終止符でビーストフュージョンパロしてみた2

ビーストフュージョンとは

発動させると個々が持つビーストに変身する人間族の一部が持つ能力。オールフュージョンで全身がそのビーストに、ハーフフュージョンで体の一部がビースト化する。(詳しくは前話参照)


アルセーヌ王国プチ解説

アルセーヌ王国、それは人間族が支配する王国である。国民の殆どを人間が占め、半獣族やエルフ族等、人間族以外は殆ど暮らしていない。しかし、トレジャーハンターや旅人等の来国者も少なくないので、街並みには人間族以外がいることも珍しくはない。アルセーヌは国土が広い割に街の数が少なく、また危険度の高いモンスター(ワイバーンやトロール)が多く生息している。そのため他国の商隊や旅人などが襲われることも少なくなく、王国管轄のの警備隊が発達した。アルセーヌにはビーストフュージョンという人間族の極一部に現れる特殊能力が発生し、ビーストフュージョン持ちのみで構成される警備部隊も存在する。


モブ後輩商人商視点

(前話の続き気味だけどあらすじも追うので読まなくても大丈夫です。まあ読むと理解が深まりますが。)

私はとある国のとある商団に所属するしがない男商人。普段は内勤だが珍しくアルセーヌへ向かう商隊に参加することになったがなんとアルセーヌ王国内でトロールに襲われてしまった。雇った数少ない護衛でも追い払えず万事休すかと思ったが、噂のビーストフュージョン警備隊に救われ、その隊と共に目的地へ向かうこととなった。


「…へえ、その転移装置のお陰でアンタ達は俺達の危機に駆けつけられて、俺達は助けられたのか。」

現場から目的の街への道中。先輩が馬車内で金色の獅子にフュージョンした博人さんから私たちの元へタイミングよく駆けつけたカラクリを聞いていた。先輩の感心したような言葉に博人さんは小さく頷いた。

「そうだ。転移装置はアルセーヌ内に座標点のような印魔法とセンサーが張ってあってな、王国内ならどこでも危機を感知して転移ができる。街同士なら行き来が可能だがそれ以外は街から一方通行だ。」

「なるほどね、だからアンタらは…えっと…なんとか緊急…」

先輩は何かを思い出そうと迷うように口を淀ませた。

「もしかしてアルセーヌ王国警備部隊緊急救助課ランクS第3班のことかな?」

迷う先輩を見かねたのか銀髪を纏めていた魔法使い(フュージョンはフェンリルらしい。フェンリルとか規格外すぎないか?)の朝陽さんが口を挟んだ。

「ああ、それだ!転移装置は片道切符の意味も含めて緊急救助なんて名前が入っていたんだな。」

「ご名答!警備部隊には王都駐留とか各街警備とか色々な課があるんだけど基本的に街の外の緊急救助は行っても手軽に戻れないから僕らの管轄でね。僕たちの班が適任だったから知らせを受けて最寄りの座標点まで転移してきたって訳。」

朝陽は人当たりのいい笑みを浮かべて解説した。私は気になる点があったので朝陽さんに尋ねてみた。

「あの、先程『僕たちの班が適任だった』とおっしゃいましたが適任とは?」

朝陽さんは博人さんを見遣ったが博人は答える気がないのか目を瞑っている。朝陽さんは博人にやれやれと言って解説を続けた。

「緊急救助課はいくつも班があってね。ランクとか適性とかが各班あるんだ。それでその日の当番の班が数班常に待機していてね。緊急通報が入ると距離とかわかる範囲での敵の情報から待機している班で最も適している班が向かうというルールになっているんだ。」

「あっ。なあ、アンタたちの班が適任だって言ってたけどトロール退治に適任って一番強いってことなのか!?」

「はは、一番かどうかはわからないけどそれなりに強いのは確かだよ。僕らは緊急救助課でもランクSの班だからね」

謙遜してるのか朝陽さんは控えめに微笑んだ。

「ランクSかぁ…ランクってどうやって決まるんだ?」

「うーん…フュージョン持ちの場合は大体はフュージョンランク、あっ、フュージョンランクっていうのは個人のビーストフュージョンの実力のランクのことね。で、それとチームの実績とか実力かな。」

ふゅーじょんらんく、と聞き慣れない言葉を繰り返した。朝陽さんは私をチラリと見て解説を続ける。

「フュージョンランクっていうのはビーストの種族だけに依存するわけじゃないんだ。実際僕はSSのビーストフュージョンのフェンリルだけど僕のランクはSだしね。」

フェンリルは力が強力だけどまだコントロールが上手くできていないんだ、と残念そうに言った。

「へえ、逆はあるのか?」

「あるよ。博人はAランクの獅子だけどSだしね。ああ、ちなみに君に話しかけてた翼と角の生えた彼女はSランクのアリコーン(ペガサス+ユニコーン)でSランクね。」

「ふ〜ん、アリコーンだなんて聞いたこともなかったなあ。」

「私は文献で見たことがあります。個体にもよりますけどあれ程綺麗な生き物だとは知りませんでした。」

「ああ…雪神のアリコーンは希少性がフェンリル並みの上にオールフュージョンは類稀なる美しさって王都で専らの噂だから。」

「虹の鬣の白馬ときた。女からしたら御伽話の世界だし普通の男からしたら女性が綺麗な白馬になるって浪漫があるんだとか。」

一部じゃ神格がすごくてさあ、もはやあれ宗教でしょ、と朝陽さんはクク、と堪えるように笑っていたが耐えきれなくなったのか腹を抱えてゲラゲラ笑っている。仮にも同じチームなのにもはや他人事だ。…いや他人事と言えば他人事か?

「カナタの神格化は年々過激化してるが幸がいるからなんとかなるだろ。」

「ああ、ツキは番犬の如く雪神を守ってるからね。ツキこそ雪神のことを神様だと思ってるんじゃない?」

「馬鹿言え、その手の話題を振ったら幸が本気で嫌な顔するぞ。」

二人がポンポンと雪神さんともう一人の話をしている。おそらく例の犬(ナイトハウンド、猟犬騎士と言うらしい)に変身した小柄な女性のことだろう。

「なあ、ツキとか幸って…誰のことなんだ?」

「先輩、呼び方は違えどもう一人の犬に変身した人のことじゃないですか?」

「あ、そうそう、当たりだよ。ツキはね、Bランクのナイトハウンドだけど、Sランクを授与されて異例の大出世を遂げた僕らのチームメイトなんだ。」

「ワンランク以上高いランクを与えられることは滅多にないんだ。幸がそれだけ有能な印だよ。」

「へえ、そんなに有能なのか。あの犬の格好をしていた桜髪の女の人は。」

先輩の言葉に二人はうんうん、と大きく頷いた。同僚の力を誇らしく認めるチームメイトの姿だ。

「当たり前だけどビーストにはそれぞれ抜きん出て高い能力があってね、僕は大魔術、博人は牽制力、雪神…リーダーは飛行能力、そして幸は牙刀に優れてる。」

「がとう…ですか?」

「うん、中型犬サイズの体格で小さな牙だけどその切れ味は刀みたいに…いや、刀よりも鋭いのかもしれないな。」

朝陽さんの刀よりも鋭い、で幸さんがトロールの拳をざっくりと牙で切り裂いたのを思い出した。

「しかし、あれなら一般人でも武具で代用できるのでは?」

「切れ味だけなら名刀でな。だが幸はそれに加えたアドバンテージが最大の強みだ。」

「アドバンテージだ?」

先輩がキョトンと尋ねた。朝陽さんが楽しげに指をピン、と立てた。

「一つは機動力だ。真っ先に君たちのもとに駆けつけたのはツキだったよね?」

私はあのときのことを思い出した。あの弾丸のような犬…今ならわかるがあれは幸さんだったのだな。

「そうだったな。真っ先に駆けつけてくれめマジで助かったが…あれは転移の順番によるタイムラグじゃなくて幸って嬢ちゃんが一番の俊足で駆けつけてくれたからなんだな。」

「そう。単なる長距離移動の速さなら僕の転移大魔術に劣るけど今回は細かな目的位置、方角、距離などと分かっていない情報が多かった。こんな感じの状況だとツキが一番有用なんだ。」

「待ってください、私達の詳しい位置もわからなかったのに彼女はどうしてあんなに速く来れたんですか?」

「それが強み二つ目だよ。幸は索敵能力が高いんだ。具体的にはナイトハウンド特有の聴覚、嗅覚、そして決め手が…」

「決め手が?」

「カンだ。」

朝陽さんは二本目の指をぴしっと立てた。私と先輩は気の抜けた息が漏れた。

「え、それは本当なのか?というか能力なのか?」

「それは俺達が一番知りたいさ、なあ朝陽?」

「博人の言う通りさ。僕も初めてツキと組んだときは驚いたけど、本当にツキの土壇場のカンは良く当たるんだ。」

随分スピリチュアルだけれど、実際私達はそれで助けられたのだから本当なのだろう。

「とにかくさ、ツキはビーストフュージョン保持者として厳しく鍛錬して、その能力を最大限に活かして王国アルセーヌを守ってるんだ、ツキってすごいだろう!!」

「…朝陽さんは随分幸さんを誇らしげに思うのですね。」

「そりゃあそうさ、だってツキは僕のベストバディだからね!」

朝陽はニカッと満面の笑みで笑ってみせた。

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