フィアナ伝説:フィンに関する二つの物語

ケア=ドゥン・イアスカハ
キンクリー=ギャルティー山の東の丘

かつてバスクナの子孫のフィンはキンクリー《※1》にいた。フィンには長い間、妻がいなかった。そしてフィンはシュア川のほとりの漁師の砦ドゥン・イアスカハに行ったところで、牧人の娘が髪を洗っているのを見かけた。彼女はバダヴァル※2という名前だった。フィンはバダヴァルのところに行って、彼女と同棲した。
さて、フィンの里子兄弟であるドゥブ・ウア・ドゥブネ※3を殺したのはレンスター王国のカラ・リフィだった。ドゥブの血を引くのがディルムッド・ウア・ドゥブネだ。また、カラの名前よりカラの砦を意味するラース・カラという地名が名付けられた。
ドゥブが殺されるとフィンはすぐさまカラを捕まえに出かけた。しかしカラは西に行ってフィンの妻、あのバダヴァルの首を斬って東に持ち帰って行った。だが、フィンは彼の後を追い、彼の首を斬って西に持ち帰った。
このような出来事からキンクリーカラの頭という地名になり、歌となった。

輝かしいカラ・リフィ、
彼はどのような王にも屈しなかった。
彼の首は遠くに持ち去られたのは、
バダヴァルの地にそびえる山。

さて、フォサド・カナンはこのカラ・リフィとは同腹の兄弟の間柄だった。すぐにフォサドはフィンを待ち伏せしたのだが、終いには和平を結ぶことになった。フィンはフォサドのために酒宴を準備して招待した。しかし、フォサドは「死人の首なしに酒宴に臨まない」という誓約ゲッシュに縛られていた。だがそれは困難なことだった。なぜなら、コーマックの法により七年が経過するまでは誰も殺害されてはならないと定められていたのだ。
「しかし、殺人が権利として認められている場所がある」とフィンは言った。すなわちミドルアハーの道、フェルディアドの浅瀬、障害の浅瀬、ゴウランの小道、ノーアの浅瀬、骨の森、コナフラド、ルアハー・デガドにあるアヌの乳房山のことだった。そしてフィンはアヌの乳房山に行って人を殺そうと企てた。
「フィンが用意した兄のための酒宴に私たちもお相伴に預かりに行きましょうよ」
マクニアの娘であり、フォサドの姉妹であるテティは夫に話しかけた。その夫はフィン・マク・レガヴァンレガヴァンの息子という名前だった。チャリオットの後ろに妻が、前には夫が乗って、二人一緒で西に行った。
彼らがフィンの前を通り過ぎるとコンラの息子のカルフィアクラが槍を後ろから投げた。槍はテティを最初に貫き、その勢いのままフィン・マク・レガヴァンレガヴァンの息子の胸に刺さった。そうして二人とも死んでしまった。このような出来事があってからフィンはフォサドの不倶戴天の仇となった。
そして夫は妻が彼を傷つけたと勘違いしてこのように言った。
「お前のほうから吹いてきた突風で寒気がするぞ。妻よ」
妻は言った。
「そんなことを言うあなたの目は節穴ね。こんなものが体を貫いているんだから、私、もう死んでしまうわ。
カナンが勝ってマクニアの息子フォサドたちは生き延びたとしても、生きながらえようとしないでしょうね……」
この時からフィンとフォサドは生きている限り相争う不倶戴天の間柄となった。


さて、別の時代のことになるのだが、この時もフィンはキンクリーにいた。そして一日分の食事を用意するために毎朝、一人が豚を焼いて調理するように命じられていた。そしてその時はオシーンが調理するように命じられていた。オシーンは焼豚が出来上がったと思ってフォークの先に載せて寝藁の向こうにいる仲間に渡した。その時、何者かがそれをひったくって行ってしまった。オシーンはその何者かを追いかけてシュア川のネヴァンの浅瀬を渡り、それからオード、インウァン、ウィ・フェーランの坂を次々と通って、フェヴィンの平野の妖精塚の頂上に行った。しかし何者かが妖精塚の中に入ってしまった後に門が閉じられてオシーンは外に取り残されてしまった。
フィアナ騎士たちが起床したところにオシーンが帰還した。
「豚はどこにある」
フィンは言った。
「私よりも勇敢な誰かさんが取っていきましたよ」
オシーンは言った。
翌日はカイルテの番だった。だが豚は同じようにカイルテから奪われた。そうして彼は同じようにして戻って来たのだった。
「豚はどこにある」
フィンは言った。
「私は昨日奪われてしまった人ほど勇敢ではないのでね」
カイルテは言った。
「今度は誰が豚を料理するのかな。『新しいとげはいつだだろうと鋭い』というように、私の槍は準備してあるのだが」
フィンは言った。そしてフィンは左手に槍を持ち、右手でフォークの先に刺さっている豚を回して炙っていた。しかし何者かがそれをひったくっていった。フィンは槍で一撃見舞ったが、槍の切っ先はその背中にわずかに触れるばかりであった。そしてその何者かはまんまと豚を持ち逃げした。彼はエリーに行き、そしてケル・イフタル・レセトに行った――。
そしてその何者かがシュア川を七度飛び越えて行った――。
フィンはその者が妖精塚の中に入ろうとしているところを槍で突いて背中を貫いた。そしてフィンが妖精塚の門柱にまで手を伸ばしていたところに扉が閉まってきてフィンの指を挟んだ。フィンが指を口に入れていると嘆き声が聞こえた。
「なにごとだ!」
彼らは口々に言った。
「クルドゥブが殺された!」
「誰がやったんだ」
彼らは話し合った。
「バスクナの子孫のフィンだ」
彼らは皆で嘆いた。そしてフィンは言った。
(原文→英語に未翻訳なので省略)
そしてフィンは豚を胸に抱いて部下のところに戻った。



※1 キンクリー/Cind Chuirrig

ケアの町の西側に広がるギャルティー山の東端にある丘。カラの首(頭)を意味する。

※2 バダヴァル/Badamair
牧人の娘でもあり、詩にあるように地名でもある。

※3 ドゥブ・ウア・ドゥブネ
ディルムッドの父親。中世の物語や系譜ではディルムッドはこのドゥブという父親と、後述のカラ・リフィの娘のコフランの間に生まれた息子とされることが多い。この物語ではドゥブはカラ・リフィによって殺害されたとある。フィンとドゥブは同じ里親に養育された兄弟である。
しかし、キンクリーの地名伝承では、ドゥブを殺害したのはフィンであり、カラ・リフィは復讐のためにフィンの妻のバダヴァルを殺したとされる。
「ディルムッドとグラニアの逃亡/Toruigheacht Diarmada agus Grainne」ではディルムッドの父親はドンという人物であり、彼はフィンから追放された過去があり、その時にコフランとの間に子供(ディルムッド)ができたという設定となっている。

※4 カラ・リフィ/Curreach Liffy
レンスター出身の上王であるカサル・モール王の息子の一人。
綴りをを見れば気づく人もいるだろうが、リフィ川一帯のカラを意味する名前である。カラはキルデア州に広がるなだらかな平原地帯であり、馬の育成が盛んである。語源は競馬場のコースであり、はるか昔から今もなおカラ競馬場として有名だ。フィアナ騎士団の拠点であるアレンの丘アルムはカラ平原の北にある。
※5 フォサド・カナン
フォサド・カナンは物語中ではマクニアの息子とされているがこれは系譜的な混乱によるもので、マクニアの息子のマックコンの三人の息子たちである。

Baumgarten, R. (1986). Placenames, Etymology, and the Structure of Fianaigecht. Béaloideas, 54/55, 1–24. https://doi.org/10.2307/20522279

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?