2017年ボカロ10選

 ようやく、ようやく私の2017年ボカロ10選を決めることが出来ました!
 選定難しかった…。でも、私の10選はこれで決まりです!

01.【IA】オールナイトミュージック【オリジナル】

 お気に入りラジオを聞きながら徹夜して宿題を片付けている、という男子学生の日常の何気ない一幕を描いた曲。芸人の面白いネタに思わず笑ったり、思いを寄せるあの子からの返信に胸がいっぱいになったり、そんなこんなで宿題の進みは悪かったり(笑)。そんなよくある何でもない日常を上手く切り取って表現している。
 この曲の中でも特に気に入っているのが、「音楽」という作品の中に「ラジオトーク」という異なる音形のエンターテインメントを組み込んでいるというという点。「ラジオトーク」の雰囲気・良さをほとんど崩さずにそのまま持ち込んでいて、ラジオ独特の「ラフさ」をそのまま楽しめる。面白いのは曲の歌詞の部分がボーカロイドだからこそ成立しているその妙だ。歌詞を機械音声が歌うことで肉声トークが曲に埋もれていない、それによってラジオトークの良さを引き立たせている。その逆もしかり、ボカロの歌声もトーク部分に呑まれずに聞けるのはボカロ好きとしてはポイントが高い。肉声とボカロのコラボレーションとして非常にエモい作品なので、ぜひ一聴あれ。

02.【VOICEROID】 恋 きりたんと歌ってみた 【ピヨ式】

 非常に羨ましい作品である。
 正直、誰かはやるだろうと思っていたタイプの作品なのだが、私自身は出会ったのはこれが初めてだった。いわゆる「嫁(2次推しキャラ)と歌ってみた」というタイプの作品。探せばやっぱり過去にやってる人はいるんだろうか。それにしてもラブソングを推しキャラとデュエットできるって言うのは「声の創作」ができる合成音声キャラクターの強みですね。そういった意味でもこの作品はボカロ系音楽ならではの表現なので非常に面白い。
 ただ、この作品の面白さとしてはその熱量にも注目したい。本来歌う合成音声と言えばボーカルシンセなのだが、この作品で歌っているのはスピーチシンセのVOICEROIDだ。「ピヨ式調整法」を駆使して歌わせているのだが、そもそもそういう調整法が提唱されること自体が面白い。きりたんってUTAUから出てはいるんですけどね。
 あとはきりたんかわいい、羨ましいに尽きます。あとふらすこさんまじイケボ。ちなみにきりたんソロver「【VOICEROID】 恋 きりたん1人で歌ってみた 【ピヨ式】」も上がっているので、きりたんと夫婦を越えたい人は(ry)


03.【初音ミク】ボカロはダサい【オリジナルPV】

 これ以上ないくらいセンセーショナルなタイトルの一曲。これを今シーンでも注目が高いボカロPの一人であるピノキオPが、しかもボカロに歌わせているのだから、これがボカロシーンに直撃しないはずがない。そういったことを敢えてやっているというのが私はとても面白い。
 曲の中に入ってみると、まず一番キャッチーなフレーズが「ボカロ ダサ ダサ」である。もはやどうしようもない。それを敢えてボカロに歌わせている。「ボカロはダサい」と言いながらボカロは使っているし、一方で人間の肉声とゆっくりボイスも織り込まれている。ここまで皮肉のオンパレードで攻撃的なテーマなのに、これらを音楽やPVでコミカルな雰囲気にまとめている。
 初音ミクと鏡音リン・レン10周年だった2017年末をまさか「ボカロはダサい」で締めくくるなんて誰が予測できただろうか。今再び盛り上がっているタイミングで「ボカロはダサい」と言われても誰も本気になんてしない。「あぁそうかもね。でも楽しいし」って余裕で返せる。なるほどそういうことだ。この曲はもしかしたら、「ボカロはダサい」というテーマそのものを軽く笑い飛ばせるコミカルなネタにしてしまおうという、そういう曲なのかもしれない。「HAHAHA面白いジョークだ」というスタンスで楽しむのがオススメの一曲。


04.ハチ MV「砂の惑星 feat.初音ミク」

 2017年マジカルミライのテーマソングとして制作された「砂の惑星」。この曲は初音ミク10周年を間近に控えてお祝いムードが強まる中で、どこかアンチテーゼ的な風味を帯びてシーンに対して非常にクリティカルなものだった。普通10周年と言えば「今までありがとう、これからもよろしくね」という表現をするのが王道だ。それを「10周年だけどどうする?もしまだ好きだと言ってくれるなら、この声にどうか応えてくれ」と表現したこと自体異色でエモーショナルに私には響いた。呼びかけに応答する人がいなければ、そこに人間社会というコミュニティは認められない。人の応酬とその熱量で形成されるシーンそのものにとって、この救援要請はダイレクトな表現だったように思う。
 今やボカロシーンでも代表的なイベントであるマジカルミライのテーマ曲に、ましてや初音ミクの10周年に、祝福的な華やかさなどむしろ対局とさえいえる砂漠という表現は、どうあっても挑発的だ。それでも敢えてこのステージでそれを表現しきる、その姿勢に私は痺れた。ボーカロイド以外の全く別のコンテンツで、同じ様に10周年を迎える時、こんな表現が果たしてできるだろうか?「砂の惑星」を聴いて改めて思う。ボカロシーンを牽引した初音ミクの10周年としての今年、そのマジカルミライ2017のテーマに、この曲の他にふさわしい曲はないと。


05.【初音ミク】失想ワアド【オリジナルMV】

 2013/9/2にエンディングテーマとして「【IA】サマータイムレコード【オリジナルMV】」が投稿されて以降、ボカロによるカゲロウプロジェクトは終息したかのように思えた。それが2017/12/29「失想ワアド」によって再始動した。リスタートの1曲目を飾ったのはメカクシ団の団長キドこと「木戸つぼみ」のフィーチャリングソング。この作品内の誰かに焦点を当てる手法は今までと同じ表現方法なのだが、この曲はカゲロウプロジェクトの曲である一方で、ボカロへの敬意としての帰属性を意識したかのような暗喩表現が見て取れる、非常にテクニカルな作品となっている。
 この曲は、かつて「ボカロPではない」と指摘されたじん(自然の敵P)が、ボカロPとして帰ってきた曲である。私にはそう思える。詳しいことは私が書いた別記事「疾走ワアド」を読んでいただきたい。
 またあの終わらない8/15の夏の日を繰り返すのかと思うと、浮かれた熱で目も眩みそうだ。


06.私の新曲まだですか?-結月ゆかり for LamazeP

 結月ゆかりがマスター(ラマーズP)に新曲の進捗を容赦なく責め立てるサディスティックな作品。作品制作においてあるあるな気の緩みや凝りや怠けの一切に言及する姿勢、挙句休息さえも制作時間に回すことを催促してくる笑顔には背筋が凍る。クリエイター志望としてはある意味心強い一曲だと思う。クリエイターサポートソングという曲目を考えた時、この曲ほど効果的な曲があるだろうか。
 この曲の意義を考えた時、そこにキャラクターがいることの重要性を非常に強く感じる。ボーカロイドにイメージキャラクターがいるのといないのとではこの作品の効果は段違いだっただろう。疑似人格を投射しやすいイメージキャラクターという身体性を持つからこそ、「私の新曲まだですか?」という訴えはダイレクトに響いてくるのではないだろうか。改めて、ボーカロイドのキャラクター性の意義を感じ取ることができるという点でも面白い作品だ。
 という訳でゆかりさん、マスターをちょっとだけ休ませてあげてください。


07.何でも言うことを聞いてくれるアカネチャン

 「ボーカロイドたちがただ叫ぶだけ」などが代表的なGYARI(ココアシガレットP)の新曲で、本人にとって初の歌うボイスロイド作品。2017/12/28に投稿されたこの動画は、「歌うボイスロイド」タグの作品としては現在最も再生されている2015/8/30に投稿された「マキマキが吹 っ 切 れ た」の557,156再生に、投稿から僅か5日ほどで546,898再生まで迫る圧倒的な勢いを見せていてる(2018/1/3_3:16現在)。
 音楽のクオリティの高さに加えて、音ハメをしっかり意識した動画づくり、個性的なキャラクター、そしてじわじわと来る面白さのある掛け合いの展開、GYARI(ココアシガレットP)らしさ溢れる非常にハイセンスな作品だ。
 普段ゲーム実況や会話劇で活躍するボイスロイドだが、そんなボイスロイドたちに歌を歌ってほしい、歌わせてみたいという願望・試みは少なくない。「【VOICEROID】 恋 きりたんと歌ってみた 【ピヨ式】」で見たように調整法も提唱されていたり、本来の用途を無視して可能性を追求する姿勢はいかにもニコニコ動画らしい。こういった面でボーカロイドに普通の会話をさせるというトークロイドに通じるチャレンジ精神が感じられる。そんな中でこの作品は非常にクオリティの高い「歌うボイスロイド」作品となっているので、こういった用途開拓的な試みに関心のある方、あるいは純粋にボイロ作品や音楽作品として興味関心のある方にも是非オススメしたい。


08.てるみい/歌、IAとOИE

 ARIA ON THE PLANETES姉妹のIA・ONEによる脱力系ロックサウンド......みたいな感じだと思います(適当)。この脱力系っていうのは私が石風呂さんの作品自体によく感じる雰囲気のやつですね。「ゆるふわ樹海ガール」とかもそんな感じ。それでいて音は確かにロック系、いやロックかどうかってほんとは全然わかってないけど、でもまあロックって言われてるし石風呂さん。まあ言いたいのは、脱力系なのにノリに乗れる感じが何とも表現し難いですが石風呂さんの音楽の魅力だと思います。私的。
 この曲では2番サビが終わった後の間奏で歌っているIA・ONEが喋り出します。「イシブロックフェス2017」と称してライブを模したMCを始めます。一応「イシフロックフェス2017」検索してみましたけどそれっぽいのはなさそう、多分架空ですよね。そうするとこのMCって「てるみい」って曲の構成要素な訳で、カラオケなんかに入ればライブバージョンでもないのにMC台詞として括弧付きで表示されるあれが入るわけですよ。なんか面白いですよね。ライブの特権のはずのMCコメントを最初から曲に盛り込んでしまえと言う遊び心はこの曲の魅力の一つです。
 ただ、これがニコニコ動画にアップされているということ、さらに踏み込んで言うなら「流れるコメント」という特性で盛り上がりの一体感を共有できるニコニコ動画という場所であるということを考えると、このMCを入れることは何ら不思議ではない、むしろ効果的であると考えられる訳ですね。実際動画を見てみればONEちゃんの呼びかけにコメントで応答してるわけです。その疑似ライブ性に焦点を当てて捉えることができることを鑑みると、この動画はとても面白いものだと思います。
 という訳でおすすめの一曲です。


09.【GUMI&IA】HOLLYWOOD【オリジナルPV】

 日本語歌詞の曲か英歌詞の曲かと言われれば、この曲は両方と言わざるを得ない。日本語の曲はズルいことに和洋折衷なんて言葉があるくらい外国文化を何の抵抗もなく取りこんでしまうところがある。ところどころ英語で歌うJ-POPなんて珍しくないわけだが、英語を使ってるくせにジャパンのPOPソングとかズルくないか。
 そんな中でこの曲は、やっぱり日本語歌詞と英歌詞を混ぜた曲なのだが、ジャンルとしては「VOCAROCK」タグだがそれはさておき、果たしてJ-POPのように「日本の」と囲うことができるだろうか?そういった曲の国的帰属性を難解にし、むしろその中間で架け橋となるような試みがこの曲ないし動画には見られる。
 パートによって日本語と英語を歌い分けることは左程珍しくない。英歌詞に日本語訳を乗せるのも珍しくない。だがその逆に日本語歌詞に英訳を乗せる表現は日本人としては新鮮に感じるのだがどうだろう?ボーカロイド文化で発達したタイポグラフィーミュージックビデオという形式において、歌詞表記は単純な歌詞表記以上に完成された作品を構成する中でも主要素である。その認識に注視しても日本語圏と英語圏の両方のタイポグラフィーミュージックビデオが同時進行している時点でどちらに帰属するのかという2択の問いには答えられない。
 ここまでの記述でわかるように、この楽曲において重要な要素の一つにミュージックビデオがある。音楽番組においても歌詞表記というのは一般的だが、そこに注視したことでここでは言語文化による国的帰属性についての実験が見られた。いや、もっとシンプルに言って、日本とアメリカの音楽の架け橋となるような音楽を作りたかったのではないだろうか。その意義においてこの曲は音楽自体も聴き劣らない凄まじくハイセンスだ。もしもまだ聴いていないというのであれば、ぜひ聴こう。この曲は聴かない方が損だと言っておく。


10.night (t)rain / 初音ミク

 ここまでいろんな曲を紹介してきたけど、最後に紹介するこの曲は、私が唯一曲・音としての視点だけで選んだ曲です。ジャンルとしては「MikuPOP」「ミクトロニカ」のタグが付いてます。どっちなんだろう?どっちも?聴いていて「あぁ、好きだなあ」と思いました。こういう曲もっと聴きたいな。
 なんだか音が楽しいですよね。なんて言うんでしょうね。楽器じゃない、身の回りに溢れる音で遊んでいる感じですかね。
 今回10選をやるにあたって選曲している内に、「私って環境音とかシステム音が好きなのかもしれない」って思ったんですよね。なんでだろう?システム音については「劇場版デジモンアドベンチャー」の電子機器がバグるシーンが私の原風景な気がします。主人公たちの幼少期のお話のやつ、詳しい解説はしませんが、わかる人いるかなぁ。環境音嗜好に関してはどこから来てるんだろう。音としては思いつかないんですけど、文学方面なら「きつつきの商売」を思い出しますね。小学校の教科書にあったやつなんですが、このお話を通して「音楽って”音を楽しむ”って書くよなぁ」ということに気づいた......ような気がします。たぶん。
 ボカロ10選を通じて音楽そのものと向き合えたことはとても良かったですね。という訳で最後は、私にとって音楽として好きな作品のオススメです。
 あぁ、ほんとにいいなぁ......この曲。


:終わりに:

 さて、ここまで長くなりましたね。すみません、これでも1曲1曲なるべく短くまとめたんです。いや、語ると長くなりますね(笑)。なので、総評は短くいきたいと思います。
 選考基準に関して、やっていて気付いたのですが、単純なサウンドだけを聴いてというよりも、コンテンツとして「面白いことやってるな」という作品が好きな傾向があるなと思いました。どれも意義だとかそういった方向で考えてしまうのはもう癖ですね。新しい価値観とか大好物です。そんな中で音だけで選んだ「night (t)rain」は、この10選の中でも他の曲とはまた違った面白さがあるんじゃないでしょうか?

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。皆さんが「面白いコンテンツ」に巡り合えればいいなと思います。そして私にも教えてくだし。

ではではノシ



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