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神谷悠生、デビュー

神谷悠生君のデビュー盤「RAVEL & FALLA」が完成し、リリースを待つばかりとなった。

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神谷君とはかれこれ長い付き合いになる。お母様が耳の肥えた人で、CDショップの試聴機か何かで僕のデビュー盤を聴き、当時中学生だった彼をうちに連れてきたのである。しばらくレッスンのような感じで音楽づくりの手伝いをした。僕もまだ学生で指導経験が浅く、お世辞にもいいレッスンと呼べる代物ではなかったかもしれない。

彼は高校から桐朋に進んだ。いつ頃からか定かではないが、彼の中で探究心が開花し、僕の研究内容に興味を示すようになり、そこからは友達同士になった。たとえば、僕が紹介したブラームスの研究書の内容にはだいぶハマって、修士論文にも影響したらしい。

クララ・シューマンの弟子たちがブラームスにも教えを受けており、その残されたブラームス作品の録音に共通点が見られる、という目から鱗の内容。そこからブラームス特有の音楽観、演奏美学が考察できるというわけである(詳しくは「クララ・シューマンの弟子たち」)。これを書いているのは、シドニー大学のニール・ペレス・ダ・コスタという音楽学者で、僕はこの人の著作に興味を持ち、「Off the Record」という本も入手した。これは往年のピアニストたちのアゴーギクの伝統を研究したものである。

ブラームスの研究書は最近になって日本語版が出た。

日本語版が出る前からこの本を読んでいた日本人ピアニストは少ないと思う。ザルツブルクの大井駿君がこの本に基づいた研究で論文を書いており、大井君に初めて会ったとき、イローナ・アイベンシュッツの素晴らしさを語れる仲間がいることに感動した。神谷君と大井君も同じような出会い方をしたらしい。今では3人で音楽のディープな話をしたり、良い楽器を弾きに行ったりしてよく遊んでいるが、僕らはシドニー大学のニール・ペレス・ダ・コスタ氏に感謝しなければならない。

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さて、僕は食べ歩きのように各地の名器を弾き歩く。特に作曲家が生きていた当時の楽器の場合、計り知れないほどの発見とインスピレーションが得られるのだ。たとえば先日エラールを弾きに京都の森田ピアノ工房を訪問したところ、ほどなくして彼もそこを訪ねた。類は友を呼ぶと言うが、彼の場合、いつの間にか同類になっていた。

今回の神谷君のアルバムは、札幌在住の調律師兼作曲家、川岸秀樹さんと一緒にプロデュースした。川岸さんの創る透明で品の良い響きは神谷君の音楽に合う。そして、川岸さんが手塩にかけて育てている小樽マリンホールのスタインウェイは、タッチや整音も含め、神谷君の好みにドンピシャであった。

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かくして、レコーディングでの神谷君は、あたかも水を得た魚のように、最高のパフォーマンスを披露した。会心の演奏でCDデビューを飾れる神谷君は、なんと幸せなピアニストなのだろうと思う。(これは、それをコーディネートしたことへの自画自賛でもある)

CDは制作中だが、発売に先駆けてYouTubeで一瞬試聴できるようにした。

このどこまでも精緻な透明感は神谷君の光る個性であり、ぜひ生で聴いていただきたいもの。神谷悠生ピアノリサイタル(11/29(月)19:00〜王子ホール)ご来場をお待ち申し上げます!そしてCDもぜひお求めください。

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チケットのお求めはYahoo!パスマーケットから
CDの詳細とご予約はソノリテまで

ちなみに、このレコーディングに便乗して、僕自身のレコーディングも敢行した。自分のを録り終えて晴れ晴れとした神谷君がディレクションをしてくれたが、遠慮なく意見してくれて本当に助かった。そちらもご期待ください!

神谷悠生(かみやゆうき)
1994年生まれ。桐朋学園大学大学院音楽研究科修士課程修了。第82回日本音楽コンクール入賞。現在ベルリン芸術大学修士課程在学中。持ち前の透明なタッチと精妙な色彩感は、とりわけラヴェルをはじめとするフランス音楽に抜群の相性を聴かせる。



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