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保湿において最強だった。
フィンランドのきこりの強さを知っているだろうか?
僕は知らない。
知らないが、フィンランドのキコリは圧倒的に強いのだ、と何年か前の、駅前イオンの寂れた化粧品売り場の巨大な広告は訴えていた。それは保湿化粧品の広告であった、と記憶する。
記憶があいまいなのは、その広告がたしか、どうみても「化粧品」なり「スキンケア商品」なりを想起させる作りになっておらず、極寒に極寒を重ねたような雪まみれの林に、赤いチェック柄のワイシャツを身につけたワイルドなキコリがものすごい勢いで斧を木にたたきつけている写真が、ドカンと映っていたからだ。
極寒の大地フィンランドでは氷点下になる日も多く、大気は常に乾燥している。そのような過酷な環境で働くキコリたち(もちろん男)にとって、保湿は欠かせない。そんなキコリたちに愛される最強の保湿化粧品がこれ!
以上は全て想像による売り文句を捏造したものだが、こんな具合のコピーと共に、クリームとジェルが売られていた。ちょこっとさわった感じではタイガーバームをさらに粘度をあげたような感じで、肌触りは悪くなく、たしかに保湿には効きそうだという印象を受けた。
しかし、それよりもキコリである。フィンランドで働くキコリが愛用する保湿クリームという売り文句である。たしかに僕は、それは保湿においてまさしく最強の名前を与えられるにふさわしいだろうと思った。
思ったが、全然売れなかったらしく、二週間ほどで姿を消してしまったのだった。
それからまた数年たって現在、唐突にそのフィンランドのキコリのことを思い出し、保湿に人一番精を出しているという女性陣にそのクリームの話を聞いてまわった。だが、誰一人としてそんなクリームは見たことがないという。
僕の勘違いかもしれないとおもって「キコリ 保湿」とか「フィンランド 最強 クリーム」などで検索をかけるが見つからない。見つかるのはガチのキコリと謎のエロ画像である。
女性陣にそんなクリームがあったんだよ。という話をすると、真偽を問うこともなく「でも私たちキコリになりたいわけじゃないしね」とさらっと言われた。
ショックだった。
ものすごくショックを受けた。
なぜなら、保湿化粧品というのは「保湿」の為にあり、保湿のためならば、彼女たちは手段も商品も選ばないはずだと思っていたからだ。
保湿において最強が約束されるキコリのクリームを、彼女たちは笑って採用するだろうと思っていた。
でも、キコリ保湿クリームを使ったものは、キコリになってしまうのだった。
キコリになるぐらいなら、保湿なんてどうでもいいのだ。いや、キコリにならずに保湿を約束してくれる商品は、星の数ほどあったのだ。
その化粧品が実在したかどうか、いまではようとしてしれない。
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