【1】ボーカロイドとは。

 「ボーカロイド」と一口に言っても、見方によってその定義は様々に捉えられる。それらを総括的に表現することは難しいが、現在の広義としての「ボーカロイド」を簡潔に表現するとしたら「初音ミクや鏡音リンといったキャラクターを、好きなように歌わせられるアプリソフト」となるだろう。

 もちろんこの表現は正確さに欠けるが、入り口としては差し支えないと思う。では、より正確な狭義としての「ボーカロイド」とは何だろうか。

 もともとボーカロイドとは、YAMAHAが開発し2003/2/26にプレス発表された「VOCALOID」というパソコン上で歌声を合成する技術と、それをもとにした歌声合成ソフトのことを指す。VOCALOIDエンジンは今でも改良を重ねグレードアップされており、現在の最新エンジン「VOCALOID4(V4)」では初代エンジン(V1)と比べても自然で多彩な歌唱表現が可能になっている。

 最初のボーカロイドは、イギリスのZero-Gが2004/1/15に開発した「LEON」と「LOLA」だ。この2人は「VOCALOIDのアダムとイブ」と称される。日本初の女性・男性ボーカロイドはそれぞれクリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以降「クリプトン」)が開発した「MEIKO(2004/11/5)」「KAITO(2006/2/17)」である。「LEON」と「LOLA」ではイメージキャラクターは採用されておらず、「MEIKO」で初めてキャラクターパッケージが採用された。
 2007/1/18に二代目エンジン「VOCALOID2(V2)」がヤマハから発表されると、クリプトンは2007/8/31にV2シリーズ第一弾として「初音ミク」発売、彼女が皮切りとなってボーカロイドはその人気に火が付いた。それ以降かわいいイメージキャラクターが定着し、「鏡音リン・レン」や「巡音ルカ」、クリプトン以外からも、株式会社インターネット(インタネ)から「Megpoid(GUMI)」「音街ウナ」、1st PLACE株式会社から「IA -ARIA ON THE PLANETES-(IA)」、株式会社AHS(AHS)「結月ゆかり」、ヤマハ株式会社(ヤマハ)及びガイノイド株式会社(ガイノイド)から「v flower」など、その他にも様々なキャラクターが続々と登場している。一方で「VY1」のようなイメージキャラクターのないボーカロイドも開発されている。

ボーカロイドは、製品ジャンルとしてはボーカルシンセサイザ/ボイスシンセサイザーに属する。他のボーカルシンセサイザーとしては、無料で利用できて音声ライブラリを自作できる「UTAU」や、歌声だけでなく自然な喋り声も合成可能なスピーチシンセサイザーとしての機能も併せ持つ「CeVIO Creative Studio(以下CeVIO)」などがある。

 ボーカロイドを使用して制作された楽曲は、基本的にインターネット上の動画投稿サービスを利用して投稿・視聴されている。楽曲の特徴としては、「VOCALOIDイメージソング」のようにボーカロイドのキャラクター性を取り上げたものもあれば、キャラクター性はなしに、J-POP、ロック、クラシック、ラップなど様々なジャンルのものが見られる。動画の特徴としても、1枚絵のものから動画まで、そしてボカロキャラを取り上げるものとそうでないもの。多くのクリエイターによって様々な表現が展開されており、ボーカロイドというコンテンツの魅力となっている。

 以上が、ボーカロイドの基本的な概要だと思われる。
 さて、ここで確認したボーカロイドの基本事項は、実は大なり小なりある「ボーカロイドの誤解」を解くことに注視したものである。次はその誤解を取り上げ、先に述べた概要を用いて簡単に事実確認をしておこうと思う。

 まずはよくある言い方で「ボーカロイドと言えば初音ミク」である。正面から間違いというものではないが、まずボーカロイドは「初音ミクだけではない」という話である。先に見た通り、ボーカロイドは多くのキャラクターが登場している。
 さて、ではつまり「ボーカロイドはキャラクター」なのかと言うと、必ずしもそうではない。「ソフトウェアである」とも言えるがそれはさておき、この場合に確認したいのは「ボーカロイドは総じてキャラクター性を持つのか」という点である。そして、これも確認したようにLEONやLOLA、VY1といったイメージキャラクターを起用していないボーカロイドも存在している。
 LEON・LOLAについてもう一つ。「初音ミクが最初のボカロ」という誤解にも言及しておこう。既に分かる通り、最初のボカロはLEONとLOLAである。さらに言えば日本初であり、かつ最初にイメージキャラクターをパッケージ化したボカロも、初音ミクではなくMEIKOである。
 さて、次は「合成音声=ボカロ」という話だ。これはもしかしたらボカロリスナーの中にもよく知らなかった人もいるかもしれない。先に挙げたように歌声合成ソフトにおいても「VOCALOID」の他に「UTAU」や「CeVIO」が存在する。ちなみにここで挙げたVOICEROID以外の歌声合成ソフトでもイメージキャラクターの文化は踏襲されているので、興味があれば是非関連楽曲及び動画を見てみて欲しい。
 さて、次の議題は少し取り扱いが難しい。「ボーカロイド=オタカルチャー」という認識である。これは、特にボーカロイドの歴史において「キャラクター」が果たした功績が大きいことに原因がある。先に述べておくが、何もこの「キャラクター」という性質を否定的に見ているわけではない。ここで私が主張したいのは、「オタクでないと楽しめない」という誤解を解きたいということ、オタクでなくても楽しむことができるということである。これは、先に述べた概要の中でも「多くのクリエイターによる様々な表現」に求めることができる。特に、ボーカロイドのキャラクター性を必ずしもピックアップしているわけではない。その上で様々なジャンルの楽曲、様々なセンスの1枚絵ないしPV動画が存在しているわけである。そのようなコンテンツ展開をしているボーカロイドを、ややオタク的な「キャラクター」という要因一つで遠ざけるのはもったいなくはないだろうか。
 最後にもう一つ、何とも扱いの難しい議題に言及しようと思う。「ボーカロイドの歌声は無機質」という意見だ。これについては完全に否定しきることは難しい。その無機質さが「ボカロらしい」として魅力とされることもある。しかし、ここで私がしたい主張は「進歩のない無機質なのか」というものである。先に確認したが、エンジンであるVOCALOIDは現在では四代目のV4まで進化を遂げている。この成果にはエンジン開発を行っているヤマハの並々ならぬ努力があるだろう。また、ボーカロイドを駆使し人間らしい調整をする努力もクリエイターらによって日々試みられていることだろう。そういったノウハウはハウツー本となってこれからのボカロPに引き継がれている経緯もあるのではなかろうか。そういった営みの蓄積で日々人間へと近づこうとする行為は、その成果としての歌声は「無機質」で一括りして果たしていいものだろうか。事実として現在のボーカロイド作品には人間と聞き違えるほどに自然な歌声を披露しているものがある。それでも人によってはその違いを聞き分けるものもいるかもしれない。それでもその成果は「進歩のない無機質なのか」と問わずにはいられない、というのが本心だ。

 以上が、ボーカロイドにかかる誤解と、それに対する私なりの回答である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?