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初めてのデパコス

初めてデパコスを買ったのは、28の春だった。

それまで日焼け止めに透明のパウダーだけで会社に行っていた筆者だが、あるとき友人の結婚式に招待された。まともな化粧品を持っていなかったので、仕方なくといった感じでデパコスデビューした。今ではそこそこメイクを楽しんでいる。そのときのことを書いていこうと思う。

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筆者は若い頃アトピー体質であり、化粧品というものを嫌悪していた。何を着けてもかゆくなるので、自分に合う化粧品はないものと思い込んでいた。社会人はメイクをしなければならない、というマナーに反発したいお年頃でもあったため、すっぴんのまま就活をし、適当な企業に入社し、すっぴんのまま数年働いた。

あるとき十年近い付き合いの男友達から、結婚式の招待状が届いた。一応見た目だけでも女である自分が出席したものかどうか悩んだのだが、彼に「学生時代の友達が少なすぎるから来てくれ」と言われて出席することになった。問題は装備品だ。

ドレスやらハイヒールやらバッグを揃えなくてはならない。どれ一つとして当時の筆者は持っていなかった。そして何より顔だ。友人のために、社会性と常識のある人間に見えるようメイクをしなくてはならない。

幸いなことに筆者には20代の初期に親戚の結婚式に出席したことがあった。式場でレンタルした着物を着せられ、式場に設置されたサロンでメイクと髪をセットされた。そのとき使った化粧品が、全く痒くならず、しかも素晴らしい仕上がりだったことを覚えていた。

Lで始まる、青いボトルの化粧水がある海外のメーカー。

インターネット技術のおかげで望むものはすぐに見つかった。ランコムだ。

例の化粧水は今では廃盤なようで見当たらなかったが、当時は鮮やかで透明な青いボトルの化粧水があった。それを目印に見つけたのだった。だが、それまで一度もデパートの化粧品売場に足を運んだことがなかった筆者にとって、ランコムのカウンターというものは敷居が高すぎた。怖くて入ることができなかった。

そこで今度はデパコスについてネットで調べた。初心者でも買いやすいブランド、対応が良いカウンターの情報、おすすめのコスメなど。

意を決して初めてカウンターに向かったのはポールアンドジョー。かわいらしいパッケージと保湿力の高い下地と猫で人気のブランドである。価格もそれなりだし、入門用としては手が出しやすい。

「結婚式に出るので、しっかりメイクしてる感が出るファンデがほしいです」

何かお探しですか?とお決まりのセリフを言ったBAさんにそう答えた。デパコスが初めてであることも伝えた。下地を目当てに行ったのに、カウンターに座らされてフルメイクしてもらった。下地、ファンデとチーク(アイメイクはプチプラでしていた)、そしてリップ。

なるほどこれならフォーマルな場に出ても恥ずかしくない仕上がりになった。しかもポールアンドジョーの化粧品は香りもいい。着けていて気分が上がる。なるほどこれがメイクの効果なのかと、筆者はそのとき初めて知った。

ボールアンドジョーでは下地のみ購入した。どうしてもランコムのファンデが忘れられなかったのである。


それから一週間ほど悩んだ末に、とうとうランコムを買うのに敷居の低い場所を見つけた。イセタンミラーという、一つの店舗に複数のコスメブランドが入っているお店である。普通のデパコスカウンターのように店員さんに声をかけることなく、自分で商品を選んでレジに持っていくこともできる。複数ブランドを比較しながら買うことができる、といろいろ便利なのがイセタンミラーだ。

早速次の週末に、イセタンミラーに行ってランコムのファンデを見た。…種類が多すぎてわからなかった。どの色が自分の肌に合うのか。リキッドとパウダーはどっちがいいのか。それから口紅も必要だが、フォーマルな場に合う、そして自分の肌色に合う色の口紅がわからない。

売り場の前で固まっていると、BAさんに声をかけられた。ファンデを探していることを伝えると「試してみますか?」と聞かれたので即、イエスと答える。

鏡の前に座らされ、下地と日焼け止めを兼ねたパウダーをはたいただけの肌をクレンジングされ、下地とファンデを着けてもらう。筆者は「きっちりメイクしている感が出るものを」と伝えただけで、あとは勧められるがままにタッチアップしてもらった。

鏡を見ると、そこには少しだけ大人になった自分がいた。きっちりメイクされた顔に、今度は服が合わないな、などと考えていたのを覚えている。

とにかくランコムのファンデは、敏感肌でアトピー持ちの筆者でも痒くならなかった(※個人差があります)。そのことに感動し、ついでにフォーマルな場にふさわしい色のリップもリクエストした。

それまで無色のリップクリームを塗る程度しか手入れをしていなかったのだが、BAさんはきちんと唇の手入れ方法を教えてくれた。唇用のスクラブを使うとすぐにつるつるになることを知った。一気に知識が増えていくのが楽しかった。

結局、3色ほど見繕ってもらった中から一番肌なじみのいいリップを選んで、ファンデと一緒に購入した。ランコムのリップはいかにも「口紅」の香りがして、それがまた大人になったような気分にさせてくれた。

高価なブランドの化粧品を買うのは初めてだった。立派なパッケージに入った口紅を見て「半分はケースの値段だよな」と思いながらも、バラのロゴが入ったリップを持つとテンションが上がった。


ポイントメイクはプチプラで揃えた。流石にフルメイクをデパコスで揃えるほどの財布力がなかった。だが、ベースとリップという目立つ部分をデパコスで揃えたことで、驚くほど自分に自身がついたことがわかった。その化粧品でメイクをして、ドレスと靴を買いに行った。デパコスでメイクをしていなかったら、ドレス売り場に近づくこともできなかったことだろう。


あのとき結婚式に招待してくれた友人にはとても感謝している。彼のおかげで筆者は少し大人になることができたのだ。今では自発的にメイクを楽しむようになった。自分の容姿は嫌いだが、メイクをするのは楽しい。そんな自己矛盾を抱えながらも、デパコスでメイクをすることで普段よりも少し堂々と外を歩くことができるのだ。


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