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もう何をみてもベッキーの事しか考えられない。そんなときに映画『夏の終り』を見るべきという話

 映画『夏の終わり』は以前、『みれん』というタイトルで映画化されたこともあったのだが、2013年に満島ひかりの主演で再度の映画化とあいなった。原作は瀬戸内寂聴(瀬戸内晴美)。時は昭和の中ごろ、まだ木製の電信柱がたくさんあって、和服と洋服を両方とも着ていた時代。

そして「文学者」がまだ尊敬される職業だったころだ。

寂聴が「原作に最も近くて作者としてはうれしい」といったようなコメントを寄せているのだけれど、実際に比較してみると実は全然似ていない。そもそも小説の『夏の終わり』は表題作を含む短編小説集である。

台詞回しなんかは同一のものを使っているのだけれど、比べてみると真逆の印象すら受けるかもしれない。

理由は単純。

満島ひかりがエロすぎるからだ。

満島ひかりは1985年生まれの女優であり、名前を知っている人も多いと思う。本作で、第68回日本放送映画藝術大賞映画部門の優秀主演女優賞を取った、実力派なんていわれるぐらい個性のないタイプのきれいな美人の女優さんである。個性がない、というのは悪い意味ではなくて、いろいろなカラーに染まりながら隙のない演技をするタイプの、ある意味では典型的な「女優」さんだという気持ち。そこを読みとってほしい。

『夏の終わり』を要約すると、前夫を娘ごと捨てた女と、妻がいる文学者による不倫があり、さらに若い男が混ざってくるという三連不倫劇である。映画の煽りは実に過激な不倫感を出しているけれど、映画をみるとそうした愛欲の激しさ、エロティシズム、みたいなところはほとんどリップサービスの域をでない。

ここで描かれるのはいわゆる普通の「不倫」をしているが為に盛り上がってしまう男性と、その盛り上がりについていけない女性の静かな葛藤だ。時系列が複雑なので一度見ただけではちゃんと理解できない所もあるけれど、とにかく不倫劇である。細かいことはどうでもいい。

印象的な激しいシーンはいくつもある。突然白い着物で押しかけるシーンとか、一緒に死んでくれといきなりおっさんが頼むシーンとか、なかなか滑稽な感じと恋愛に振り回されてわけがわからなくなってしまう感じの両方が叙情的に描けていて、僕はけっこう好きだ。

でももっと印象に残るのは、たとえばかつての恋人だった男と背中合わせでたばこを吸うシーンだったり、清純できれいな女性が、なんとも言えない物欲しそうな表情で窓の外眺めているシーンだったり、静謐な場面、盛り上がりが笑いに変わってしまうような、穏やかな時間の流れ方を感じる場面こそ神髄がある

それは、いくどか使われる極端なスローモーションに象徴されるこの監督ならではのテクニックだろう。現代の映画監督にはとにかく、というか最近のはやりの映画はやたらと「速さ」が求められるけれど、小津安二郎や大島渚の映画のような、風景だけが物語になるような、そういう感性に近いものがここにはある。

で、ベッキーは関係ないけどベッキーである。

でも今の僕は何を見てもベッキーにこれをみせてあげたい、としか思えない精神状態であった。もちろん件の事件にはゲスの極み乙女のほうも絡むので、というか不倫は常に男と女の関係なのでそちらは無視するわけにはいかないが無視をする。

しかもよく考えてみたら僕はベッキーとまったく無関係である。

だがそれも無視する。

それでベッキーである。僕はベッキーが死ぬほど好きだ。「元気の押し売り」だっけ? そう名づけられるほどの明るく朗らかなキャラクターが売りの女性が、心に抱えた深い感情を押し隠しながら、そして苛烈な世間の非難に耐えながら「センテンススプリング!」なんていう面白くもなんともない冗談を飛ばして相手を励まそうとしている姿はそれこそ演劇的でドラマティックだと思う。思わないなら君はもうあれだ。

もちろん不倫はいけないことだ。小田嶋氏もいったように被害者がいる。裏切られた人がいる。でも、いけないことに足をつっこみ頭からおぼれなければならない時がある、そういう女性もいた、というわけだ。

そうだ。

瀬戸内寂聴が通ってきた道をまたベッキーも通ろうとしている。その道の困難と苦しみ、そして社会の「ゆるさなさ」を思い浮かべるたびに、僕はいばらの道を素足であるく試練を思うのだった。

もちろんそれは試練ではなく罰であり、罪である。

罪だからこそ、しかし美しいと思ってしまう男もまたここにいるのだった。

つまりベッキーが満島ひかりであったら……これはまた違った映画だったのだろいうということをどうしても思わずには居られないのである。全然論理的ではないが、これは瀬戸内寂聴ではなくベッキーの映画であるべきなのだ!

何言ってんだこいつ……?

人はそう思うだろう。note読んでるみんなはそう思っただろう。

でもベッキーは応援したい……。その苦渋の葛藤がこの『夏の終わり』には描かれているのです!


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