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辛い麺メント:重慶酸辣粉② #ppslgr

前回

よぉ、オレはマラーラー。もふもふがチャーミングポイントのフォックスヒューマンさ。本文を始める前に、外の連中が食べようとしている麺の構造を説明するぞ。

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順次に見ていこう。
①香菜、またはパクチー、コリアンダーとも言う。人によって好き嫌いが別れるハーブ。オレも好きではない。
②ピーナツ。辛い料理によく入れる。香ばしい上にサクサクの食感がいいアクセントをもたらしてくれる。
③豚肉。しゃぶしゃぶ用の安いやつだ。結構多めなのは嬉しい。
④腐皮、日本語では湯葉っていうんだっけな?
⑤鴨血。鴨の頸動脈を切って、そこから垂れ流した血液を集めて、豆腐状に固めた食品。鉱物質の風味が強い。弾力がある。(ちなみに台湾では家畜の血で作った料理が多数存在感する。もち米に血を染み込ませて蒸した米血糕がイギリスの旅行サイトVirtualtouristで世界十大怪食ランク1位の栄冠に登った。
⑥酸菜。ポピュラーな漬物。好き嫌いが別れる。
⑦小腸。日本ではモツというんだな。スープの下に埋まっている。本当だ。
大体こんな感じだ。ではやつらの実食を見守っていこう。

「これが、重慶酸辣粉だぜ!」

 深い褐色の麻辣スープと豊富な具材で麺が見えない。酢の酸味を帯びたむし上がる熱気が食欲をそそる。

「中々強烈っすね……」
「普通に美味そうだ」
「あっ、そういえば王子はベジタリアンではなかった?」
「私は自由奔放でね。好きなものは遠慮なく食ってしまうぞ」
「ほ」

 意味深にウィンクした王子を無視し、モモノは麺碗に箸を入れて、掬った。

「むっ、これは」

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「待てよ。モモノは確か右利きだったはず。なのに写真の中は左手で箸を持っている。どゆこと?」
「気にするほどの事ではない」
「アッアッアッアッ」
 王子の輝く掌があなたの頭に当たると、あなたは些細なこと気にしなくなった。

 姿現れた半透明の物体。モモノはしばらくこの不思議な麺を眺めた。

「これは……うどんサイズの、春雨?」
「いい例えだ。紅薯とはつまりさつまいものこと。さつまいもから取った澱粉でこういう麺ができるんだ」
「麺、否麺ってわけか。して、味はどうか……イタダキマス」

 箸で麺を摘み上げ、口に入れる。

「むっ」モモノは目を見開き、また咥えている麺を噛み切った。断たれた麺がぼたぼたスープに落ちていく。

「ボッホ!あっ、危ねえ!あまりにもツルツルでラーメン感覚で啜ったら辣油と帯びた麺が咽喉に直撃して悶えるところだった!」

 さすが歴戦の辛い麺戦士、迅速かつ正確な状況判断だ!

「そうだ。紅薯粉は表面が滑らかかつ弾力が強いので、辛い麺でなくても食べる時は要注意。気管に入ったら大惨事だよ」俺は適量の紅薯粉をレンゲに乗せて、スープと一緒に口に運んだ。うーむ、もっちもちの食感と一秒の時間差で来る麻辣スープの灼熱感。たまらない。

「しかし、スープの味があまり麺に染み込まないなこれ」モモノが用心しながら麺をはむはむ食べた。「ちょっとしたカルチャーショックよ」
「ああ。さつまいも澱粉の連結があまりにも強くてスープを跳ねのけてしまう。悪い事ばかりではないぜ?考えてみよう。これで辛すぎて一旦休憩に入っても、麺が伸びることはない。素晴らしいと思わないか?」
「麺が伸びるまでの休憩時間が必要な人はそもそも辛い麺をたべるべきではないと思うけど」
「……おっしゃる通りです」
「さて次はこの黒い豆腐みたいの行くか……これが血で出来たと聞くとちょと抵抗感が」

「ぶぇっほ、これがうぉご、昔の農家が家畜の血を無駄にしたくないためぶっふ、開発した食べ物だうぇーけっほ!」と王子がむせながら言った。彼は顔がトマトみたいに赤く、汗で髪の毛が額にべたついている。「……命を最大限まで利用、私は……嫌いでは、っらいっひ!」
「……無理すんな王子。そこに水があるぞ」

 俺はウォーターサーバーを指した。そう、この店は水を無料で提供してきみの戦いを支持するのだ。

「心配ごっほ無用、エルフの誇りにかけてへ、私がここでよわっはねをあげる訳には……いかん!」

 かっこいいセリフを吐いた王子。その鼻孔から一糸の輝く鼻水が垂れて、エルフの誇りやらは欠片もなかった。

 因みに王子麺とはこんな感じ。

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 ちぢれ面タイプだ。こちらはスープをよく吸うぞ。味は悪くないけど量が少ない。

「先人の知恵……そうか。よし!」モモノは腹が括った表情で、鴨血を齧った!

「もちゃ、わちゃ……」
「どうだモモノ、イケるか?」

 俺は問った。以降、辛い麺メントを続けるいけば、なんどでも血液食材に出遭うことになる、是非ともここで峠を越えて欲しい。

「ブラッディ……血が……うめぇへぇえ!!!」突如血相が変わったモモノ!鴨血をぱくぱくと食べていく!
「モ、モモノ!?」俺は警戒した。彼は以前も辛い麺メントを食べる途中ハイになって、大変なことになったからな。
「なにこれ!?血液なのにまったく臭みがなく、逆にスープの味がたっぷりしみ込んでやがる!豆腐にはない濃厚な味わい!鉄の味!おれ中にある獣が唸っているぜ!!!」
「お、おう。気に入ってくれてなにより。それより大丈夫?変身しそう?」
「何言ってんだ?変身ってはのはそう簡単にみせるもんじゃないだろ」

 興奮しつつも、理性は保っているようだ。これじゃ心配ないか。

「フーッ美味かった。このモツも、煮込んであるね。うまいよ。酸味がちょうどよくて食欲をそそるし、花椒が効いて頬の裏が痺れるぜ!新鮮な刺激がいっぱいだ。ありがとうよホイズゥ!」
「おう、気に入ってくれてなによりだぜ!」
「ふーはー……!ふーはー……!」

 顔が真っ赤で重く息を吸って吐く王子、どうも限界の模様。

八哥重慶酸辣粉、独断評価
辣 ★★★★(辛さ5の場合)
麻 ★★★★(辛さ5の場合)
酸 ★★(辛さ3の場合)
具 ★★★★★

「ご馳走さん。フゥー、辛かった!」

 完食したモモノはハンカチで汗だくになった顔を拭いた。俺のとなりで、王子がまた半分ぐらい残っている麺に苦戦している。

「ぶぐ、ちぃ……!」

 ほら涙まで流れて、もう見てなれねえぜ。

「王子、マジ無理すんな。そこまで苦しんで食べる必要はない。麺も伸びちまって不味くなったろ?」
「まただ……人間ができること、エルフで、王子たるこのわたひが、できないわっきゃは、らひぃ!」

 苦しげに麺を咥え込む王子に、モモノが話しかけた。

「王子の以外の一面が見れたな。ちょっと意外、辛さ4でこんなに苦しむなんて、王子の舌はおこちゃまでしゅね~」

 辛い麺を食べて緩くなった神経から冗談のつもりで言ったであろう。しかしそれが王子を潰す最後の藁となった。

「グゥーッッッ!」王子は箸の握ったまま拳を握った。顔が赤を通して白く発光している!「これ以上の屈辱、受ける謂れがない!王子、アウト!」

 現れた時と同じ、王子は虚空に消えていった。モモノが訝しげに俺を見た。

「あのぉ、おいホイズゥ、もしかしておれ、言いすぎちゃった?」
「ああ、でも心配ないじゃないか。女と遊んだら機嫌直るから」
「そうか、今度会ったら謝らないと」
「その詫びを受け取ろう」
「「うおっ!?」」

 また現れた王子!しかも首の周りにキス痕らしきいかがわしいあざがたくさんついている!

「ダークエルフのベイブにたくさん慰めてもらってきたぞ。辛い麺を食べることしか喜びを得られないうらなり坊やたちはさぞ羨ましかろう」

 俺とモモノは互いを見て、王子に向けて同時に口を開けた。

「「うるせえぞ、王子」」

(おわり)

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