コロナウイルスやノロウイルスなどへの基本的な予防策として、手洗いの習慣化の徹底を目指す。
 ユニセフ(国連児童基金)などは2008年に、10月15日を「世界手洗いの日」に定めた。これにちなんで、毎月15日を「手洗いの日」として、手洗いに対する理解を深め、関心を高めるという。

産経新聞2021年12月21日配信

 ウイルス対策で手洗いが重要になっていることは理解できる。しかし、手洗いというのは、行政がとやかく言う問題なのか。社会のルールというより、個人個人の行動の規範でしかない。条例を制定すれば、手洗いが普及するというものでもなかろう。議員提案の条例にはありがちだが、啓発的な条例が実際に機能することは非常にまれである。

 埼玉県では議員提案で、エスカレーターで立ち止まることを求める条例が制定されたが、やはり掛け声に終わっている。

 「エスカレーターでは立ち止まろう」。12月中旬の土曜日正午、埼玉県さいたま市大宮区のJR大宮駅西口。壁面に張られた県のポスターを横切り、利用者千人のうち61人がエスカレーターを駆け上がっていった。中には立ち止まった利用者を押しのける場面も数回見られ、危険な状況は条例施行前から改善されていなかった。

埼玉新聞2021年12月27日配信

 埼玉県だけポスターを張っても、マナーが良くなるはずもない。そもそも「県」の仕事なのかも疑問だ。しかも、この条例には結果責任が伴わない。ずっと啓発していればよいお気楽な条例だ。

 議員提案は悪くない。どんどんやるべきだ。一方で、地方自治体の権限には限界がある。財政的な裏付けも必要だ。啓発条例を山ほど積み重ねても、なかなか住民生活の向上というわけにはいかないのではないか。

 首都高では、最初の区間が開通して50年を経た2013(平成25)年3月、今回の委員会と同様の「首都高速道路構造物の大規模更新のあり方に関する調査委員会」が提言をまとめ、それに基づき5か所で“つくりかえ”を含む大規模更新、計55kmの区間で大規模修繕を行っています。
 それから8年を経て、開通から50年以上が経過した路線の割合は、2014年の4%から、2020年には22%に増加。これに伴い重大な損傷の発見数は橋梁で1.1倍、トンネルで1.6倍、特にトンネルの漏水箇所は約3倍に跳ね上がっているそうです。
 そうしたなか首都高では1日100万台が走り、道路への影響が大きい大型車が一般道の約5倍。「世界でも、ここまで過酷な状況に置かれている道路はない」と、委員会委員長で横浜国立大学大学院の前川宏一教授は話します。

乗りものニュース2021年12月24日配信

 首都高の老朽化問題は、地味ではあるけれど非常に大きな課題。単に金がかかるというのではなくて、そもそも無茶な場所に高速道路を引っ張ったがゆえに、大規模改修が非常に難しいのだ。空港バスに乗ると分かるが、ビルとビルの狭間を縫うように首都高の高架が立っている。これらのインフラは何十年にもわたってだましだまし補修をしながら維持してきたが、いよいよ限界が近づいている。

 大規模改修による迂回ルートは簡単には確保できない。東京外郭環状道路が全通し、いわゆる三環状がそろえば、都心の通過交通をなくすことができる。だが、外環道が東名以南まで伸びるには、あと何十年かかるか分からない。川や公園の直上を通る高架道路など、この際、思い切って廃止してしまえばいいではないか。道路優先社会からの転換まで考えなければ、延々と大規模改修にカネと時間を投資することになる。

 神奈川県鎌倉市議会で人種差別発言をされたなどとして、川崎市の在日韓国人の男性(60)が鎌倉市と上畠寛弘元市議(現神戸市議)(34)に対し、慰謝料などの損害賠償を求めた裁判で、横浜地裁(高宮健二裁判長)は24日、同市に対し11万円を支払うよう命令した。
 判決によると、上畠氏は2014~17年、市議会で団体交渉に言及した際、在日韓国人への差別的発言をしたほか、SNSで「自治労の幹部は一般的な日本人の名前ではありません」と投稿するなどした。
 高宮裁判長は上畠氏の発言の一部に国家賠償法上の違法性を認めたものの、議会での発言やSNSへの投稿は、同法に基づいて市が賠償責任を負うものとした。

読売新聞2021年12月25日配信

 差別的発言自体は即刻断罪されるべきなのだが、市議会議員の発言に対して、本人ではなく市が賠償責任を負うという超絶変化球が面白い。地方自治体は、執行機関と議会との二元代表制に基づいているが、執行機関は議会を指導したり、教育したりする権限はない。双方は独立した機関だ。この判決が確定すれば、全国の自治体は議員の発言をチェックして、ダメ出ししなければならなくなる。

 議会事務局によると、議事録から削除されるのは8日の一般質問中の農業問題に関する発言。米作農家に対する「脳が狂っちゃっている」のほか、答弁した県幹部に向けられた「ふざけるんじゃねーぞ」などの発言が対象となる。

朝日新聞2021年12月22日配信

 全国どこの自治体にも、多かれ少なかれ、こういう失言野郎がいる。昔はそれで笑って許してもらえたが、今はネット中継を通じて拡散されてしまうからやっかいだ。9期も務めたのだから、そろそろ身を引いていただいてはいかがだろうか。

 旧優生保護法下で不妊・中絶手術を強いられた障害者らを支援するための条例案が21日、兵庫県明石市議会で可決した。国家賠償請求訴訟の原告で同市在住の小林宝二さん(89)、喜美子さん(89)夫妻をはじめ、障害者団体の関係者らは、全国に先駆けた大きな一歩に喜びをかみしめた。

神戸新聞2021年12月21日配信

 首長の独断で進んだ条例で、たかが明石市で制定されたからどうということでもない。ただ、地方からこうやって風穴を開けると、全国に波及することを、私たちは様々な事案から学んでいる。だから、地方自治は面白い。

 そもそも、こういう条例こそ、議員提出議案として出てこないのだろうか。議会がもっと頑張ってほしい。

 地方自治は可能性の宝庫。そういうダイナミズムを理解できる保守政治家が減ってしまったことが残念だ。


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