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THINK TWICE 20210110-20210116

1月10日(日) Thinking Of You

ぼくの日記を読んでいる人なら、現政権(や前政権、ひょっとしたら前々政権にも)に不満を感じている人が多いと思うけど(そうでもない?)「4年に一度の選挙でしか意思表示できないのはおかしい。自分たちのリーダーなんだから直接、選挙で選ばせてくれ」という意見をよく目にします。

政治家や霞が関のお役人だけでなく、ごく少数の友人や家族以外、つまり大部分の《国民》をぼくは信用していません。増えすぎた子猫を海に捨てたり、コンビニの冷蔵庫に入ってセルフィを撮ったり、マスクやトイレットペーパーやイソジンを買い占めたりする人たちと、例えばマンションのエレベーターに乗り合わせても、ぼくは絶対に気づかない。見分ける自信がない。だからってそういう人たちを見下すつもりもないし、自分のペースで暮らす分には全然困らない。だけど、信用するわけにはいかないよな、と心のどこかで警戒してるわけです。図体はでかいけど、肝っ玉は小さいので。

それに、今のアメリカ国内を見るだけでも、国のトップを直接国民に選ばせることのリスクがどういうものだか、ほんとうによくわかります。だから問題はいろいろあるにせよ、現行の選挙システムはある程度維持したままで、もっとまともな候補者やまともな有権者がひとりでも多く生まれる───要するに、もう少しぼく/自分のものさしで信用できる《国民》の母数が多くなったら、もうすこしさわやかな政治環境が出来上がるだろうし、それが第一だと思ってるんですけど、見通しはぜんぜん明るくないので、何か別の方法を考えま〜す。


1月12日(火) Trust Him

トータスのギタリストのジェフ・パーカーという人を、ぼくはものすごく信頼していて、彼が参加してさえいれば、その作品は無条件に品質保証されたも同然で、どんな知らないアーティストでも飛びつけるんですが、そのなかでもこのクリスティーナ・ギャリサタス(Christina Galisatus)という無名の女性ピアニストの最新シングルは面食らいました。

安物のパット・メセニーみたいに始まり、サックスが入ってくるあたりから「おや?」と思わせますが、ほとんど起伏なくゆっくりとソフトランディングします。肝心のジェフのギターも鳴ってるんだか鳴ってないんだかわからないくらいのひそやかな存在感───でも、総じて悪くはない。

パーソナルを調べても、ジェフ以外はこれと言って大きな実績のあるミュージシャンじゃ無さそうだし、ジェフがいったいどういう経緯で参加したかもわからない。しかしですね、たとえ知らない誰かでも、自分が信頼している誰かが信頼してるなら、信頼に足る人物だという気がしませんか?───というのが昨日の日記に対するよい回答になるかもしれませんね。


1月14日(木) Double Exposure

マーティン・スコセッシが監督したNetflixのリミテッドシリーズ『都市を歩くように フラン・レボウィッツの視点』を観ています。スコセッシは2010年にもフランを題材に『Public Speaking』というドキュメンタリーを撮っていて、これは約10年後の続編ということになります。

ぼくがフランのエッセイ『嫌いなものは嫌い』を読んだのは高校の時です。知ってて手に取ったわけではなく、晶文社の本だったこと、あとはタイトルや表紙の雰囲気に惹かれて、というところが決め手だったのだと思います。それから数年後、ジョン・ウォーターズ『クラックポット』という座右の書に出会うのですが、そこに収録されているエッセイ「めった切りコーナー -ぼくの目のかたき101選-」と同様、何かにはっきりとした嫌悪感を示すことは、何かを無条件に好きだと宣言することより、他者がそのイシューについて真剣に検討するチャンスを、はるかに多く与えると知りました。

この『都市を歩くように』を見ていても、30秒に1回くらいのペースで名言が次々と飛び出すので、いちいちメモしたくなりましたが、今日見たばかりの第1話の中で、特に印象に残ったのがこれ。

ニューヨークの生活はまるで「ニーベルングの指環」よ。すべてが壮大なオペラみたいで、暮らしていくのはほんとうに難しい。じゃあ「どうして住むの?」と訊かれてもうまく答えられないんだけど、住む根性がないやつらを見下すのは楽しいわね。「あんたは楽な町に住めていいわね、隣近所の人も優しいし、5分ごとに窃盗にも遭わなくて済むから……でも、それがほんとうに大人の生活?」って言ってやるのよ(笑)。

「ニーベルングの指環」とはワーグナーが書いたオペラです。『地獄の黙示録』で有名になった「ワルキューレの騎行」はこの作品の一部です。全演目を上演すると約15時間かかり、ワーグナーは35歳から61歳までの約26年かけてこの歌劇を書き上げました。

もう一つ印象に残ったのはこの発言。

娘の友人がこう言ったの───ニューヨークに住みたいけど、家賃が高くてとても無理ね、って。でも、ニューヨークにいる800万人の住人全員が思ってるはずよ。ニューヨークは家賃が高くて暮らすのは至難の業だ、と。それでもなぜか暮らせている。住人にだって謎なのよ(笑)。とりあえず引っ越せばいいの。お金は絶対に工面できるから。

あれこれ外に理由を見つけて、自分ができない原因に結びつけることは簡単です。やってやれないことはない。

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罵詈雑言を浴びせられるばかりだった自分の映画に、はじめて脚光を当ててくれた批評家がフランだったそうです。この写真は映画『フィメール・トラブル』について、フランが当時連載を持っていたウォーホルの雑誌『インタビュー』のために取材した、1973年に撮られたもの。

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そしてこれはアンディ・ウォーホルが1981年に撮影した二人のツーショット。フラン曰く、ウォーホルと彼女は反りが合わず、仲良くなったのは「ウォーホルが死んでから」とのことです(笑)。

ジョン・ウォーターズの50歳の誕生日パーティに、スコセッシとフランが揃って参加したそうで、そこで話し込んだことがこのドキュメンタリープロジェクトに直結してるんだとか。

たまたまぼくの思い出の中で、多重露出のように混じり合っていた二人(ジョンとフラン)の存在が、奇しくもほんとうに重なり合っていたとは、とても不思議だし、うれしいかぎりです。


1月16日(土) 牛で棚からわしづかみ

1 - Jerry Paper / Comma for Cow

LA出身のシンガーソングライター。1990年生まれの30歳で、本名はルーカス・ネイサン。10代の頃から《1966年から1968年に作られた音楽以外は聴かない》という偏屈なスタンスを貫き、20歳のときにファーストアルバムをリリース。以来、人を喰ったようなひねくれたポップアルバムを毎年のように出し続けている鬼才です。
ちなみにこの曲は《メス牛のスージーがラマーという名前のオスのラマに恋して煩悶する》という内容の歌です。

2 - 細野晴臣 - Cow Cow Boogie

2013年の『Heavenly Music』に収録されている曲。もともとはアメリカの有名なお笑いコンビ、アボット&コステロが主演した1942年のコメディ映画『Ride 'Em Cowboy』(邦題「凸凹カウボーイの巻」)の劇中歌として書かれましたが、本編から歌のシーンはカットされてしまいました。

演奏はフレディ・スラック楽団。歌っているのは楽団の専属歌手だったエラ・メイ・モーズで、当時17歳。劇中ではエラ・フィッツジェラルドが歌っていて、モーズはその歌い方を模倣しました。シングルは当時100万枚以上売り上げ、大ヒットを記録しています。

3 - 布谷文夫 - 深南部牛追唄

今回、自分の持ってるレコードや音源から、牛にちなんだ曲をあれやこれや探してみたところ、牛そのものがテーマやタイトルになっている曲より、カウボーイというキーワードが入っている曲が圧倒的に多い。牛だけに絞りきれないくらいめちゃくちゃ多かった(笑)。
カウボーイを日本語にすると《牛追い》ですが、大滝詠一さんがプロデュースした布谷文夫のアルバム『悲しき夏バテ』に入っているのが「深南部牛追唄(しんなんぶ うしおいうた)」です。
深南部というのはブルースの聖地、アメリカのディープサウス───要するにミシシッピやテキサスやルイジアナあたりのことを指しますが、大滝さんの地元である岩手県の有名な民謡に「南部牛追唄」があり、新しいご当地ソングを作ろう、というコンセプトもあったらしいので《新・南部牛追歌》という意味もかかってるのではないか───と推測してます。

4 - Stella Donnelly - Mechanical Bull

最後は日本でも大人気の女性シンガーソングライター、ステラ・ドネリー。デビューEP『スラッシュ・メタル』からの1曲です。
この《メカニカル・ブル》というのは電気じかけで動く牛の形のロデオマシーンのこと。歌詞をざっと要約すると〈あなたがずっとわたしの喉に引っかかっている/わたしはひとりになりたいの/だから電動ロデオみたいになってあなたをふっとばすわ〉という感じで……つまり女の子から彼氏にきっぱり別れを言い渡す、という曲です。まったく新春にふさわしい歌ですね。

以上、いかがだったでしょうか。

ミズモトアキラが選ぶ、牛をテーマに《棚からわしづかみ》でした。本年も引き続きどうぞよろしくおねがいします。

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今日かけなかった《牛》がらみの曲も何曲か追加で。

スティーリー・ダンのおなじみ「ブラック・カウ」。これは〈黒い牛〉ではなく、ルートビアフロート(アイスクリーム入りのルートビア)のことで、スヌーピーの大好きな飲み物なんですよね。

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スティーリー・ダンには他にも南米の牛飼い=「ガウチョ」という曲(アルバム)もありますね。

https://www.youtube.com/watch?v=GesEA9MJuII

南米にやってきたアメリカ人の男とその恋人。やがて現地で知り合った野性味たっぷりのガウチョのもとへ恋人が走ってしまう───映画にできそうなドラマチックな内容の曲です。

番組でもお話しましたが、COWBOYというキーワードになると、掃いて捨てるほどたくさんの曲がピックアップできるんですよね。

たとえば先日、TTR9でも紹介したKONEYのアルバムにも「Cowboys」。

Kevin Krauter - Cowboy Chloe

Jens Lekman - I Want a Pair of Cowboy Boots

Sean Lennon - Part One Of The Cowboy Trilogy


*南海放送『スマイルミックス』のミズモト出演は毎月第3土曜の午前10時からです。

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