見出し画像

【特別編2】『点』と『点』をつないで線に -グリーンツーリズムブラッシュアップ研修会in男鹿市-

①男鹿市のグリーンツーリズムについて

秋田県の沿岸にある男鹿市では、農家民宿や農家レストランがあるほか、農業や漁業体験ができるなどグリーンツーリズム資源が豊富です。今回、コロナ禍を契機として、男鹿市のグリーンツーリズムを盛り上げるために、研修会を開催しました。
県内で最もグリーンツーリズムが盛んな秋田県仙北市の一般社団法人仙北市農山村体験推進協議会の伊藤事務局長及び仙北市で農家民宿「星雪館」を営む門脇副会長の講演と、会場となった男鹿市北浦にあるカフェ「ににぎ」の猿田代表の講演の2本立てで研修を開催し、コロナ禍の中での新たなグリーンツーリズムについて参加者とともに考える機会としました。

男鹿市におけるグリーンツーリズムについて、事業者がどう考え、お客さんを招いているのか、”観光スポットとして”だけではないグリーンツーリズムの魅力を多くの方に知ってもらい、実際に男鹿市のグリーンツーリズムを体験するきっかけにしていただければと思います。

②仙北市におけるグリーンツーリズムの取組について

 「東日本大震災の時より辛い・・・」
そう話すのは、一般社団法人仙北市農山村体験推進協議会 伊藤カオリ事務局長。
 仙北市は、県内でいち早く、農村への教育旅行の受け入れを開始。平成24年からは海外からも教育旅行の受け入れを行ってきた。今回、伊藤事務局長とともにお話しいただいた副会長・門脇富士美さんが営む農家の宿「星雪館」では、近年は関東と海外からのお客さんがほとんどだったとか。

画像6

仙北市のグリーンツーリズムについて「(一社)仙北市農山村体験推進協議会」副会長 門脇さんの講演を聞く参加者

急激な海外客の増加にどう対応したのか。
-民宿同士で、
A「今日はどこの国から来るの?」
B「○○だよ」
A「ウチにもきたことあるよ。じゃあこうしたらいいよ。」「うちの父さんなんか、『目と目があえば心は通じる』って言ってるよ」
といった会話をするようになった。海外客増加により同じ経験をした仲間が増え、これまで旧町村単位の結びつきしかなかった地域の垣根を越え、新たなネットワークができた。

-通訳はあえて置かなかった。というのも、海外からのお客様には通訳との交流よりも民宿のお母さん達との交流を楽しんでもらいたいため。
 “通じないことを楽しもう”という気持ちで、翻訳アプリを使ったり、身振り手振りで。時にはお母さんたち同士で相談したり。
「ほうれんそうはこうやってできるんだよ」と生育の過程を実際に見て、体験してもらう、というような農業体験や、着物の着付け体験など、農家が昔から普段やってきたことが、海外客との交流を深めるには最も効果的なんだそう。

コロナにより民宿は9割減・・・新たな取り組み「母さんのおすすめセット」の開発
-冬期に入ったが、実はコロナ前から観光客の減少は始まっていた。
門脇さんの経営は農業×民宿×加工の3本柱だったが、コロナにより「農業」しかなくなった。
これは他の仲間も同じ。一方、県外の地元出身者からも、帰郷がかなわず地元のおいしいものが食べられなくなったと寂しがる声が。
そこで、同協議会ではお母さんたちが本当は民宿で食べさせたい自慢の野菜や山菜、漬物をセットにして発送するという取組を開始。
県内で報道されてまもなく全国放送されたことを機に、一気に注文が入り、その忙しさゆえに荷造りをするお母さんたちに怒られるほどだったとか。
この取組を契機に、セットを作る地域のお母さんたちの絆が深まったという効果も出てきた。
団体の農家体験の受入れの時は基本的にはお母さんたちとお客さんたちとの直接交流を大切にし、緊急事態には協議会が対応する、という体制をとっていることが、お母さんたちにやる気と安心感を与え、地域全体の発展に繋がった。

第2の軸足(副業)から第1の軸足(本業)への考え方の変化を

-農家民宿は、農家のお母さんの生きがいづくりとして始まり、広まってきたが、今は後継者をどうするかがどこも課題になっている。
門脇さんは言う。「これからは『生きがい』だけでは後継者は育たず、本業(農業)に軸足を置き、さらに農家民宿経営を仕事としての『やりがい』とすることが必要だ。」

「地域とのつながりを強くしたい」

-これまでは「外から人を呼ぶことで地域活性化につながる」と考えていた門脇さんだったが、コロナにより地元を見つめ直し、今後は「地域とのつながりを強くしたい。それが外との交流を繋げるはず。」と話す。
元々、国際交流に興味のあった門脇さん。今は思うように十分な活動はできていないものの、「山の中にいながら国際交流ができる、という当初の夢が叶えられている」と笑顔で話す姿に、多くの参加者は明るい兆しを感じたに違いない。

③里山のカフェににぎの取組について

「地域の文化を後世に残したい」
-そんな想いで、男鹿市で里山のカフェ「ににぎ」をオープンした猿田真さん。当時まだグリーンツーリズムが世間に知られ始めて間もない頃だった。地元の人口減少のスピードに危機感を抱き、まず自分が店を開くことで仲間が増えないだろうかと始めた。

画像6

「里山のカフェににぎ」の猿田代表から男鹿市のグリーンツーリズムについて講演していただいた。

多角的に文化を理解しておく事がお客さんとの交流を深めることになる
-常にアンテナを張り、各地の文化に関心を寄せている猿田さん。全国各地の工芸品や民芸品にも興味を持ち、時々自らのカフェ(ギャラリースペース)で出会った作家達の作品の展示や販売を行う。多くの人に、作り手の想いや作品の魅力を猿田さんと同じように感じてもらいたいという。
 もう一つ。店内には音楽好きの猿田さんが趣味で集めた様々なジャンルのレコードが飾られている。元々は写真やデザインワークにも興味を持っており、レコードのジャケットはカフェスペースにモダンな空間や彩りを添え、インテリアにもなる。
 コロナ前、民宿を始めて間もない頃、海外からのお客さんも度々訪れるようになった。記憶に残っている出来事は、音楽を通してお互いの国の文化の素晴らしさを共有し意気投合したこと。言葉が通じなくても、別のコミュニケーションの取り方でお互いを理解し合えた瞬間もあった。例えば、日本のコミックスやアニメが互いの接点になったことがあった。生まれ育った文化・習慣や政治的な価値観が違っても、認め合える文化が互いの距離を縮めてくれ、良い思い出となっている。
 観光客を受け入れる側としても、若者からお年寄りまで年齢層に幅を持たせること、そして異なる文化や様々な価値観を理解することが重要だと感じている。

画像7

会場となった里山のカフェ「ににぎ」。カフェでランチを楽しむことができるほか民泊もできる。

画像6

自家製の季節限定のいちじくのケーキ。ランチだけでなくスイーツもおすすめ。

地域にものづくりの職人が増えてほしい
-最近は男鹿半島も特に駅前を中心に、飲食店が増えている傾向があるが、冬の閑散期を考えると、飲食店のみでの経営は難しい。また、観光地にも関わらず、お土産向けのアイテムや普段暮らしに使える工芸品や民芸品をつくる作家、大工や建具職人が比較的少ない。
例えば我が家の様な古民家があっても、それを修復する建具屋さんが大分減ってきた。電気設備や家電が壊れても修理する電気屋さんも少ない。ひいては将来のインフラの維持管理も危ぶまれる。地元の人が地域で暮らしていくには、そういった地域を支えるものづくりの職人や修理する人が欠かせない。便利な暮らしを求める一方で我々は沢山の技術者や文化を失ってきた。これからの若い世代や移住者には是非、そういった技術をもった人達やそれを目指す若者が増えてほしい。

人手不足やシーズンギャップが課題。それらを皆で解決し、新しいステップを踏みたい。
-平成29年にはカフェ営業に加え、念願の民宿営業も開始。地元の文化に興味を持って来られるお客さんに対して、今までより時間をかけて話せる環境が整った。
 また、最近では、地元のお寺が紫陽花の庭園を見事に演出し、新たな観光スポットとして注目を浴びる様になった。男鹿を訪れる観光客が昼夜その季節(6月下旬〜7月上旬)に増加。有り難い一方で、課題もある。夏期の繁忙期には高齢化や人口減少に伴った人手不足や担い手不足が露呈する。アルバイトの学生も夏休み前の試験期間中。しかも繁忙期と閑散期のギャップにより通年雇用が難しく、この課題に向き合うには地域の人達がそれぞれの困り事を話し合い、支え合う必要がある。
 繁忙期は個々の経営に精一杯なのが現状である。個々の経営では限界があるにも関わらず、連携して取り組むには至っていない。個々の活動(点と点)だけではなく、地域全体(線)で連携し課題を解決していきたい。

 「男鹿半島はせっかく、『見るもの・食べるもの・楽しめるもの』が揃っているのだから、観光客の冬期間における交通利便性や滞在・待機場所を確保し、フルシーズンでバランス良く観光をつなぐことが出来れば、または冬期に限った仕事や雇用が増えれば新たな展開も見えてくるはず。」と話す猿田さんの姿に、参加者一同が頷き、新たな輪が見え始めていた。

画像3

男鹿市のグリーンツーリズムについて意見交換をする参加者

④参加者からの声

◆浜のそば 進藤由秀さん
 自らも地域活性化を目的としてそば店を経営しています。今後の発展には事業者間の連携が必要だと感じていたが、今回、猿田さんの話を聞いて、一緒に何かできるのではないかと感じることができました。

◆秋田のグリーン・ツーリズム総合情報サイト(浜のそばの紹介)
https://www.akita-gt.org/eat/restaurant/hamanosoba.html

◆おがんしゃ 西村かほるさん
 男鹿市で海鮮丼などのランチを提供するお店を始めました。自分自身が秋田市から男鹿市に来た移住者のため、グリーンツーリズム関連の事業者と交流する機会がありませんでした。その中で、今回の研修会に参加し貴重な話を聞くことが出来てよかったです。

◆秋田県男鹿市公認観光情報サイト(おがんしゃの紹介)
https://oganavi.com/gourmet/407/


⑤最後に

皆さんいかがでしたでしょうか。男鹿市ではこれからグリーンツーリズムの様々な取り組みを進めたいと思いますので、ぜひ実際に遊びに来てもらい、応援していただけたら嬉しいです!

=関連サイト=

◆秋田県仙北市グリーン通リズム「農山村体験のススメ

◆里山のカフェ「ににぎ

◆秋田県男鹿市公認観光情報サイト「男鹿なび

◆秋田のグリーン・ツーリズム総合情報サイト「美の国秋田・桃源郷をゆく