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まりは数学と物理でできている

こんにちは。秋田県由利本荘市でごてんまりを作っています〈ゆりてまり〉です。

ミニごてんまり教室をやっていると、体験して頂いた方に、ごてんまりが硬くてびっくりされます。
ごてんまりは糸をぐるぐるとボール状に丸めたものなので、ふつうの布とはまったく違います。
だから縫い物が得意な人でもめんくらうんですよね。
「なんだこれ、硬っ!」って、よく言われます。
皆さん硬いごてんまりをなんとかしようとして、指先に渾身の力を込めたり、机に針を押しつけようとしたり(そんなときは机が傷つかないように手帳を下に敷いてあげます)、様々な方法で頑張ろうとします。

わたしも最初のときは硬くて苦労しました。
なにも意地悪でまりを硬くしているわけではなくて、ある程度まりが硬く締まっていないと、糸でかがるのが難しいからです。
刺繍をするとき、円形の刺繍枠を使って、布をピンと張らせますよね。
それと同じで、まりもかがろうとする表面がピンと張った状態でないと大変やりにくいのです。

そんな硬いごてんまりですが、わたしのように非力な女性でもちゃんとできます。
わたしがどのくらい非力かと言うと、高校生のときの体力測定で、ハンドボール投げが一番内側のライン(10m)にも届かなくて、先生に「もっとちゃんとやれ! こえなば測定不能だんが、ごら!」と怒られるくらいでした。
もともと心臓病で喘息もあるし、骨折は四回もしているし、運動制限があるので、まともに走ったことも数えるくらいしかありません。
そんな非力な人間がどうやって硬いごてんまりを相手にしているかというと、自分の力だけではどうにもなりませんから、他の力を利用します。

種明かしすると、てこの原理を使います。
まりって結構数学と物理なんですよね。

ごてんまりの針 7㎝

ごてんまりの針は一番短いサイズでも7㎝と、なかなかの長さがあります。
てこの原理を使ってこの長さを活かすためには、できるだけ手のひらの真ん中近くに針の穴の空いている方を押し当て、指先は固定するためだけに針先をつまみます。
つまり支点を作ります。
あとは手のひら全体の力を使ってグッと押し込みます。

わたしの右手 押し当て

支点、力点、作用点!

わたしの右手 このように縫う

すると、指先だけではなく手のひら全体の力が長い針に加わるので、意外と簡単に硬いまりに針が通ります。
理系の大学を出たという男性に、このてこの原理をお伝えしたことがあります。その男性は「なるほどですね!」と言ってすぐに試して下さったのですが、途端に手先がぶるぶると震えだしてしまいました。
急に強い力がまりに加わったので、まりを抑えている方の手にも力がこもり、しかし針先が思ったところに出ないものだから力が暴走して、ぶるぶるしてしまったらしいです。

このてこの原理を使っても、やっぱり「硬い」と言われることはあります。
そしてこの方法は、針に押し当てている手のひらが痛くなるというマイナスポイントがあります。
わたしはもう慣れてしまって、なんともないんですけどね。
毎日まりを作っているせいで、右手の薬指の下あたりにたこができています。

わたしの右手

拡大したのがこちら。

わたしの右手 アップ

針を押し当てた丸い跡が見えるの、分かるでしょうか?
こんな跡がつくくらい、針を結構な力で押しています。
でも針先をつまんで指の力だけでごてんまりに挑もうとするより、よっぽど楽に針が通ります。
誰に教えてもらったわけでもなく、自然にやっていた方法なのですが、よく見たら「これって、てこの原理じゃん!」と気づきました。

まりの本を読むと、「球体のまりを六つの四角形に分割した場合の云々」や、「ここにできた三角形を使って云々」という、数学的な文章が頻出することに気づきます。
『手まり 幾何模様と手わざ』(※1)という本を読むと、はっきりと数式や数字の羅列が出てきて、数学が苦手のわたしはクラクラしてしまいます。
数学の中でも図形の問題が苦手で、「ココとココを通る線でこの図形を切った場合、切り口はどんな形?」という問題に、「そんなの、実際に切ってみなければ分からない!」と答えているような生徒でした。
しかし、球体という3次元の立体図形を四角や三角などの幾何で切り分けるイメージが出来ないと、まりはうまくできません。
まりは球体に三角や四角の模様を描き出すことで美しいと思わせる技法だからです。

こんなことなら小4のときからもうちょっと図形の問題に慣れておくべきだったなあと思いながら、まりを作っています。
もしかすると、数学と物理に強い人の方がまり製作には向いているのかも知れませんね。

青いまりたち



※1『手まり 幾何模様と手わざ』水田真由美 リーブル出版 2017年

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