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【セカコの世界史2024】 4-2 エジプト文明

 

ナイル川が育む文明


ナイル川の中下流域では、前4千年紀末に(1)エジプト文明が成立しました。

ナイル川は、ヴィクトリア湖に発する本流の(2)白ナイルと、エチオピア高原から発する(3)青ナイルがスーダンで合流し、下流で定期的な氾濫をひきおこします。

この合流地点にはスーダンの都市ハルツームがあります。近現代史まで進むと登場するので覚えておいてください。19世紀に英国がスーダンを制圧しようとして、現地のイスラーム勢力であるマフディー派と激闘を繰り広げる場所です。

中国の太平天国との戦いでも活躍した英国の名将ゴードンが、ハルツームの地で命を落とします。後日、学びましょう。

青ナイルと白ナイルという二本の大きな川と、その他の無数の支流から水を集めて流れるナイル川ですので、下流に位置するエジプトでは春から夏にかけて、水位が最大で十メートル前後上昇します。
校舎の三階から四階くらいの高さまで水が上がる計算になりますね。

――――セカニャン「古代人は、よくそんなところに住もうと思ったニャ」

水は四か月ほどで引きます。そして水が引いたあとには、上流から流れてきた肥沃な土が堆積し、肥沃な土壌が残されました。毎年、自然がかんがいをして肥料をまいてくれるわけですね。

――――セカニャン「それにしても、10メートルも水位が上がるような洪水が、いつ来るかわからないようなところに住みたくないニャ」

そうですね。でも、洪水は、予測ができたんですね。

――――セカニャン「ニャンと」

――――セカコ「雪解け水が水源ってことは、水量が増える時期は決まっていそうですね」

その通りです。

古代エジプトの人びとは増水を予測し、水位が下がったのち、肥沃な土が残された川底で麦などを栽培しました。

エジプトで数学が発達したのには、こうした理由がありました。

――――セカコ「毎年、水がひいた農地を測量しないといけない。どこが、誰の農かわからなくなっちゃう」

そうですね。

そこで、水がひいたあとに農地をもとの通りに区画するため、(4)測地術が発達したんです。
暦も発達しました。それも他の地域にはない、独特な暦です。
メソポタミアは何暦でしたっけ。

――――セカコ「太陰暦です」

そうですね。

実は、古代の世界では、新大陸のマヤ文明など一部の例外を除いて、多くの地域で太陰暦が主流でした。日本は19世紀まで、中国は20世紀まで、太陰暦を使っていました。
ところが、エジプトは違います。

――――セカコ「太陽暦です。中学校で習いました」

そうなんですよ。アフロユーラシアでは、エジプトだけがはじめから太陽暦です。

――――セカニャン「何か理由がありそうだニャ」

 ――――セカコ「わかった!ナイル川だ。だって、川が増水するのは、365日に1回のはずだもの。数えていけば、太陽暦になります!」

ご明察です。

エジプト人は、はじめシリウスが登ると氾濫が起こることを知ったようです。ほどなく、ナイルの氾濫と太陽の運行の相関を知った。こうして、一年を365日とする(5)太陽暦がエジプトで生まれました。

――――セカイシシ「増水時期を正確に知りたかった彼らは、365.2425・・・という高い精度で暦をつくろうとし、そのために天文学を発達させたのじゃ」

――――セカコ「ってことは、ナイル川がエジプト文明を育んだようなものじゃないですか」

いいこと言いましたね。
でも、それはもう2500年も前に、同じことを言った人がいます。
紀元前5世紀に、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスが、著書『歴史』で「エジプトは(6)ナイルの賜物」という言葉を書き残しています。

――――セカニャン「タマモノって何かニャ」

 Egypt is a gift of Nile
 賜物はギフト、つまりナイル川の贈り物ってことですね。

――――セカコ「エジプト文明はナイル川の贈り物、ヘロドトスに先を越されました。エジプトはナイルの賜物とは、エジプト文明の特徴をよく言い表していますね」

次は文字の話です。

エジプト文明では、メソポタミアと並んで、はやくから文字が使われました。エジプトの文字は(7)ヒエログリフ(神聖文字)と呼ばれます。ヒエログリフは、ものの形をそのまま書き取った象形文字で、石碑などに刻まれました。

――――セカイシ「楔形文字に比べて、一文字一文字を書くのに時間がかかったため、時代が下ると字体が簡略化されていった。パピルスという一種の紙に文字を書くようになると、神官たちがヒエログリフを簡略化し筆記体としてもちいるようになった。簡略化された文字を(8)ヒエラティック(神官文字)という。

さらに時代が下るとさらに簡便な(9)デモティック(民衆文字)へと発展しました。

古代エジプトの文字の解読については、有名な逸話があります。

――――セカコ「知っています。ナポレオンのエジプト遠征のさいに発見された(10)ロゼッタ=ストーンですよね。確か、上段にヒエログリフ、中段にデモティック、下段にギリシア文字が記されていたんです。これを手がかりに、19世紀前半にフランスの(11)シャンポリオンがヒエログリフの解読に成功しました。中学校の歴史で習いました。

そうですね。ナポレオンのエジプト遠征のさいにロゼッタ=ストーンが発見されたお話はとても有名です。みなさんも覚えておきましょう。


都市国家の成立と統合


新石器時代の終わりごろに、ナイル沿いに成立した集落は、やがて(12)ノモスとよばれる都市国家に発展しました。集落が都市国家になったくだりは、メソポタミアと同じですね。

ナイル川中流域の上エジプトに約20、ナイル川下流ナイルデルタにあたる下エジプトに約20のノモスが成立したといいます。合わせて40ほどあったわけですね。

ところが、ここからメソポタミアと異なった展開をみせます。

都市国家はやがて上エジプトと下エジプトに統一され、前3千年紀はじめ、上エジプトのメネス王(あるいはナルメル王)が上下エジプトを統一し、全エジプトを統一しました。

エジプトの王は(13)ファラオとよばれ、神の化身とされました。これは、もとは「大きな家」という意味だったようです。
エジプトの政治史

エジプト文明と一言で言いますが、約3000年続いています。これは紀元後になってから私たちの時代までの長さの1.5倍に相当します。

――――セカニャン「日本やヨーロッパの歴史と比べると、ものすごい長さだニャ」

そんなエジプトの歴史を、まとめてくれた歴史家というか、神官がいました。前3世紀に、ギリシア人のプトレマイオス朝のもとで、神官のマネトという人が古代エジプトの王朝を第1王朝から第31王朝まで分類したんです。

ここでは、マネトの分類に基づいて、古代エジプト三千年の歴史をざっくりとまとめておきましょう。

前30世紀から前27世紀にかけて、初期王朝が栄えました。先ほどのメネス王の王朝が第1王朝、続いて第二王朝です。

そして、前27世紀から22世紀にかけて、上エジプトと下エジプトの結節点にあたる(14)メンフィスとを都とした第3王朝から第6王朝の時代を(15)古王国時代といい、ピラミッドがさかんに造営されたのはこの時期です。

第7王朝から第10王朝までの第一中間期をへたのち、前21世紀から18世紀にかけて栄えた第11から第12王朝の時代を(16)中王国時代いいます。教育が広まり文学作品も多く作られました。この頃から、都が上エジプトの(17)テーベ(ルクソール付近)に移ります。

中王国が衰退すると、次の新王国までの間が、第二中間期です。
この時期には外来民族ヒクソスが侵入し、その支配を受けました。第15王朝と第16王朝がヒクソスの王朝です。ヒクソスは当時最強の兵器だった馬にひかせた二輪戦車を使っていたのですが、これは別の機会に学びます。

こののち前16世紀から前11世紀まで栄えた第18王朝から第20王朝の時代を(18)新王国といいます。馬にひかせた二輪戦車を取り入れて、強力な軍事力をもつようになった新王国は、積極的な外征でシリアまで領土を広げ、(19)トトメス3世のときに領土が最大になりました。

都は中王国時代と同じ、上エジプトの(20)テーベにおかれました。
新王国の衰退後が第三中間期です。第21王朝から第25王朝をいいます。
このうち第25王朝は、ヌビア(今のスーダン)の(21)クシュ王国が北上して建てた王朝です。これは短命に終わり、アッシリア帝国に征服され、ヌビアに退きました。

第26王朝は、(22)サイス王朝と呼ばれ、サイスを都とした。サイスは、アッシリア帝国の支配下でエジプト統治を任されていたが、アッシリアの弱体化に乗じて独立し、並び立つ四王国のひとつとなった。
第27王朝は、アケメネス朝をさします。第28王朝、第29王朝、第30王朝は、アケメネス朝からの独立をめざした政権で、いずれも短命でした。第31王朝は再びアケメネス朝をさし、アレクサンドロス大王に征服されました。


古王国とピラミッド建設


古代エジプトを代表する建築物といえば何でしょうか。

――――セカコ「ピラミッドです。それから、スフィンクスです」

そうですね。

ピラミッドやスフィンクスは、いずれも古王国時代に建造されています。

エジプトを代表する記念碑的公共建築物ピラミッドが各地に建設されたのも、多くが古王国の時代ですし、スフィンクスも同じ時期に建造されたと考えられています。

――――セカコ「エジプト文明のすべての時期に造られていたわけじゃないんですね」

そうですね。古王国の都メンフィスの近郊に位置する(23)ギザには、クフ・カフラー・メンカウラーの三大ピラミッドや人頭獣身の巨獣(24)スフィンクスの石像が現存しています。

スフィンクスはライオンの像ですから、セカイシシさんに教えてもらいましょうか。セカイシシさん、スフィンクスについて教えてください。

――――セカイシシ「スフィンクスについて語って聞かせよう。

スフィンクスは、ライオンの体に人間の顔を持つ、想像上の動物をかたどった像だ。最大のものはギザのスフィンクスで、全長73.5m、全高20m、全幅19mの巨大な像を、ひとつの大きな岩から掘り出したものだ。

ギザのスフィンクスは、紀元前2500年ごろ、第四王朝のカフラー王によって作られたと考えられておる。カフラー王のピラミッドからスフィンクスまでまっすぐに参道が伸びており、一体として設計されていることや、スフィンクスの周辺から第四王朝時代の遺物が発掘されることがその根拠だ。しかし、建設時期については異説もある。

現在では岩肌がむき出しになっておるが、建造当時のスフィンクスは、彩色されていたと考えられておる。

スフィンクスの保存状態が比較的良いのは、数千年の歴史を通じて、砂に埋もれていたからだ。例えば、新王国時代、第18王朝のトトメス4世のときに、砂に埋もれていた大スフィンクスは掘り起こされたことが碑文に残っておる。

1798年に行なわれたナポレオンのエジプト遠征の際には、大スフィンクスの首から下は砂に埋もれていた。

このように、スフィンクスは土や砂に埋もれながら、4000年以上の時を生きぬいてきたのじゃな」

セカイシシさん、ありがとうございました。スフィンクスのことがよく分かりました。

―――――セカコ「スフィンクスが、長い間土の中に埋まっていた話は初めて知りました。何千年も、土の中に埋まっているって、どんな気持ちなんだろう。なんだか面白いですね。

世界史の学習を進めていくと、スフィンクスというあだ名の人物が出てくるんですが、ご存じですか。

―――――セカコ「確か、フランスのナポレオン3世です」

そうですね。ナポレオン3世はスフィンクスというあだ名でした。ナポレオン3世については、近代史であらためて学習しましょう。

ピラミッドのうち、最大のものは何か知っていますか。

――――セカコ「(25)クフ王のピラミッドです」
 
そうですね。第4王朝のファラオ(25)クフ王のピラミッドは最大の規模を誇ります。完成時の高さは146m(現在は138m)、底辺は約230m、勾配は約51.5度です。

――――セカコ「こんな大きなものを、当時の技術で、誰がどうやって作ったんでしょうか」
 
前に紹介した古代ギリシアの歴史家ヘロドトスが、著書『歴史』に、ピラミッドについて記しています。

――――セカコ「ナイルの賜物、の人ですね」

ヘロドトスは、ピラミッドは奴隷が建設した王の墓であると記しています。そこで、この説が定説とされてきたのですが、この説には多くの疑念があるんです。

そもそも、大ピラミッドの建設が紀元前25世紀で、へロドトスが『歴史』を著したのが紀元前五世紀です。ヘロドトスはピラミッドが建設されてから2000年もあとの人なんですね。だから、正確な情報なのかわからないのです。

――――セカコ「2000年も前のことを書いたんですか。私たちがイエス・キリストやローマ帝国について書くようなものですね」

 そうですね。奴隷が建設したという説は、建設現場の発掘結果から否定されました。労働者が酔っ払って休暇を取ったりした記録が残っていたんです。そこで、ナイル氾濫期の公共事業として自由な労働者の手で建設されたとする説が有力となってきました。

建設方法についても、分からない点が多いままです。

特に、一番高いところまで、どうやって石を積み上げたのか、大きな謎とされています。

――――セカコ「坂道をつくって、石を引っ張っているイラストを見たことがあります」

そうですね。傾斜路説というんですが、ピラミッドをつくるために仮設の傾斜路をつくったという説です。でも、定説とまではみなされていません。

――――セカコ「どうしてですか」

ピラミッドそのものを建設するより、傾斜路を建設する方が大変なんですよ。ピラミッドの頂上に石を上げるには、数百メートルの傾斜路が必要とされています。

直線傾斜路説、ジグザグ傾斜路説、螺旋傾斜路説などがあります。

直線傾斜路説は、先ほどセカコさんが話していたイラストのものですね。ピラミッドにむけてまっすぐに傾斜路をつくります。

ジグザグ傾斜路説はピラミッドのある一面にジグザグに上がる傾斜路を作る方法です。

螺旋傾斜路説はピラミッドにらせん状に傾斜路を巻き付ける方法で、ピラミッド内部にも傾斜路が続いていたと考える学者もいます。

ピラミッドの建造方法については、ここでは結論は出ませんから、とりあえず置いておいて、先に進みましょう。詳しく知りたい人は各自で調べてみてください。
重要語句まとめ

――――セカコ「この節で学んだ重要語句をまとめておきましょう。

1 エジプト文明 
2 白ナイル
3 青ナイル
4 測地術
5 太陽暦
6 ナイルの賜物(たまもの)
7 神聖文字(ヒエログリフ)
8 神官文字(ヒエラティック)
9 民衆文字(デモティック)
10 ロゼッタ=ストーン
11 シャンポリオン 
12 ノモス
13 ファラオ
14 メンフィス
15 古王国
16 中王国
17 テーベ
18 新王国
19 テーベ 
20 トトメス3世
21 クシュ王国
22 サイス王朝
23 ギザ
24 スフィンクス
25 クフ王

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