恋でも愛でもなかった

彼の部屋で、セガサターンをしていたような気がする。
とにかく、彼は「彼女がセックスさせてくれない」私は「彼氏が奥手すぎる」とぼやいて、二人でため息をついていた。

中学の終わりごろ、一時は「恋になるかもしれない」くらい私が気に入っていたその彼には、常に私以外の好きな人がいた。私は私で中2のときの失恋を引きずり続けており、彼にもよく話を聞いてもらっていたので、彼は自分が「次の恋」の芽になってるなんて思ってなかったのだろうと思う。とにかく、毎日毎日いっぱいしゃべった。楽しかった。

「仲のいい友達」のまま中学を卒業し、高校は離れ、連絡もとらないまま一年くらい過ぎた。ポケベルもPHSもまだ中高生には少し手が届かないあたりの時代の話なので、家の電話くらいしか連絡手段そのものがなかった。

あれは多分高1の年明けだっただろうか。たまたま彼の家の近くで会ったんだっけ。わざわざ電話したり待合わせしたりした覚えもないから、偶然会ったのかな。
公園で近況報告しあったら、お互いに彼氏/彼女ができており、同じような悩みまで抱えていることがわかってしまった。
「関係を進展させたいのに、相手が進もうとしない」

「その気持ちわかる!」
と大いに盛り上がり、勢いで
「うちくる?」
みたいに誘われて、私はホイホイついていった。

密室で、まさに「やりたい盛り」の欲求不満な男女一組。
自然とお互いに触れる流れになり、ベッドに転がり、
かなりいいムードで彼の体重と体温を感じてから

「でもやっぱり、彼氏とまだしてないことはやめとく」

って私がむくりと起きた。
彼は残念そうだったけど、私は
「はやく彼女とできるといいね」
と言って、そのあとは普通に見送ってもらって帰った。

彼氏とは全然違う厚い胸板が、なんとなく、なんとなく苦手になった。彼にはなんにも非はなくて、ただただ私が勝手に苦手になった。

私はそのときの彼氏とは、結局あまり進展のないままお別れをした。
彼は大学あたりで私の親友とセックスする機会に恵まれたけど
「俺はセックスうまいぜ、というけど別にうまくなかった」
という辛辣な評価を聞いてしまい、
「あの時点での彼は、まだ自信過剰でもなかったはずなのに…時の流れよ…」
と私は少しさみしくなった。

優しい彼女からセックス中に
「きもちいい」
って言われてたんだと思えば、それはそれで彼は幸せに過ごしていたのかもしれない。
(けどやはり後続のセックス相手のためにも下手な彼氏には正直に「それは気持ちよくない」などのフィードバックをしてレベルをあげる方に誘導すべきだとは思うが長くなるから割愛)

数年前にふと彼を思い出してFacebookで検索をした。
結婚して子どももいるみたいだった。
お元気そうでなにより、と思った。

私は相変わらず筋肉のついた厚い胸板をどこかしら敬遠している。