化粧品

化粧品とその謎。

もう十年以上前、女性雑誌の出版部で働いていた。ただのアルバイトだったけど、編集も少しやっていて、そこでは占いについて書いたり、占い師さんとやりとりしていた。

その占いでもいろいろな話があるのだけれど、僕はどうもファッション誌のバイブスがあわずに、結局雑誌がなくなって仕事を辞めてしまった。

先日、その話をしたら「女性向けの事、なんか書いてくださいよ」とたまに仕事をまわしてくれるFさんから連絡を受けた。打ち合わせというほどでもない駄弁りをしていろいろ聞いたけれど、僕はもう今のトレンドがよく分からない。量産型女子について書いて欲しかったらしいけれど、もう量産型の時代でもないだろう。その時はだべっただけで終わってしまった。

そこで思い出したのが、化粧品だ。

ファッション誌をぺらぺらめくっても、男性がまったく頭に入ってこないコンテンツに、「化粧品」についての記事がある

化粧品にはいくつかのTYPEがある。ターゲットとする年齢、人種(生々しくその要素はある)、性別、肌型などきめ細かく設定された無数のパラメータや素材の中から、それぞれの製品を作り上げていく。

たまーに化粧品会社の人が挨拶にやってきて、新製品の説明を担当のおねえさんにめちゃくちゃ熱心に話しているのだけれど、結局なにがなんだかわからなかった。

そう。化粧品は何がなんだかわからないのである。いや、まだ化粧品は分かる。メイクをしてキレイになりたい、そういう要求を叶えるためにある。

でも、化粧水とかいわゆる「基礎化粧品」となると、もう男子には門前払いの風景だ。絶妙かつバランスを考えて創られた化粧品の広告はおおむね同じような「すきとおった、健康的な肌」を作り上げる必須のアイテムとして表現される。モデルは年齢や顔の感じが違うけれど、表現されるその型はほぼ一体だ。

ちなみに「基礎化粧品」をググるとウィキペディアでこんな説明が書かれている。

基礎化粧品(きそけしょうひん)とは、ファンデーション、口紅、眉墨、アイシャドーといった、メーキャップ化粧品と呼ばれるものに対して、洗顔料(洗顔用化粧品)、化粧水、美容液、乳液、クリームといった皮膚を健やかに保ち肌質自体を整えることを目的とする化粧品を指す語[1]。皮膚用化粧品ともいう[2]。スキンケアプロダクツ(Skin care products)とも呼ばれる。

もうこの段階で男子はお手上げだ。

けれども、女性にとってはその微妙な差異の中で自分にあったものが見つけられるかどうかは命がけの選択だったらしかった

化粧品についての広告や記事や使用感についてのレビューはファッションそのものを覆い隠すほどに溢れかえっている。そこには矛盾した形容も乱舞していた。「サラサラしていながらもちもちした肌をつくる」とか「ベタつかない高保湿性を実現」とか「油肌にも使えてしっかり持続する保湿感」とか。

コーセーとシセイドーの違いもよくわからない僕は、出版社に大量に送りつけられてくる試供品の洪水を見ながら「これって違いあるんですかね」とぼそっとつぶやいたことがあった。

その時、一緒にバイトをしていた女の子が信じられないほどまじめな表情で「全部違うんです。全部。全部。」といっていた。

その子はもしかしたら、自分に合う化粧品がないって思っていたのかもしれないな、と思い返していた。男性にとって基礎化粧品の違いがもつ意味を知る事はとても難しいことなのだ。

でも、僕は理想の化粧品を探し出そうとする女の子にエールを送れるように、なりたかったなぁ。



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