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大衆の中の魔物

「流されない大人になる」
 中学生のとき、これからの目標として私が書いた言葉だ。クラス全員分の目標が廊下に張り出されると、友達は私のそれを見て笑った。大げさすぎる、かっこつけすぎ、などなどたくさんのご感想をいただき、しばらくその件でからかわれたのをよく覚えている。

今考えると、確かに無難に早寝早起きしたいとか書いておけばよかったな…と思い出すたびに顔が熱くなる。今も熱い。
でも私はいたって真剣だった。めちゃくちゃまじめに書いたのに、どうして友達が笑うのか理解できなかった。自分の意見を主張するのが下手くそで、他人に言われた言葉に過剰に影響を受けてしまう自分を変えたかった。周りの目を気にしすぎる自分を変えたかった。自分が自分として、一人の人間としてここに立っていると実感したかった。

中学生ってすごく残酷だ。みんながみんなそうじゃなくても、少なくとも私の中学時代はそうだった。大人ではないけど、でももう子供じゃないんだって主張しようとするみたいに、自分たちの優位性を確かめたくて誰かを執拗に馬鹿にして、そんなんで団結力感じちゃったり、根も葉もないうわさ話や悪口が毎日横行している。

私にとって中学は戦場だった。みんな敵だった。今日は友達、でも明日には牙を向けてくるかもしれないとびくびくしながら生きていた。周りの人間におびえながら、私がとった行動は周りと同じだった。わたしも残酷な生き物の一人だった。仲のいい友達グループでも、その内の誰かがいない時に悪口をいうなんて当たり前だった。言っていたし、言われていたと思う。
  私が周りを気にしすぎていただけなのかもしれない。楽しい思い出だってある。それでも確かに、あの中学生という大衆の中に魔物は潜んでいた。

この間までランドセルを背負っていた彼ら彼女らは中学生になり、これまでと全く違う日々を送る中で思春期という不安定な時期を迎える。心と体のバランスが取れずに生まれてしまうゆがみ。学校という箱の中に、たくさんのゆがみたちが押し込められる。ゆがみは共鳴しあって、魔物を生み出したんじゃないか。個々の性格が人間を残酷にさせたのでなく、立場が、状況がそうさせたんじゃないか。

怖かったのは、おびえていたのはきっとわたしだけじゃなかった。きっとみんな不安や恐怖を抱えて生きていた。魔物は、泣いていたのかもしれない。


大衆にひそむ魔物が怖くて、その魔物に取りつかれて汚い言葉しか吐けない自分がとてつもなく嫌で、変わりたかったわたし。大衆の中でも、揺るぐことのない自分自身を見つけたかったわたし。あれからいくつもの季節がめぐった。今度魔物が現れた時、わたしはどんな行動をとるんだろうか。

ねえ、そのときはきっと人から見た自分より、自分のなりたい自分を守りたいよ。恥ずかしくてもかっこつけてるように見えても大げさでも、やっぱりわたしは、流されない大人になりたいよ。そう言ったら、あの日笑った友達はまた笑うだろうか。

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