雨の日のぷかぷかぷう

 ぼくの長靴はあおいろ。傘はきみどりいろ。レインコートはきいろ。保育園のときはあおいろだったけど、小学校はきいろなんだって。ぼくはあおいろがいいと思う。ねえちゃんはちゃいろのレインブーツを履いて、まわりにフリルのついたピンクの傘。二人でいってきますって言って、玄関を開けたら、みきちゃんが踊ってた。とうめいの傘をくるくる回しながら、みきちゃんも片足でクルッってした。ねえちゃんは走ってみきちゃんのいる納屋の前まで行くと、ピンクの傘を広げた。傘でみきちゃんが見えなくなったから、ぼくも納屋まで行った。みきちゃんは歌っていた。歌いながら踊っていた。
 「ぷーかぷかぷーぅ ぷーかぷかぷー ららららら」
 傘を上にグイってあげて、片足で立って、もう一本の足を後ろのほうにグッてした。ぼくはバレリーナみたいだと思った。みきちゃんは傘を上にあげたり下にしたり、まわしたりした。足はケンケンしたり、横に動いたり、くるーってしたりした。中学校の制服のプリーツスカートがひらぁってなるのがいいと思った。みきちゃんは、歌と踊りが終わると、ぼくとねえちゃんにおじぎした。
 「『晴れの日はプカプカプー』でした」
 「みきちゃん、もっかいやって」ってねえちゃんが言った。ねえちゃんはみきちゃんが大好き。
 「もう学校行かなきゃね。一緒に歌いながら行こっか」
 「いいよ!あたしもう覚えた!こうでしょ?ぷーかぷかぷー。ね?」
 「すごい!もう歌えるじゃん!ぷーかぷかぷーららららら」
 ねえちゃんとみきちゃんは一緒に歌いながら、庭と畑の間の道を歩いた。ぼくはあおいろの長靴でついていく。土をぎゅっと踏むと、じゅって水が出てくるんだ。ぎゅってして歩いてたら、「こうくん、おいで、学校行こう」ってみきちゃんに言われた。ぼくは家を出るまでぎゅってして歩きたいと思った。
 「じゅーって水なるの、全部やりたい」
 「またぁ?雨降るといっつもやるじゃん。早く行こうよ」
 ねえちゃんはちょっと怒った。でもぼくはいまやりたいんだ。
 「いいよ、こうくん、じゅーってしながらおいで。そのかわり、家出たらちょっと走るからね。さおちゃん、こうくん来るまで歌ってようよ」
 みきちゃんとねえちゃんは、「ぷーかぷかぷーぅ」と歌った。ぼくは長靴をぎゅーってして、おうどいろの水がじゅわーってなるのを見た。反対の足をまたぎゅーってすると、長靴のまわりにまたじゅーってたまっていく。
 長靴がおぼれちゃうぞ!
 長靴を助けるんだ!
 反対の長靴しゅつどうせよ!
 がいーん!
 反対の長靴がやって来た!
 がんばれ、反対の長靴!
 ああ!
 反対の長靴もおぼれるぞ!
 もともと長靴助けてくれ!
 がしゃーん!
 もともと長靴とうじょうだ!
 おれはよみがえったぞ!
 あああ!
 でももうおぼれそうだ!
 反対長靴おうえんようせい!
 びーびーびー!
 おうえんようせい!
 びーびーびー!
 あれ、みきちゃんはさっき「晴れの日はぷかぷかぷー」って言った。今日は雨が降ってるのにへんなの。ぼくはきゅうに気になって、早足でみきちゃんとねえちゃんのいる門のところまで行った。
 「あ、こうくん来た。もういいの?」
 「雨の日なのに晴れの日の歌なの?」 
 「うーん」
 みきちゃんはちょっとの間考えた。
 「なんかね、晴れの日よりも雨の日に歌いたくなるの。プカプカーって傘が雨の海に浮かんでるみたいなかんじ?晴れの空より雨のほうが浮かんでられるんじゃないかなって、思うんだよね」
 「長靴は水たまりにプカプカする?」
 「うーん、難しいね。長靴だけじゃバランスがとれないかも」
 ぼくはうれしかった。ぼくが長靴を履いて、水たまりにプカプカさせてあげたい。
 「ちょっとぉー。何やってんのー。学校遅れるよー」ってみきちゃんのおばさんが、みきちゃんのうちの窓から言った。みきちゃんが「はーい」っておばさんに言って、「さおちゃん、こうくん、走るよ!」って笑った。ねえちゃんは「ぷかぷかぷー」って言いながら走った。ぼくは傘を両手で持って、とことこ走った。長靴を履いていると、そういうふうにしか走れない。がんばれ、もともと長靴、反対長靴!





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