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  3-⑪ RIZING SUN

 朝日未来の死は、翔馬から全ての気力を奪い去ってしまうほどのショックを与え、エージェントは騎乗停止解除後の騎乗依頼を一旦全てキャンセルし、所属事務所は、翔馬の精神面のフォローに全力を尽くした。

 相応の時間が必要であった。

 未来は、デルマーオークスを制した翌日の昼、サンディエゴ市内のホテルで開かれた、英インターナショナルS勝利祝賀パーティーに出席、その後自宅に戻ったが、フライドチキンを購入する為に、歩いて5分程の距離にあるチキン専門店に向かい、店内で受け取りを待っていたところ、突然猛スピードで走ってきた大型乗用車が店内に突っ込み、その事故に巻き込まれてしまったのだ。
 飲酒運転によるものであった。

 事故直後、すぐさま警察、救急隊が到着し、至急救急病院に搬送されたものの、生を繋ぎ止めるにはあまりにも痛々しく、未来が再び目を覚ます事はなかった。

 日本が世界に誇る天才騎手、〝RIZING SUN〟朝日未来の告別式は、悲しみを怺えきれずに涙を流す世界中のホースマンで溢れていた。いや、ホースマンだけではなかった。

 政府の要人の弔詞を携えた、イギリス、フランス、アメリカの駐日大使も参列し、その死を悼んだ。

 フランスからは、未来の大ファンでもある、世界でも著名な画家がヴァイオレットエヴァーガーデンを颯爽と操る未来を描いた油絵をJRAに寄贈する為に参列していた。
 祭壇に飾られた、その油絵のあまりの迫力に、誰もが息を呑み、目を瞠った。

 イギリスからは、彼を見送る為に5人のバグパイプ奏者が参列していた。

 彼に届けとばかりに!その荘厳な音色が大空に溶けていった。

 アメリカからは、世界でも著名なジャズトランペッターが、未来が大好きだったという1曲を、全身全霊で、魂を込めて、吹きあげていた。

 世界中から愛されし、RIZING SUN、朝日未来よ・・・どうかその魂よ、永遠にあれ!と。


 競馬学校に入学し同室となり、その日のうちに〝こいつは凄い!親の七光りなんかじゃない!〟と、感じた。翔馬は未来を目標に設定した。

 こいつには負けたくない!
好敵手であり、親友であった。いつの日か話した人馬一体の夢・・・その夢があいつを天国に連れて行ってしまったのだろうか・・・翔馬は悲しかった。

 レースの話も、騎乗技術の話も、血統の話も数え切れない程たくさんした。
 競馬学校チャンピオンシップでは決着をつける事ができなかった。
 デビューしてからは何度も何度も対決をした。互いに切磋琢磨して、騎手として認められた。
 すべてはあいつのお陰だった。

 アメリカと日本に分かれても、道は1つだった。国境はなかった。
 あいつはやはり天才で、アメリカでG1をいくつも勝った。
 翔馬は未来を追いかけ続けた。

 どのレースでも、前に未来がいると思って。

〝未来・・・まだ決着はついていないだろ
!お前・・・ダービー獲ってないだろ!どうやって俺達の決着をつけるんだよ・・・
〟 
 目を閉じれば、未来との思い出が溢れ出てくる。

 数え切れぬ程のホースマン達が、涙を流し悲しみに暮れる翔馬を見守っていた

 翔馬は涙を拭った。
祭壇の中央では、夢と希望に満ち溢れている最高の笑顔の未来が笑っていた。競馬学校の卒業時に、父である朝日師が撮影したものだ。

 翔馬は未来を見つめながら、言葉を紡いだ。

「未来・・・天国で好きなだけ馬に乗ってくれ。いつか・・・俺がそっちに行ったら
、今度こそ決着をつけよう。それまで・・
・待っていてくれ。約束だぞ!」

〝先生・・・未来のことをよろしくお願いします〟


 南の空へコントレイルが伸びてゆく。
空は澄み渡り、翔馬が夢を追い求めて旅立った、あの日、あの時と同じ雲が南へ向かって流れゆく。

 まるで・・・天国への方向を示すかのように・・・。

RIZING SUN 朝日未来よ!
その魂よ、永遠にあれ‼︎


 PS・・・いつもお目に留めて頂き、心より感謝致します。次回配信は11月15日水曜日午前8時です。伝説となり、星になった朝日未来・・・その未来の秘密が明かされていきます。ある街が舞台になります
。私も大好きなこの街・・・。
 それではまたお会いしましょう🙇‍♀️🙏

          AKIRARIKA

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