【世阿弥編 風姿華傳 第一 年来稽古条々】

七 歳
 まず、この芸においては、だいたい七歳ごろから稽古を始めること。この年頃の能楽の稽古では、必ずその者が自然に振る舞うことのなかに、その者に合った芸の良さがあらわれるはずである。
 舞や動きの間、音曲との合わせ方など、つい怒ってしまうことなどもあるだろうが、やりたいように、心のままにやらせる方が良い。
 あまり善いとか悪いとか言うべきではない。あまりにきつく叱れば、子どものことだからすぐにやる気が失せてしまい、能を嫌いになってしまっては、やがて成長が止まってしまうだろう。そして音曲や体の動き、舞以外のことはやらせてはならない。たとえ物真似をやりたがったとしても、教えるべきではない。
 また、大勢の前で舞うような大きな舞台でワキ方に立たせるようなことをしてはならない。三番目や四番目など、頃合いの良いころに、その者に合った風体の芸をさせるべきである。


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七 歳
 一、この芸において、大方七歳をもて初めとす。このころの能の稽古、かならずその者しぜんといたすことに得たる風体あるべし。舞・はたらきの間、音曲、もしは、怒れることなどにてもあれ、ふとしいださんかかりを、うちまかせて心のままにせさすべし。さのみに、善き悪しきとは、教ふべからず。あまりにいたく諫むれば、童は気を失いて、能ものぐさくなりたちぬれば、やがて能はとまるなり。ただ、音曲・はたらき・舞などならではせさすべからず。さのみのものまねはたといすべくとも、教ふまじきなり。大場などの脇の申楽には立つべからず。三番・四番の、時分のよからんずるに、得たらん風体をせさすべし。