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辛い麺メント:重慶酸辣粉① #ppslgr

「モモノ、重慶って場所知っているか?」
「重慶、それは中華人民共和国の国家直轄市であり、国家中心都市、巨大都市、国務院に認められた中国の重要な中心都市の一つ、長江の上流地域経済の中心、現代の製造業国家の重要な基地、西南圏総合交通拠点である。 By Wikipedia。そして辛い麺文化が盛んでいる場所でもあると」
「その通り。辛い麺といえば四川成都の汁なし担々麵が代表みたいな感じだけど、四川省と隣接している重慶市もまた辛い麺で有名なところなんだ。そして今度、我々が食べる店とは、これよ!」

 俺は頭上に手を伸ばし、店の看板を指さした。

WE’RE HOT AND SEXY YO
WE’RE HOT AND SEXY YO
WE EAT UP SWEAT UP  THEN GET FUCKING HOT
LET THE HUAJAO AH  BLOW OUR BRAIN
WE GOT PAIN  WE GOT GAIN
 🌶HOT NOODLE SESSION🌶

八哥重慶酸辣粉だ!こいつは旨いぜ!」
「酸辣か、へぇー」

八哥重慶酸辣粉でググってみよう

 辛い麺に臨む際はいつもハイテンションのモモノがいまいちの反応を示している。

「どうしたモモノ。未知の辛い麺でワクワクしないとは?ハッ、まさか肛門が焼けたってッ!?」
「ちげーし。おれ、辛いのはいいけど、酸っぱいもの苦手なのよね。酢の物は特に」

 ほほう。一騎当千のパルプスリンガーで合気道マスターのモモノに思わぬ弱点が、ふーん。でも俺はここで退く気はない。

「まあそう言わずに。食べてみようぜ?お優しいことに、ここは辛さと酸っぱさを調整できるんだ」
「……無酸味も?」
「無酸味も!」
「そっか。なら大丈夫」

 大丈夫になったので、店に入った。

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「これがメニュー」
「いつもより増してセルが多いね」
「読めるか?」
「むむむ……読め……読める、気がしなしなくもないぞ」
「辛い麺語がわかるようになったな。でもゆっくり解読する時間もないから俺から説明する。左の縦列はトッピングの種類だ。ここの特餐は豚肉、鴨血、ワンタンが含まれている。下にあるこの綜合は豚肉、鴨血、大腸が入っている。これがおすすめ」
「なんかとんでもない食材聞いた気がするけど」
「さらに下は単品のやつ。これはショボいぞ。一番したに小菜があるけど今日は辛い麺メントなので触れない方針で」
「一品ぐらい注文してもいいじゃん?」
「そして上の横列。これは順に乾麺か湯麵か、麺の種類、酸度、辣度を選択できる」
「スルーしやがった」
「お望みのセルに✓シェフが要望に応じて作ってくれる、そういうシステムだ。例えば豚の綜合を、湯麵、紅薯粉、酸度3、辛さ5の場合いは、こうすればいい」

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「おぉ細かーい。おれはどうしよかな。安全牌でいくか。豚肉綜合、湯麵タイプ。麺は……この王子麺ってのはなに?」
「私を呼んだか?」
「「うおっ!?」」

 テーブルの横に、若かりし頃のオーランドブルーム似のエルフの王子だ前触れもなく現れた。

「呼んでねえよ急に現れるな!心臓が止まりかけたぞ!バンブーでも齧ってろ」
「バンブー?何のことだ?とりあえず今後は無闇に”王子”を口に出すのはやめてほしいね。ホットなダークエルフのベイブとイチャイチャの最中に呼び出されてたまったもんじゃない」
「だから呼んでないって自意識過剰かお前」
「高位なるエルフであるこの私は当然意識も高い。そして見たところ、二人はこれから昼飯か?ちょうどいい、いま腹べこなんだ」

 王子は図々しく俺の隣に座った。

「おい王子やめろ!お前がいると……」
「ねえあの人、オーランドブルームでは?」
「えっマジ!?随分若く見えるけど」
「ていうか急に何もない場所から現れなかった?」

 客たちの注目が集まってくる。このままだと落ち着いて辛い麺メントできん。

「おっと、忘れてた。むんっ」王子は目を閉じ、もったいぶって印を結ぶと、彼を中心に青白い波動が広がって店内を靡いた。

「って、よく見れば全然似てないわ」
「西洋人のイケメンはぱっとみて大体同じ顔だよな~」

 客たちは誰も王子が気にならなくなり、各自の麺やスマホに視線を戻した。

「魔法で私自身の存在感を薄くしたのさ。これで旁目からはだたのモブエルフ美男子しか見えない」
「へー、ジュクゴマスターも似たようなことしたね」
「消えてくれればいいもの……はよ注文を決めてくれ」
「王子だから、当然王子麺。湯麵、豚肉綜合、酸度3辛さ4で頼むよ」
「おれは豚肉綜合、湯麵、紅薯粉、酸度2辛さ5で行くか」
「モモノは無酸味しなくていいか?」
「まあちょっとしたチャレンジなつもりで」
「そうか。じゃあOK、渡してくるよ」

 俺は調理エリアに向かい、メニュー紙を店員に渡した。

「いま注文が混んでて少し待ってもらうけどいいよね?」と目が鋭い女将が言った。
「アッハイ。大丈夫で」
「OK。ごゆっくりどうぞー」

 なんてぞんざいな接客。過剰とも言えるほど丁寧な接客になれた日本人ならそう思うかもしれないが、みなみの国ではこれが普通なのだ。

「ちょっと待つことになるってよ」席に戻った俺は二人に告げた。
「おれは大丈夫すよ」とモモノ。スマホを取り出してソシャゲーアプリを起動した。
「それぐらいの時間は私とって、一瞬さ」と王子。スマホを取り出して通信アプリで♡や💋にまみれたメッセージを送り始めた。

 気まずい空気が7分ぐらい続いた。

「はい。豚肉綜合湯紅薯酸3辣5、豚肉綜合湯紅薯酸2辣5、豚肉綜合湯王子紅薯酸3辣4ね、ごゆっくりそうぞー」

 目が鋭い女将が麺椀をタン!タン!タン!とテーブルに叩きつけて去っていった。これがこの国では普通なのだ。それより麺だ。

「ククク……見て驚け、モモノ、王子、これぞーー」

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「重慶酸辣粉だぜ!」

(続く)

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