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チャーハン神 炒漢③

 一ヶ月前の出来ことだ。閉店ギリギリの時間、店長以外のスタッフは皆帰ってから、高校生らしい少女が店に入って半チャーハンを頼んだ。

「このチャーハンおいしい!おじさんすごいね!」

「ハッハ、わかります?秘訣は自然派やら健康志向やら気にせず油と味覇を使うことですよ」

 少女に褒められた店長がいい気になった。しかもまるで思春期男子が妄想したを理想のガールフレンドそのまま具現化したような可愛らしい黒髪ロングヘアの美少女だ。シャツとスカートの上でもわかる豊満なバストとヒップ、にも関わらずくびれた蠱惑的なウェスト。店長はさっきセクハラで訴えられぬよう、彼女の身体に視線を釘付けないことに努めたいた。

「私、感動しました。ここでバイドさせてください!」

「ええっ、急に?しかぁしいまとこ人手足りてるよなー」「だめぇ?」

 少女は猫なで声で言い、懇願の視線で店長を45°見上げた。アメシスト色の瞳はBLINGBLINGと輝いている。

「(嗚呼、可憐な……)しょ、しょうがないですな!では申し込み用紙持ち帰って、両親と先生の許可を……」

「いいえ、契約書はこちらから出します」

 少女はかばんから一枚のA4プリント用紙を店長に渡した。

「自前で申し込み用紙を用意するのか?最近バイドの子は攻めるな。えーと、何を書いてるんだっけ」

 老眼鏡をつけようとしたその時、後頭部が何かに触られ、テーブルが近けてきた。ドッ。視界が白に染まり、星が行き来した。次の瞬間、信じがたい痛みが額から伝わり、暖かい血液が額から鼻梁に流れ落ちる感覚がした。テーブルに叩きつけられたのだ。

「げへぇぇぇー!?」

 腰が抜けて、バランスが崩れたが、彼は床に倒れることがなかった。襟が掴まれて強引に立たせたからだ。目の前の少女に、しかも片手で。

「グググ……結構の量のジュースが出たんじゃないか」可愛いらしい少女が邪悪に笑った。「さあ、契約書にサイン……いや拇印を押せ」

 痛みに耐えながら店長は思考し、自分が少女の暴力に晒されていると理解した。しかしなぜ?

「うっ、ぐう……カメラが撮ってる、ぞ。こんなことしてただで済むとでも」「フッ」「ブワッ!」左頬に衝撃、張られたのだ。

「WARHAHAHA!人間の法律など、おれさまになんの意味もないわ!」

 少女が歯をむき出して哄笑し、その声はまるでボイスチェンジャーを通したかような地獄の底から響いた重低音が掛かっている。店長戦慄し、目の前にいるのは少女の皮を被った何かではないかと思い始めた。

「どうした、拇印のやり方がわからないのか?手伝ってやろう」

 少女は左足をテーブルに踏み体を乗り出し、驚愕で反応できていない店長の右腕を掴んだ。勿論この時彼女のパンティーはもろに露出していたがそれを見て興奮する余裕など店長にはなかった。そのまま彼女は店長の手で彼の血まみれた顔を拭い、A4用紙に拇印ところか掌印を押した。

「ワーッハハハハ!契約成立!」

 目的を果たした少女は無造作に店長を放った。

「ぎぇ」

 情けない声をあげて床に座り込んだ店長。しかしビジネスマンの本能が彼を突き動かし、震えている手で自分が掌印を押した契約書とやらを手に取った。未だに揺れている脳を必死に回転させ、文字に焦点を合わせた。

本人 本契約書をもって 半鼎魔氏 のシー・シェフとして シェフ半鼎魔氏の奴隷料理人になる 店内において名前に”半”をつけた料理(半チャーハン、半やきそば、半餃子など)をすべて一人分に調理し 残り半分は無条件にシェフである鼎魔氏に捧げる 本契約は本店が潰れるか契約者が死亡するまで有効 なお 契約書がいかなることで損失した場合 店が潰れ契約者が死ぬ
(発行 冥府インシュアランス・コアポレート)

「こ、こんなのデタラメだ……何の権力をもってこんなことを……!」 

「あんたらの政府や企業より遥かに権力を持ったところだよ。諦めな」少女ーー半鼎魔は契約書を取り上げて折り畳み、豊満な谷間に納めた。「まあいろいろあって脳が消化できないだろ。今日のこんぐらいで勘弁してやる」

 半鼎魔は尊大に床に座っている店長の前にしゃがみ、顎を持ち上げて強引に視線を合わせた、額に軽くキスした。

「明日からはたっぶり鍋を振らせてもらうからな。覚悟しとけよ」

「……」

 普段なら夢みたいに心が舞い上がるシチュエーションだが。店長から見て、微笑んでいる少女は人の心をつけ込み、搾取する悪魔そのものであった。

「じゃあな、ちゃんと休めよ」

 悪魔は店を出て、店長ががっくりと床に臥した。額を触ってみると怪我と痛みは夢のように消えた。俺はまさか夢を見ていたのではないか?きっとそうだ。今日は帰ろ。下準備は明日早めに来てから……どうやって家に帰ったか、彼はよく覚えていなかった。

 翌日の朝、店の前で笑って待ち構えている悪魔を見た時、すべては夢ではないと彼は悟った。

 そして悪夢が始まった。

(続く)


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