歴史サイクル:マグ・レーナの戦い2

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前書き

最後のほうになるとフィン・マックールが登場します。彼はこの時、九歳であり既に戦士たちの長になっていたようです。古老たちの語らいによれば、フィンが十歳の時に炎の息のアレンを殺した。ギラ・イン・ホヴデドの詩ではフィンが八歳の時に(推定)炎の息のアレンを殺したとある。つまり、「オーエンの亡命と復権」と「フィンの隠遁生活と表舞台にでる時期」がリンクしているようです。

本文

 さて、一方その頃のムグ・ヌアザの物語をここに伝えよう。彼は敵意を受け、恐ろしい出来事を経験した窮地を脱してグレガリー島に到着した。そしてエアディーンと夜のお付き合いを楽しみ、丁寧に傷を手当された。彼らは九日間島に滞在したが、とうとう飽いてしまい、オーエンは島を出て行こうと提案した。
「悲しいことです、あなたがこの島に滞在した時間は長かった。あなたがもし一晩この島に留まっていれば、アイルランドからの亡命が一年で済んだでしょうに。ですがあなたは九日間この島にいましたから、九年間アイルランドから追放されなければなりません。あなたは遠く離れてスペインに行くでしょう。私が道中の加護を授けますから、あなたはそれで安全にアイルランドに戻ることができます」
そうしてオーエンとエアディーンはこの詩を詠んだ。

<オーエン>
金髪の美しきエアディーンよ、
今こそ我らが海に乗り出す時、
八月の始まりに、
心地よい強風に吹かれて。
もしもエアディーンとその船団がいなければ、
クロフ・バリーの戦いで、
コンと彼の重戦士により、
一人も生き残らなかっただろう。
<エアディーン>
あなたはこのアイルランドを目にすることはないでしょう、
満九年間の終わりまで。
あなたは航海するのだから、
船団広がるスペインへと。
<オーエン>
我らがあなたと交際しに戻るまで、
どうか嘆きくださるな、気高き淑女。
道中の加護を下してください、
この遠征のため、エアディーンよ。

 さてムグ・ヌアザについてだが、彼は船を海に出航させ、九日間の航海の後に嵐の荒ぶスペインの岸辺に到着した。その当時の西スペインの王はミーナMiodhnaの息子のエベルであり、彼にはベーラBearaという美しい未婚の娘がおり、当世随一の美女として見なされていた。彼女は愛情を注がれ、誉れ高く育てられた。なぜなら彼女は常に五十人の侍女にかしずかれ、サンダルは精巧に黄金で作られていた。そして侍女たちの色とりどりの輝かしい衣服によって彼女の存在は照らされていたのだから。
 さて、スペイン王のもっぱらの悩みの種は娘が未婚であることだった。彼はドルイドのダドロナを前に連れてくるように命じて、娘が求婚すべき男性について知っていることを教えるように頼んだ。
「よく知っていますとも。彼女が求婚すべき者の血統はスペインの外から来ます。今夜彼はスペインにやってくるでしょう。王女様をエブロ川に向かって東に行かせなさい。すると彼女は大海の鮭の一匹である、紅の斑点をもち尻尾から頭まで輝かしい外皮の鮭が王者の川にいるのを見かけるでしょう。その皮を剥いで夫のための素晴らしい衣を作ってください」
 彼女はエブロ川に行き、そこでドルイドが話したように黄金の鮭を見つけた。そして紅の川を剥ぎ、それをオーエンのために輝かしい衣に仕立てた。オーエンはその夜に岸と波に歓迎をされるようにしてエベルの宮殿にやって来た。そしてドルイドのダドロナはそれを聞きつけてこのように言った。

岸から波のざわめきが聞こえる
音は兆しである―王の先触れ―、
碧海を越えてくる王は、
力によってアイルランドを手にする。
その者はオーエンなり、彼の勲は偉大となるであろう。
彼は高貴なるアイルランドを支配するだろう。
王の中の王は海を越えてくる後継者。
あなたはムグ・ヌアザの妻となるだろう。
この眼下にあるのはエベルの寒い半島。
音を聞けば岸のことはわかる。

 ドルイドはオーエンに出会うと、親し気に挨拶して歓迎してスペイン王のところに連れて行った。スペイン王は彼の来訪に喜び、彼は部下ともども部屋に盛大な席を用意された。そして宴席で熱烈に名誉をもって三日三晩もてなされた。
 その後、改めて彼らはエベル王に紹介されて、エベル王は彼らに冒険の目的を訊ねた。そしてオーエンはアイルランドを部下と一緒に追放された次第を彼に伝えた。それからスペイン王は彼らを厚遇してオーエンの部下たちには西スペインの四分の一を与え、オーエンを自らに並び立たせた。オーエンが王女に求婚する(までの)間、彼らはこのようにして長く過ごしていた。オーエンの部下たちはこれ以上に美しい女性は見たこともないし、もしもオーエンの妻になるのであればアイルランドから追放されてきたことにも後悔はないと言った。
 その頃、エベル王は盛大な集会を開催して、全てのスペイン人が高貴なる王の周りに集った。貴族や戦士たちはエベル王の息子のフロイヒ・ミレーサハの周りに集結し、女たちは気品があり技芸に秀でた王女ベーラの周りに侍った。そして集会の全ての群衆はオーエンの姿かたちを褒めたたえて、オーエン以上に美しい男性も、ベーラより魅力的な女性も見たことがなく、彼らは互いに求婚すべきだと言った。そしてドルイドのダドロナは王の前に呼び出された。王は言った。
「言って、オーエンにどうして私の娘を妻として求めないのか訊ねるのだ」
ドルイドは言って、その質問をオーエンに訊ねた。
「理由をお答えしましょう。なぜなら、私は(求婚して)妻を拒絶されることを不名誉だし似つかわしくないと考えているからです。ことに、私はこの国で亡命者と見なされるということを危惧しています。そのうえ、私はアイルランドの外では詩人や学者に与えることのできる資産を持っていません。しかしながら私は王女様のことを愛しておりますし、王女様を私にくださらなかったとしても陛下との友誼を期待できないにしても願っております」
ドルイドは戻ってエベル王に伝言を伝えた。そして王は言った。
「これが王としての返答である。娘に、オーエンの右手に座って、今夜彼に求婚するように伝えよ」
ドルイドはベーラにその言葉を伝えると、彼女は直ちに命令に従い、オーエンのために作った衣を侍女に持ってこさせるよう要望した。侍女はオーエンに衣を持ってくると、彼は鎧の上から衣を着ると、その輝きは集会のどこからでも見えた。それゆえ彼はオーエン・ティーレハEogan Taídhlech、つまり輝かしいオーエンとそれ以来呼ばれるようになったのだ。そして幸せな二人は、最良の吉兆に祝福されつつその夜を共に過ごした。このようにしてオーエンは六年近くをスペインで過ごして、ついにはベーラとの間に三人の子供、男の子と二人の姉妹が生まれた。詩人が言うように、男の子の名前はアリルAilillであり、二人の姉妹の名前はキーヴェルCaoimheallスコニァヴSoithniamhといった。

ベーラ、偉大なるエベル王の娘は、
アリル・オールムの母だった。
そして彼女の純粋なる娘は、
キーヴェルとスコニァヴ。

 しかし確かなことだが、彼はアイルランドに不在だったために郷愁と倦怠に囚われ、スペインを去ろうと考えるようになった。エベル王はこれを聞いて婿に相談し始めて言った。
「オーエンよ、もしもおぬしの言うアイルランドが簡単に揺らぐのなら、共にスペインの兵を送り込んで国土を刈り取り、(戦利品を)車に載せて、船に運び込み、スペインの一角に持ってくるのは簡単なように思える」
だがオーエンはこの話に満足しなかった。彼にとってうま味のある話ではなかったのだ。エベルはそのことに気づいて行った。
「では、私の息子のフロイヒ・ミレーサハと二千名の戦士たちを授けよう。彼らがおぬしの敵を倒す助けとなるだろう」
オーエンはこの話に喜び、アイルランド人たちの心を勇気づけた。
 (アイルランド人とスペイン人の)双方の軍勢とベーラと彼女の侍女たちのために、木船や革船の船団が用意された。オーエンは彼女をスペインに残して出発することに同意しなかったからである。そして人々はオーエンとフロイヒ・ミレーサハに従った。そして捲土重来に燃えた冷酷な軍勢は、用意された船団が待つ港へ向かった。そして彼らは怪物(のような船団)を進水させた。―暗く、恐ろし気で(旗などで?)色とりどりの船。滑らかで精巧な舷側をした安定性のあり力強い快速船。巧みに縫われた革船。―それらの怪物を寝床、広々とした快適な場所、つまり深く水が澄んだ入り組んだ海岸の入り江から、波穏やかで静かな広く雄大な埠頭を備えた港から船出させたのだ。全ての船は完璧に滑らかな長いブレードの櫂の列が船上に整備されていた。彼らは海流や荒れ狂う嵐に対して調子を合わせて力を合わせ団結し、熱心に迅速に手を止めることなく続けて漕いで行った。そして躍動する波頭の恐ろし気な大波と美しい船の舳先は(ぶつかり合って)まるで大声で傲慢に誇らしげに会話しているかのようだった。

―海の描写がひたすら続くので中略―

そして彼らはこのようにして、遅滞なく無事にグレガリー島の南岸にあるケルガの港に到着した。その後、エアディーンがオーエンに会うためにやって来て、彼を愛情たっぷりに歓迎させた。そしてアイルランドの近況を彼に伝えた。それはこの時にマンスターの貴族たちがカーン・ブイーのとある屋敷に滞在しているということだった。オーエンにとってエアディーンとの会話は楽しみであった。そして彼らは詩を作った。

ごきげんよう、気高きエアディーンよ。
戦いに勝利する小舟を有する者よ。
栄光の女性よ、まだあなたは残していますか、(思い出を)
私たちが以前いたこの島に。

はい、装飾されたチェス盤があります。
私たちが遊んだ豪奢な寝椅子の上に。
そして居心地の良い陽ざしの当たる小部屋も、
甘美な琴の音が聞こえたあの場所です。
王の繁栄は蘇ります。
あなたの到着に伴う幸運は
アイルランドの二つに分かたれた王権が
終わる時まで共にあることでしょう。
平原のコナラとマクニア、
ムグ・ラヴァとルギズの息子は、
今愉快なカーン・ブイーにいて、
諸王が一堂に会しています。
進み、上陸して、勇敢に振る舞い、
全ての船を放棄していきなさい。
あなたは一堂に会している
マンスターの諸王たちを見つけるでしょう。
彼らを殺してはなりませんが、人質を取りなさい。
これより賢明な助言はありません。
受け取りなさい、貴公子よ。名誉と畏敬を、
何であれエアディーンを喜ばせるものを。

「あなたの上陸に伴う兆しは良いものです、オーエン」
エアディーンはこのように言った。
「なぜなら(予言したように)オーエンがアイルランドから追放されてからこの日に至るまでは九年間経過していたのですから。そしてあなたの仇敵はこの間、あなたの所領を収奪していたのです。さあ、行って攻撃なさい。私が監視兵や側仕えの者たちをかく乱しますから、彼らはあなたが近づくのに気づかないでしょう」
 そしてオーエンは部下を引き連れてエアディーンの島の岸辺に行った。彼らは美しい島の海沿い土地で休み、エアディーンはその貴族たちに最初の宴会を堪能させた。
 それから南アイルランド王の息子のマアー・ミーヴェハMaghar Maoimhechがオーエンと話すために呼び出された。オーエンは彼にこのよに話した。
「マンスターの人々がいるカーン・ブイーに行って、”私がこの度アイルランドに到着して、大勢の外国人を連れている”と彼らに伝えろ」
 マアーはカーン・ブイーに行った。そこではマンスターの貴族たちが一堂に会して祝宴を開いていた。しかし彼はその伝言を届けることのできる場所で彼らに会うことができず、彼らもまた彼に気づくことがなかった。そこで彼はオーエンのところに戻った。オーエンはこれに不機嫌になって怒った。
「私が行って話します」
ドルイドのジャルグダヴサがこのように言った。彼は諸王たちがいるカーン・ブイーに素早く行った。彼は大勢の群衆の陽気な会話に耳を傾けて、貴族たちと話す許可を得ようとしたが、満足のいく答えは得られなかった。そこで彼は怒って脅すように彼らに話しかけた。暫くしてルギズの息子のマクニアが話しかけ、彼に熱心に近況を訊ねた。それからそのドルイドはオーエンがアイルランドに到来したことや、彼に人質を差し出して速やかに誓約するように要求していること、さもなくば彼が彼らのいる宮殿に怒涛の如く攻め込むだろうと言った。すると彼らは喜んで自らの手でオーエンと外国人たちを殺してやると言った。そしてドルイドは言った。
「それでは、私は行くこととする。激怒したオーエンが来た時にはくれぐれも百戦のコンの娘を祝宴の場に居させないようにしなさい」
そしてドルイドは詩を作った。

誰か話してみなさい、美しいカーンの
この宮殿にいる戦士たちよ。
答えてみなさい。原因は些細なことではありません、
気高く才気あふれる輝かしいオーエンにとって。
私がお前に話しかけよう、潔白なジャルグよ、
善意でもってルギズの息子が言った。
こちらに大勢でやってきた
彼らは生還できないでしょう。
サラ、見目好いコナラの妻、
姿麗しいコンの娘、
彼女をお前たちの中から追い出しなさい、
この屋敷にいさせないようにしなさい。
彼女を殺されないように。
軍馬のコナラは勇敢です。
ルギズの息子のマクニアも。
三つの戦いのダーレも。
ドゥルサハの息子のマーニも。
スペイン王エベルの息子、
フロイヒ・ミレーサハは起ちました。
名の知れた武勇の持ち主、
鎖をたゆませぬ男。

 それからドルイドのジャルグダヴサはオーエンに話に戻って、彼の御前で全ての貴族たちの回答を続けて言った。するとオーエンは外国人たちと共に起ちあがった。そして整列した戦闘大隊となってカーン・ブイーに向かって、ついにこれらの貴族たちがいる屋敷を取り囲んだのだった。皆がオーエンに服従するまで、彼らの一人も前に進み出ることは許されなかった。そしてコナラ、マクニア、東マンスター王であるフィアフラの息子のフランは彼らの手をオーエンの手のひらに載せた。彼らはオーエンに人質を差し出して忠誠を誓った。その夜、彼の差配で祝宴が開かれた。翌朝、彼らは元気よく起きると上王オーエンの周りに集まって、彼に対して家臣たちは皆人質を差し出した。それからオーエンは南アイルランドの王子であるマアーを呼び出して彼に言った。
「カサル・モールの息子のフィアハ・バキザ脚萎えのフィアハのところに行って、彼にこの度我らがアイルランドに到来したと伝えよ。そして、マグ・アガの戦いにおいて彼の父を殺害したのは百戦のコンだったとも。そこで、彼も当然知っていることだが、その二つ名を与えたのが奴なのだ。百戦のコンの全てに復讐するため、コンへの敵意を思い出させ、我らのところに来させ、レンスターの全戦力を今回連れて来させよう」
そして彼はこの詩を作った。

マアーよ、南へ行け、
英雄たちの住まうレンスターへ。
高貴なる行進のフィアハに言え、
私が軍勢を連れて来たと。
ここにいる戦力は大きい。
鋭い槍のフロイヒ・ミレーサハ、
そしてスペインの強力な軍団の
その数、二百名。
彼らはクルアハンを破壊するだろう―禁じられた行為ではない。
エウィンも見逃さない。
彼らがコンから王権を奪う
その時皆は彼らの武勇を目の当たりにする。
老練なアンガスの高貴なる息子、
猛きコナルコノート王コナルは彼の腕により殺される。
あなたが武勇を発揮したのと同じように、
このことを誠意を込めて伝えよ、マアー。

 マアーは伝言を携えて進んで行った。それからオーエンはジャルグダヴサを呼び出して言った。
「アルスターの二人の王、ブリアンの息子のブレサルとオヒー・コヴァのところに行け。彼らの父親を殺害したのは立法者フェリミコンの父であり、彼らに貢納と苦役を課しており、タラと周辺地域を無理に奪ったのはコンに他ならないのだから、コンと敵対して我らを援助してもらいたいと伝えろ」
 そのドルイドはその伝言をアルスターの人々に伝えに行った。そしてオーエンの全ての部下は彼の周りに集結して、ついに九つの戦闘大隊を編成した。レンスター軍は集結し、バロウ川の広い浅瀬に進軍した。アルスターの全軍はコンを廃位し追放するためフアド山の見張りの白い塚に向かって進軍した。その時、コノートを除くアイルランド全土の人々が反旗を翻して、コンはこの知らせを受け取るとタラと周辺地域を放棄した。コノート王コナルと配下のフィアナ騎士団を連れたゴル・マクモルナがやって来て彼に加勢した。コンが反乱軍から逃れてタラとその周辺地域及び部族から撤退したとの知らせをムグ・ヌアザは受け、言った。
「タラは真にアイルランドの王たちの原初の座だ。さて、奴が私を追ってマンスター二州を横断したように、今こそ私も奴を追ってコノートの国に入ろう」
 彼らはただちにデルヴナの南にあるマグ・ダ・ゾスに向かうと、彼らが不在の間はレンスター軍に防衛を信頼して任せた。翌日、今日ではアスローンと呼ばれている古の大きな浅瀬に進軍して、川岸の東側で夜営した。翌日、彼らはドゥブに到着し、ドリヴェルを経由して牛の湖で夜営した。翌日、メイヴの羊の土手道に行き、ドルイドのアルグヴナの息子のイーの平原Magh Aoiに入った。オーエンはそこに留まらずにクルアハンを略奪しイーの平原を破滅させることを望んでいたが、最終的にはコンとの同盟関係を維持していたコナラとマクニアがオーエンと交渉して足止めし、ついに彼は調停と領土の均等な分割という条件をコンに言い渡した。オーエンはどのように領土が分割されるべきか質問した。彼らは答えた。
「上王よ、和平の申し出のない戦いは良くありません。今回はコンにアイルランドの半分を与え、あなたが征服したアイルランドの半分からは手を引かせることにしましょう」
そしてドルイドのジャルグダヴサがオーエンの御前に呼び出され、コンのところに行って分割の提案するように命じられた。それから彼らは協議を続けた。
 一方、コンはというと、彼自身とコナル、そしてゴル・マクモルナモルナの息子のゴルと彼の戦士たちを引き連れて全軍でトバル・トゥルスクの淵に行き、オーエンの軍勢について報告を受けて、少し離れた丘に布陣する彼らを目の当たりにした。コンとコナルは彼らの行軍路や出来事や目標についてコナラとマクニアからの密使を受けて情報を得ていた。彼らはコンからアイルランドを半分以上は奪わず、戦うことにならないように、即座に軍の情報を渡していた。これはコンの軍勢の貴族たちを呆然とさせるものであり、コン自身もこの情報を聞いて、頭を屈めて手にした槍の柄を石突から先まで齧りつき、とうとう毒のある穂先によって白い歯が砕けてしまうほどだった。それから突如としてコンは立ち上がって、コナルとゴルと少数の部下の貴族を連れて密かに相談するために隔てられた場所に行った。そして彼はオーエンと外国人たちに対していくらかでも抵抗するか、さもなくば間違いなくアイルランドを彼らは失ってしまうだろうと強調した。つまり彼ら領主たちはアルスターやレンスターの人々まで一団となって敵対してきているために皆が追放されてしまうだろう。それからクルアハンのコナルは話して言った。
「我々はこれまで立ち向かってきたあらゆる困難と同じように、今回も振舞うべきだ。つまり、戦争の正義により奴らを追い出すのだ」
そして彼らは以下の詩を歌った。

<コン>
コナルよ、おぬしの助言を聞こう。
我らは大いなる災難に見舞われておる。
ほっそりとした指の運命アイルランドの雅称の王オーエンは奪ったのだ、
我らの手からアイルランドの半分を。
<コナル>
これまで為してきた通りに、為そう。
盾をかざし、
偉大なる長は仕掛ける、
ムグ・ヌアザに戦いを。
<コン>
アルスターの騎馬は我々を見捨てた。
俊敏な略奪者のレンスター人も。
それゆえ正当な理由がある。
他ならぬ私とお前だ、コナル。
我々は強力に終結するために待機しようではないか、
絢爛な衣服を着たゴルよ、
敵がお前の偉大さを目の当たりにするまで、
おぬしのどのような助言を聞こうか。

 この時、彼らが取り入れた助言は、イーの平原を迅速に敢えて放棄して距離を置き、女性たちや家畜の群れを守るために険しい小道や人里離れた荒野に疎開させ、彼ら自身は少数精鋭のまま進んで列をなしてムグ・ヌアザの大軍に近づいた。音をたてないように静かにムグ・ヌアザの大軍に近づき、円い森に着くとそこで夜営した。そしてコンは野営地を占める自軍を見て数の少なさに愚痴をこぼして、指揮下の部隊で二人か三人ごとに森全体に灯をともすように命令した。そうすればその様子を見た敵の目には脅威に映るだろうと。それから(オーエン軍の)多くの勇士たちがコン自身がいる灯りのところに来て言った。
「者ども、今、森がどのように見えるか?」
「一面が真っ赤な炎です」
コンのドルイドは、そこが永遠に赤い森と呼ばれることになる、と言った。それからドルイドのジャルグダヴサが条件としてコンにアイルランドの半分を委ねる和平案を携えてやってきた。コンは彼とは口を利かなかったが、コナルが回答としてオーエンの首席詩人を要求した。コンは話をするために相談役 ※1たちを呼び出した。それらはすなわち、コナル、ゴル、クルアハンの人々、イーの平原の英雄たち、ミデの貴族、ブレガの農民、イセから、オズヴァ、ノウス、ケルナ、ガヴラ、クレーテハ、タルティン、アルド、フレウィン、マラン、ベーラ、トルタンまでの人々、ルブネフの勇士たち、トールの一族、タラの集会の人々のことである。そして彼らは非常に長い間、これらの条件について特別な会議を行い、外国人たちがオーエンのもとを去って反旗を翻すことを期待して、オーエンにアイルランドの半分を委譲することに決めた。それから双方の陣営はアイルランドをどのように分割すべきか会議を開いた。
「アース・クリアス・メズリーから、アース・クリアス・ダブリンまでで分割するのが適切だろう」
このコナルの発言に、オーエンは同意した。彼らはこの分割を確認して夜を過ごした。両軍はその夜、互いに恐ろしく脅威に感じた。それで、(おそらく緊張のあまり出た汗により)彼らの間に流れた小川が恐怖の小川Glaise an Iomomhanと呼ばれている。朝になって彼らは起きると互いに分割と和平の約束を遵守した。彼らが一方のアース・クリアスから他方の間に気づいた分割の境界の土手山の名前がエスカー・リアダ ※2である。そして彼らが命令し終えると、オーエンは自軍と外国人たちを引き連れてマンスターに戻って行った。そしてフィン・マックールがオーエンのところに連れて来られた。彼は九歳であり長となっていた。なぜなら詩人たちが言うように、オーエンが追放された年にフィンが生まれたのだから。

それはフィンが生まれた時、
オーエンが追放された年、
彼の栄光の九歳の終わりに、
フィンは戦士の長だった。

 そしてカサル・モールの息子のフィアハ・バケザの要求に応じて、オーエンはフィンに彼の支配するアイルランドの半分における戦士の長の権利を与えた。
 これまで伝えてきたように彼らの間でアイルランドが十五年間分割され続けていた。これは六番目の ※3アイルランドの分割統治だった。すなわち、ケルヴナの息子たちの分割、ミレーの息子たちの分割、ケルヴナ・フィンとセヴェルギの分割、ユーゴニー・モールの分割、五大地方の分割、オーエン・モールと百戦のコンの分割のことである。コンが共同統治を譲歩したのは外国人たちが去ってしまうことに期待してのことだと、オーエンはその時に考えたので、コンと共同統治している限りは外国人たちを退去させないことを誓約した。そして彼らは詩人が言ったように共同統治の治世を行って時を過ごした。

十五年だったと私は言う、
オーエンとコンが共同統治したのは。
彼が死ぬまで。彼は誰も拒まぬ男、
鋭い暴力の獅子。

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補足

相談役 ※1
クルアハン/Cruachan、イーの平原/Magh Aoi、ミデ/Midhe、ブレガ/Brega、イセ/Aithe、オズヴァ/Odhbha、ノウス/、ケルナ/Cearna、ガヴラ/Gabhra、クレーテハ/Cleiteach、タルティン/Tailltin、アルド/Ard、フレウィン/Fremhain、マラン/Mallan、ベーラ/Bethra、トルタン/Tortan、ルブネフ/Luibhneachは地名。
トールの一族はClanna Tomairの訳。Tomairは北欧神話の神トールのゲール語形。ダブリン近郊にはトールの杜Caill Tomairと呼ばれる聖なる森が存在したがブライアン・ボルによって破壊された。また、ダブリンの貴族についてトールの善人maithi Tomairと呼称していた。よってトールの一族はダブリンに居住したヴァイキングのことだが、当然のことながら時代錯誤である。

エスカー・リアダ ※2
Eiscir Riada、直訳すると分割の道。伝承では人の手により国境として建設されたことになっているが、実際には最終氷河期に氷河が削った土砂が盛り上がるように堆積して形成された自然の地形であり、東西にほとんどまっすぐ続いている。ダブリンからゴールウェイの間に多い沼沢地帯の中で水はけがよく小高くなっているため自然と道として機能することになったようだ。古代からアイルランドに存在したと言われる五つの大街道の一つ、大いなる道Slighe Mhórはエスカー・リアダにつながる形で存在していたとされる。そして今なお、アイルランドの主要道路N6として利用されている。

六番目のアイルランドの分割統治 ※3
ケルヴナの息子たちの分割、とはケルヴァド・ミルヴェール/Cermait Milbelのことで、J.F. Campbellによればヴァリアントとしてケルヴナ・ミルヴェール/Cermna Milbheoilが紹介されている。つまり、ケルヴァドの息子のマクグレーネ、マクケーヒト、マククイルたちによる共同統治であり、ミレー族来寇の前のこと。
ミレーの息子たちの分割、とはスペインからアイルランドに来寇したミレーの息子であるエーレウォーンとエヴェルの兄弟による南北分割統治のこと。
ケルヴナ・フィンとセヴェルギの分割、とは先述のミレーの玄孫であるケルヴナ・フィンとセヴェルギの兄弟による南北分割統治である。セヴェルギの砦は現在のダンセヴェリックに地名として残っている。
ユーゴニー・モールの分割、とはミレーから数えて24代目の子孫にあたる上王ユーゴニー・モール/Úgaine Mórが行った22人の息子と3人の娘への領土の分割のこと。O’Flahertyの著作ではラテン語でヒューゴニウス/Hugoniusとある。
五大地方の分割とは、アルスター、レンスター、ミース、マンスターのこと。


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