映画感想文 ある男

原作を数年前に読み、シメイ(ビール)を飲む姿がカッコよくて真似しました。
平野啓一郎さん原作。不慮の事故で亡くなった旦那さん。葬儀に来た疎遠の兄が「これ、弟じゃないです。」名前も背景も全てが嘘だった男性の素性を弁護士が探る。というお話
2時間で綺麗にまとまっており、見た後の達成感みたいなものもあります。おもしろいです!

感想1 アイデンティティってなんだ?

戸籍ロンダリングがひとつのキーポイントなんですが、それに関連したりしなかったりで、自分の存在が揺らぐ(揺らがせられる)場面がいくつもあります。
弁護士の主人公(妻夫木)ですら、その出自に関して悪意のある一言や悪意のない一言やマスコミの配慮のないシーンで心を抉られます。
いや、もしかしたら主人公は、名前のない「ある男」(窪田)かもしれません。彼も自分のせいではない出自により、自分を責め、自分を葬り去りたい衝動に駆られたのです。

この2人の対比や重ね合わせが原作以上に映画では色濃く描かれたようにもおもいます。
妻夫木は自己の出自を明らかにしつつ乗り越えられず、家庭にも問題が生じた。
窪田は自己の出自を闇に葬ることで乗り越え、(嘘に塗れたと見られても仕方ないけど、)幸せな家庭を享受していた。

感想2 脇役たちの名演技

なによりもいい演技なのは悪役。窪田のお兄ちゃんの、キャリアを鼻にかけたむかつく話し方や、自信に満ちたセリフ。
詐欺師の人を馬鹿にした話し方や傷つける気持ちに満ち満ちたセリフ。まじでムカつく(褒め言葉)。

演技ではないかもですが、宮崎の子供もすごい。しっかりと自分の言葉で伝えにくいであろう気持ちを母親に伝え、さらにはあんな重たい事実を突きつけられてなお妹を気遣う。あんな中学生は実在するのだろうか。言うなれば、トトロのサツキがそのまま成長してお兄さんになったような。 

感想3 一度交わった人たちも、その後は交わらないんだろうな

戸籍ロンダリングに伴い、複数の脛に傷のある人たちが登場します。彼らにも交友関係や家族があります。それらが戸籍ロンダリングという点で妻夫木を中心に、瞬間的に交わる。
しかし、それぞれが一応の結末を迎えた後に、彼らが交わることはおそらくない。
つまり、Aを中心とした人間関係とBを中心とした人間関係が妻夫木によって、一度は交わるが、その役目を終えた後は、Aに関わった人とBに関わった人は赤の他人になる。
きっと人生なんてそんなもんなんだろう。それぞれの結末を迎えてからが新しいスタートであり、それらの幸せは彼ら自身のものでしかない。

感想4 真木よう子、脇が甘いよ…
最後の一つ前のシーン。なんでそんな甘いかねぇ…やるならちゃんとしろよ…
そこからの妻夫木の現実逃避がすげー怖いのよ。

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