三行小説「日々思っていますよ、くそだなあって」

猫がそう言うのを、少年は黙って聞いていた。

すると、少年の顔から何かを察した猫は、慌てた様子でこう付け足す。

「いやね、そりゃあぼくだって、他猫の悪口なんて言いたくありませんよ、でもね、それにしたって今日はもう限界なんですよ、ぼくは、ぼくの立場になればきっとあなただって、そう思うに決まっているんですから、だってね、というか、そもそもぼくはね、基本的には猫の良心というものを信じているし、どんなときでもなるべくなら相手の気分を害さないようにと気を配って生活していますよ、でもね、世の中にはね、そういうのを逆手に取って、相手のどんな些細な振る舞いにだって悪意を持って捻じ曲げて解釈するような性悪な猫というのがいるんですよ、ぼくは知らなかったんです、そりゃあぼくは長いことずっと飼い猫でしたからね、でもね、なんというか、とにかく彼という猫は、悪い意味で完璧主義的で、潔癖症的で、何重にも輪をかけて意地の悪い猫なんですよ、自分にも厳しく他人にも厳しい、そう言うと、なんだか良いことのようにも聞こえますけれど、私なんかからすると、他人に厳しくするためにあえて自分に厳しくしているようにさえ見えると言いますか、なんというか、サディストというのとも違う、こういうとあれですが、とにかく彼は性根が腐っているとしか言いようがない、救いようのない猫なのです、私は彼を見ていてつくづく思いました、ああ、やっぱり、趣味は猫観察ですとかって言う猫にロクなやつはいないなあって、相手のことはどんな些細なことでも拾い上げて悪口ばかり言うくせに、そういう自分自身のことは決して客観的に観察できないんだなあって、きっと彼という猫は悪口を言う自分がどんな醜い顔をしているかなんて想像したこともないんでしょう、傲慢にも、自分だけが例外的に他猫を観察できる立場だと思い込んでいるのです」

こんな風に猫は、巨大な毛玉でも吐くように思いの丈をいっぺんに吐き出した後、しばらく沈黙して、ばつが悪くなったのか、それからチラチラと少年の顔を見やって落ち着かない素ぶりを見せたけれど、結局、その日、少年は最後まで一言も話すことはなかったのでした。