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そのテトリミノはまるでくるおしく身をよじるように落ちる


 これは2日間にわたり、落ち物パズルにムキになった男の闘いの軌跡である…。


1月14日

 その日、おれはSteamのウィンターセールで大量に買い込んだ積みゲーに手をつけようとしていた。

 ゲームの山のなかから今回おれが選んだソフトは、「Tetris® Effect: Connected」だ。


 テトリスと言えばもはやたいていの人には説明もいらないくらいだろうが、上から落ちてくる"テトリミノ"という4マスのブロックをくるくる回転させて並べるパズルゲームだ。
 横一列に隙間なく並べれば、点を得ながらブロックを消すことができる。上まで積み上がってブロックを置けるスペースがなくなってしまうとゲームオーバー。


 特にこのTetris® Effectは、「Rez」や「ルミネス」などの名作を送り出した水口哲也氏率いるエンハンスの作品だ。

 このスタジオは昔からインタラクティブなゲームを作らせればピカイチで、音楽と光がプレイヤーの操作と連動し、爽快な触り心地を実現する。
 今回も気持ちのいい体験を期待できそうだ。きっと日頃の疲れを癒やしてくれるだろうと思い、ゲームを起動する……。



 このときのおれは、この先待ち受ける苦悶と修羅の道など知る由もなかった……。



巡礼が始まる

 本ゲームには、自分でプレイの条件を決めてきままに遊んだり特定の条件を満たすことでクリアになる「エフェクトモード」とオンラインで他のプレイヤーにおジャマブロックを送り合って戦う「マルチプレイヤー」、次々にステージをクリアしていく「ジャーニーモード」がある。
 このジャーニーモードがいわゆるストーリーモードとかキャンペーンとかいうやつであり、ひとりで遊ぶのにうってつけのモードだと言える。

 ジャーニーモードでは、各ステージごとに指定のライン数を消せばクリアとなり、次のステージに進むことができる。プレイ中にテトリミノの落下スピードがだんだん早くなったり遅くなったりしてプレイヤーのクリアを阻んでくるが、じーちゃん家でファミコンの前に座り込みコロブチカを飽きるほど聞いたおれに隙はない。音と光に祝福された楽しい体験が待っているだろう……!



なにやら様子がおかしい

 順調にゲームを進めていったおれだったが、バリ島のケチャをモチーフにしていると思しき7ステージ目あたりからどうも雲行きが怪しくなってきた。



はァッ……早ッ!!!!!!!!!!
!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 フーーーーーーーwwwwwwwウィィィィーーーーーッッwwwwwwwwwwwwwwwじゃないんだよ。オメーがバイブス爆上がりで気持ちよくなっててもおれはブロック積み上がりで一切気持ちよくなってないのだが??????
 もしかしてテトリスって……ワイが思てたんより過酷な世界なのでは……!?!?

 それまでのゆったりとした落下スピードとはうって変わり、瞬時にムダなく積み上げないとどんどんデッドスペースが拡がってあっという間に手詰まりとなる。ついうっかり手癖や操作ミスで開けてしまった空白マスはテトリミノの置き場所を圧迫し、まるで炎上したSNSアカウントへのクソリプのごとくネチネチとしつこくおれを責め続ける…。

 どうやらこのゲームはいい感じにプレイヤーを接待してクリアさせてくれるリラクゼーションゲームでは無い、マジのテトリスらしいということにおれは気づき始めた。
 これがまだ、難易度ノーマルのせいぜい7ステージ目……。完全にテトリスをナメて気を抜いていたおれは、一気にひりついた空気の漂う灼熱テトリスサバイバルに放り込まれるのであった……。


ナメたブロックの積み方してるヤツから詰んでいく

 おれは確かに漫然とプレイしてはいたが、まったくのテトリス初心者ではない。そんなに苦労せず全ステージクリアできるだろうとタカを括っていた。その甘ったれた足元を見事に掬われたという形であろう。

 このまま未来永劫なんか画面下にいる火炎人間がケチャに合わせて踊り狂い崇めたてまつりまくるサイコなステージを眺め続けるわけにもいかないので、テトリスについて能動的に学ぶことにしたのだった。


テトリス修行編

 ただテトリスやってるだけなのにジャンプ漫画みたいな修行パートが入るのは何故なんだ……。



 なにごとにも先達というのはいるもので、おれより先にテトリスの修行をやりはじめた人々の情報がキーワード検索で簡単に手に入る。インターネットは便利だ。

 自分のプレイイングの問題点と照らし合わせ、テクニックを意識して練習していくことにする。エフェクトモードのフリープレイで反復練習をしていこう。さもなければおれは永遠にケチャの牢獄に囚われ続ける。やるか、やられるかだ……。

平積み

 テトリスの基本にしてもっとも重要な技術がこの平積みだ。
 左右どっちかの1列もしくは2〜3列だけをあけておいて極力キレイかつ平たく積んでいき、機を伺いI字型のテトリミノを落としTetris(4列を同時に消すこと)を狙う。

 攻略サイト等の指南によると、凹凸の少ないように……とくに3マス以上の縦穴を作らないようにすべしとある。
 2マスの穴まではL字型ブロックで埋めることができるが、3マス以上になるとI字型ブロックだけをずっと待ち続けることになるからだという。言われてみればそれはそうだな。
 意識してみるといかに自分の積み方が汚かったのかというのがわかる。「どこにあるかはこの状態がいちばん自分がわかってるから…」と一向に片付かないおれの部屋とよく似ている。


掘り

 とはいえ、いくらキレイに積もうとしても隙間を作ることはある。テトリスの先達曰く、リカバリーとして掘りのことを考えておかねばならないのだという。


 たとえば、矢印部分のような隙間があったとしよう。この場合、隙間の上のタテ一列にテトリミノを置いていくとどれだけ頑張って消していってもフタをされて潰せない。よって、隙間を作ってしまった場合、そのやらかしをあとあと埋め合わせようとすると隙間の上のエリアに何も置かないようずっと縛られることになる。テトリスをこの世に生み出した奴らはかなりのサディストだったらしいな。

 つまり、うまい置き方が見つからなくてどうしても隙間を作らなければならないときは、できる限りとっ散らかさずに左とか右とかどこかのエリアにまとめておくのがよい、ということになる。そうしておけば置けずに束縛される縦ラインは少なくて済むというわけだ。


作戦を練る

 エフェクトモードで覚えたことの練習を繰り返し、さらにジャーニーモード対策を考えていく。

 ジャーニーモードでは特定のライン消滅数到達でスピードが早くなってくるので、ステージの後半は頑張っても平積みは難しくなるだろう。そこでこのように計画を立てる。
 はじめはチャッチャと消していき、落下速度が上がる特定のライン数が近づいてきたら平積みで簡単に消せるラインを作り溜める……。このときI字ブロックをひとつキープしておくのが望ましい。2本目のI字がNEXTに見えてきたら一気に消し始める。これで瞬時に8ライン稼ぐことができ、後半のキツい速度上昇を少し楽に走り抜けることができるという算段だ。

 実際に試してみると見事にこの作戦が功を奏した。テトリス修行でおれは以前の何倍も強くなり、ジャーニーモードをどんどん進み、テトリミノのジャングルをマチェーテで切り拓いていった……。


まるでくるおしく 身をよじるように


ホギャギャァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 最終ステージ。本気を出したテトリスエフェクトが牙を剥きおれに襲いかかった……!

 あの……。キレイに積むとかじゃないの。テトリミノが見えるとか、見えないとかそういう次元ですらない。落ちてるの。気が付いたらもう落ちてるの。それをなんとか回転させて時間を稼ぎながら、ねじり込むようにして動かしてるわけ。わかる?

その車は… まるでくるおしく、身をよじるように走るという……

湾岸ミッドナイト(楠みちはる)

 まさか悪魔のZが特別出演するゲームだとは思わんかったよね。その落下スピード、驚異の13に到達。おれの知らんうちに超高速で落ちてくるイカれたテトリミノの全身をよじり、ブロック上を這いまわらせコントロールするレーシングゲームになってたらしいぞ。


>>スタンダードながらも時に刺激的な難易度。

嘘つけェお前!!!!!!!!!!!!

 何がノーマルや。どう考えても異常やろ。自分を平穏で一般的な暮らしをしていると思い込んどるだけの吉良吉影やぞオマエは。


 はい、じゃあみなさん見てくださいここ。LINESのとこね。


いや90じゃないが????????????????


 なんなん????????めっちゃエグいことサラッと言うやん。最終ステージだからといってやって良いことと悪いことがあるやろ。もはやそのライン数は人道に対する罪やぞ。お前それでノーマルを語るのは無理があるで。
 最初はスピード10からなのでまあ……許せなくもないけど……90ラインをぶっ続けで消し続けろはちょっと良くないと思うの。おともだちにそういうことするの良くないと思うな。

 おれは何度も何度もコテンパンにやられ、だんだん気が狂ってきた。もうテトリミノは見たくない……。その晩は夢の中でもテトリスに苦しめられ、アレクセイ・パジトノフを世に生み出したソビエト連邦を呪った。お前らなんかルイセンコ農法でめちゃくちゃになってしまえとも思ったが、そういえば三十年前に崩壊して既にめちゃくちゃになっていたので振り上げた拳の下ろす先が見つからない。

 しかし日曜日の朝を迎えたおれは、ある起死回生の打開策を思いつく……。


重力100倍 悟空式テトリストレーニング

 ふと気づいた。このまま延々とピアノ協奏曲第1番"蠍火"の狂ったノーツのごとくテトリミノを落としてくるステージを触っていてもBADハマりを起こしているだけではないか。ここにいても何も始まらない。

 問題となっているのは、落下スピード13におれが適応できておらず落ち着いて平積みできていないこと。
 つまり、より苛烈な環境に身をおいてトレーニングすれば余裕を持って対応できるようになる……ということではないか?あの孫悟空も重力100倍でトレーニングをしたことで身のこなしが軽くなったのだから間違いない。
 エフェクトモードのエンドレスで条件を設定し、最終ステージより厳しい落下スピード14に固定して練習をするのだ。







 冷静に考えるとものすごく回り道をして自分をいじめているだけな気がするが、気を取り直して練習をする。正気にては大業ならず…。

 もはやテトリミノが見えないとなると、落ちてから考えても間に合わない。べつに回転させる必要がないときでも回転させてある程度考える時間を稼ぐ必要がある。その間にNEXTを確認して落とす場所、向きをイメージしていく…。
 また、回転させながら滑らせるとしてもテトリミノの形状が地形にひっかかるとそこから先には行けない。やむを得ず隙間を作ることもある想定で
、掘りテクニックで巻き返す覚悟もしておくべきだろう。


 もはやテトリスに癒やしを求める疲れた現代人はそこにおらず、コントローラーを握っているのはテトリス修羅であった。


さらばジャーニーモード お前もまさしく強敵だった

 足を冷やして悪夢を見た寝不足が言い出した妄言かと思われた悟空式テトリストレーニングだが、なんと見事にその効果を炸裂させた!


ウオオオオォォォォォーーーーーーーーーーッ!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 びっくりした。そのあと一発クリアだった。スピード14のあとではあくびが出るほど遅い!
 さすがに積み方は汚くなり画面上部まで追い詰められはしたものの、自分のペースで最後まで持っていくことができたと言えよう。

 おれはテトリスとの勝負に打ち勝ち、思っていたより過酷な道のりとなった積みゲー崩しをひとつ成功させたのであった……。

 さらばテトリスエフェクト。お前もまさしく強敵(とも)だった……。







 さて、今回はいい歳した社会人がテトリスにボッコボコにやられてムキになっただけの話を盛りまくった記事だったのであんまり面白くなかったかもしれないが、テトリスエフェクト自体はちゃんと面白いゲームなので安心してほしい。
 ジャーニーモードもノーマルだとかなり苦しいが、ひとつ低い難易度なら楽しく始めることができると思う。本記事もおれがひたすらテトリミノに苦しめられ悶絶して絶叫していた記事ではあったが、「ひとつずつできるようになって壁を乗り越える」という充実したゲーム体験ができたことも確かだ。
 エフェクトモードならよりユルい難易度でひたすらエンドレスに積み続けることもできるし、日々変わるお題モードでスコアを稼いでランク入りを目指すのも一興。マルチプレイで対戦して上を目指すという遊び方もできる。パズルゲームが得意な人も苦手な人も楽しめるので、みなさんにもおすすめしておく。


 もしかして癒やしを目的にしてるくせにエフェクトではなくジャーニーモードに挑んだおれが悪かったのではないか……?という真理に気づきそうになったが、そっと記憶の片隅に積んで触れないでおくことにした。


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